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幼少期編

ピンチには魔王様降臨②

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ようやくケーキが焼けると、冷めるのを待ってから飾り付けをしていく。甘さ控えめの生クリームをくるくる。最初のは不格好だけど、慣れてくると綺麗な形にできるようになった。チゴの実を乗せて、トーマスさんお手製のオーナメントを乗せる。僕とノクスにそっくりのお人形がとても可愛い。これで、大好きなクリームたっぷりのケーキが完成!

「ノクスの所に届けてきていい?」
「すぐに持っていてあげなさい」
「トーマスさんありがとう! ベアトリス行こう」

皆にお辞儀をしてから、ケーキをトレイに乗せて厨房を出た。何度もケーキと前を交互に見ながら慎重に通路を進んでいく。落としたら大変だ。見つめていたら、僕も食べたくなってきちゃった。

鼻歌交じりに進んでいると、目の前から同じ歳くらいの綺麗な男の子が歩いて来ているのに気がついて歩みを止める。彼も僕に気がついたみたいで、あからさまに眉をしかめられた。

「お前、魔王様が連れてきた人間か」

赤みがかった橙色の瞳が睨みつけてくる。

「うん。僕、ソルっていうんだ。君は?」
「お前のような虫けらに教える名などない」
嫌われているみたい。でも、こういった反応には慣れている。笑顔を浮かべると、よろしくねって伝えた。早く行かないと、ケーキが溶けてしまう。
「ごめんね。もっとお話したいけれど、ノクスの所に行かなくちゃいけないんだ」
「っ……お前ごときが魔王様の名を呼び捨てるなど……。まさか、そのゲテモノを持っていく気か?」
「ゲテモノじゃないよ。トーマスさんと皆で一緒に作ったケーキなんだ。ノクスは甘い物が好きだって聞いたから、お仕事頑張ってるねって伝えたくて」

疲れてるときは甘い物が食べたくなるって兄様も話していたから。魔王城に来て数日、沢山良くしてもらっているから、僕もなにかお礼をしたいんだ。こんなことしか出来ないけれど、感謝の気持ちが伝わればいいなって思っている。

目の前の彼が一歩僕へと近づいてきた。首を傾げて、なに?って聞こうとしたとき、ケーキを持っていた手をはたかれて、ケーキが勢いよく床へと落下してしまう。

ベチャっと床にぶつかる音が響く。靴や壁にクリームが飛び散って、唖然とそれを見つめていることしかできなかった。

手に着いたのか、ハンカチで手を拭く彼。じわりと涙が溢れそうになる。皆で作ったケーキ……。ノクスに食べてもらおうと思って頑張って作ったんだ。喜んでもらえるといいねって皆言ってくれて……。

ベアトリスが慌てた様子で僕のことを彼から引き離す。僕達の間には崩れたケーキ。それから、不穏な空気が流れている。

「こんなもの魔王様のお口には合わない。虫けらは虫けららしく部屋で大人しくしていろ」

綺麗な男の子の口から吐き出される毒に全身が蝕まれていくような感覚がする。じわりと汗が手に滲む。
『お前みたいな危険な子はあの子に近づかないで! 大人しくしていて頂戴!!』
『お前に教育など不要だ。二度と私の前に顔を見せるな。大人しくしていろ』

両親から言われた言葉が脳内を駆け巡る。あ、……あぁ……謝らなくちゃ。僕……僕は…………。

「……ごめんなさい。そうだよね、僕またやっちゃった……僕は大人しくしてないと。それが一番だって教えてもらったのに。あの……教えてくれてありがとう」

いつだってそうだったじゃないか。やることなすこと裏目に出る。それなら、なにもしない方がいい。使用人と一緒に雑務をしたりしながら細々生きていないと。今までもそうしてきた。

魔族の皆は優しいから、勘違いしてたんだよね。僕は危険で、不要な人間だ。誰かに迷惑をかけることでしか生きていけない。

「へへ、失敗ばっかりだ。あ!ベアトリス、皆にケーキはあげられなかったって伝えておいて欲しいな。自分じゃ伝えられなさそうだから。それと、あの……あの……」

なにか言わないと。なにか……そうしないと泣いてしまいそうだから。ベアトリスが僕の背をそっと撫でてくれる。そんなことされたら本当に泣いちゃいそう。だから、ベアトリスから離れて、顔に無理矢理笑顔を浮かべ続ける。
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