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幼少期編
ピンチには魔王様降臨①
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シームルグを助けた日以来、部屋から出ることを許可された。必ずベアトリスと一緒に行動することが条件。嬉しくて、ノクスに飛びついてお礼を言ったのはついさっきのこと。
「シームルグを助けてくれたこと、深く感謝申し上げます」
「わ!顔を上げてよ!」
部屋に入ってくるなり、ベアトリスが深々と頭を下げてお礼を伝えてくれた。驚きすぎて、慌ててしまう。
顔を上げてくれたベアトリスは、大人しく抱っこされているシームルグを見つめながらへにょりと眉を垂れさせる。
「魔族にとって魔獣は家族のような存在なのです。とくにシームルグはとても貴重な魔獣です。本当に助かってよかった……」
魔獣のことをすごく大切に思っているんだって伝わってくる。
「思いを聞かせてくれてありがとう。ベアトリスとこんな風にお話できて嬉しいな」
ずっと仲良くなりたいと思っていたから。
「失礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした」
次は謝罪をしてくるベアトリス。手を取って、ニコッと笑みを返してあげれば、戸惑いがちな瞳が見てくる。
「謝らないで。これから沢山お話しようね」
「ええ……もちろんです」
嬉しいな。こうやって沢山の人たちと仲良くなっていけたらいいのに。魔族も人間も関係なく、友達になれたら素敵だと思うんだ。
「あのね、僕行ってみたいところがあるんだ。一緒にきてくれる?」
「もちろんです」
「ありがとう!あのね、厨房に行ってみたいんだ」
「……厨房、ですか?」
「うん!」
大好きなケーキがどうやって作られているのか見てみたい。美味しいケーキを自分で作ってノクスに食べさせてあげたいから。ふわふわ、しっとりの食感を思い出してよだれが出そうになった。慌てて顔を引き締める。
「ベアトリスはどんなケーキが好き?」
「……チーズでしょうか」
少しの間のあとに返された答えに、思わず笑みが浮かぶ。チーズケーキはまだ食べたことがないから、今度お願いしてみようと心に決めた。
ベアトリスの好きなものを知りたい。もちろん、ノクスやザイン、皆の好きな物も教えて欲しいんだ。好きを共有して、沢山笑顔になれたらきっと幸せだって思えるから。
「オレオールとシームルグはお留守番していてね」
オレオールは武器だから皆を怖がらせちゃうかもしれないし、シームルグは厨房に入れたら怒られちゃうかも。
「仕方あるまい。行ってくるがいい」
「ピッ!」
了承してくれたオレオールとシームルグにお礼を伝えて、ベアトリスと一緒に部屋をでた。
厨房に着くと、ベアトリスが先に中に入ってコック長に僕が来たことを伝えてくれる。入っていいと許可が下りたから、中に入る。最初に目に入ってきたのは火にくべられた大きな鍋。それから、沢山の調理器具。見たことがない物が沢山あってワクワクしてくる。
「この子が例の?」
コック長の問にベアトリスが頷く。それを確認したコック長が手を差し出してくれる。握り返すと、笑顔を浮かべて自己紹介。
「お邪魔します。僕、ソルっていうんだ!」
「わしはトーマスじゃ。シームルグの件は聞いておる。助けてくれたこと感謝するぞ」
「皆、知ってるみたい。なんだか恥ずかしいな」
「お前さんは魔王城じゃ有名人じゃからな。ところで、なにをしに来たんじゃ?」
ケーキの作り方を知りたいと素直に伝えれば、快く了承してくれる。嬉しくて飛び跳ねそうだ。泡立て器とボウル、ギムの実を轢いた粉に、コカトリスの卵、魔牛のミルクとそのミルクで作ったバータ。ズラリと並べられた材料達を見て目を輝かせる。
こんなに沢山の材料を使って、ケーキが出来てるなんて凄い! はやく作りたくてそわそわしてくる。
「まずはバターと砂糖を混ぜるのじゃ」
「うん!」
指示に従いながら材料を混ぜ合わせていく。
「すごい!透明だったのに、ふわふわのもこもこになったよ!」
卵の白身を一生懸命混ぜていたら、雪みたいになって驚いちゃった。他のコックさんも、僕に色々教えてくれて、なんとか生地が完成した。容器に流し入れて、数回トントンとして空気を抜き、レンガ造りの石窯でじっくり焼く。あとは待つだけだ。
「ケーキを作るのってとっても楽しいんだね!」
「そうかい。それはよかった。今度来るときはクッキーの作り方を教えてあげよう」
「本当!?ありがとうトーマスさん」
色んなものが作れるようになったら、ノクスに毎日お菓子を作ってあげるんだ。喜んでくれるかな。
初めて作ったケーキはノクスに一番に食べて欲しい。そう思ってしまうのはどうしてなんだろう。ノクスの顔を思い浮かべると心が温かくなって、抱きしめられたり、手を繋いだりすると幸せな気持ちになるんだ。
「ノクスは甘いもの好きかなあ」
ノクスがお菓子を食べているところをあまり見たことがないから、急に不安になってきた。もしも、嫌いって言われたら悲しいし、申し訳ない。
「魔王様はああ見えて甘党なんじゃよ」
トーマスさんが太鼓判を押してくれて、安心する。
「えへへ、なら心配いらないね」
今すぐに食べてほしいな。はやく出来ないかな~。美味しいって言ってくれるかな。心がふわふわと踊る。美味しいってノクスが言ってくれるのを想像したら笑みがこぼれた。
「シームルグを助けてくれたこと、深く感謝申し上げます」
「わ!顔を上げてよ!」
部屋に入ってくるなり、ベアトリスが深々と頭を下げてお礼を伝えてくれた。驚きすぎて、慌ててしまう。
顔を上げてくれたベアトリスは、大人しく抱っこされているシームルグを見つめながらへにょりと眉を垂れさせる。
「魔族にとって魔獣は家族のような存在なのです。とくにシームルグはとても貴重な魔獣です。本当に助かってよかった……」
魔獣のことをすごく大切に思っているんだって伝わってくる。
「思いを聞かせてくれてありがとう。ベアトリスとこんな風にお話できて嬉しいな」
ずっと仲良くなりたいと思っていたから。
「失礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした」
次は謝罪をしてくるベアトリス。手を取って、ニコッと笑みを返してあげれば、戸惑いがちな瞳が見てくる。
「謝らないで。これから沢山お話しようね」
「ええ……もちろんです」
嬉しいな。こうやって沢山の人たちと仲良くなっていけたらいいのに。魔族も人間も関係なく、友達になれたら素敵だと思うんだ。
「あのね、僕行ってみたいところがあるんだ。一緒にきてくれる?」
「もちろんです」
「ありがとう!あのね、厨房に行ってみたいんだ」
「……厨房、ですか?」
「うん!」
大好きなケーキがどうやって作られているのか見てみたい。美味しいケーキを自分で作ってノクスに食べさせてあげたいから。ふわふわ、しっとりの食感を思い出してよだれが出そうになった。慌てて顔を引き締める。
「ベアトリスはどんなケーキが好き?」
「……チーズでしょうか」
少しの間のあとに返された答えに、思わず笑みが浮かぶ。チーズケーキはまだ食べたことがないから、今度お願いしてみようと心に決めた。
ベアトリスの好きなものを知りたい。もちろん、ノクスやザイン、皆の好きな物も教えて欲しいんだ。好きを共有して、沢山笑顔になれたらきっと幸せだって思えるから。
「オレオールとシームルグはお留守番していてね」
オレオールは武器だから皆を怖がらせちゃうかもしれないし、シームルグは厨房に入れたら怒られちゃうかも。
「仕方あるまい。行ってくるがいい」
「ピッ!」
了承してくれたオレオールとシームルグにお礼を伝えて、ベアトリスと一緒に部屋をでた。
厨房に着くと、ベアトリスが先に中に入ってコック長に僕が来たことを伝えてくれる。入っていいと許可が下りたから、中に入る。最初に目に入ってきたのは火にくべられた大きな鍋。それから、沢山の調理器具。見たことがない物が沢山あってワクワクしてくる。
「この子が例の?」
コック長の問にベアトリスが頷く。それを確認したコック長が手を差し出してくれる。握り返すと、笑顔を浮かべて自己紹介。
「お邪魔します。僕、ソルっていうんだ!」
「わしはトーマスじゃ。シームルグの件は聞いておる。助けてくれたこと感謝するぞ」
「皆、知ってるみたい。なんだか恥ずかしいな」
「お前さんは魔王城じゃ有名人じゃからな。ところで、なにをしに来たんじゃ?」
ケーキの作り方を知りたいと素直に伝えれば、快く了承してくれる。嬉しくて飛び跳ねそうだ。泡立て器とボウル、ギムの実を轢いた粉に、コカトリスの卵、魔牛のミルクとそのミルクで作ったバータ。ズラリと並べられた材料達を見て目を輝かせる。
こんなに沢山の材料を使って、ケーキが出来てるなんて凄い! はやく作りたくてそわそわしてくる。
「まずはバターと砂糖を混ぜるのじゃ」
「うん!」
指示に従いながら材料を混ぜ合わせていく。
「すごい!透明だったのに、ふわふわのもこもこになったよ!」
卵の白身を一生懸命混ぜていたら、雪みたいになって驚いちゃった。他のコックさんも、僕に色々教えてくれて、なんとか生地が完成した。容器に流し入れて、数回トントンとして空気を抜き、レンガ造りの石窯でじっくり焼く。あとは待つだけだ。
「ケーキを作るのってとっても楽しいんだね!」
「そうかい。それはよかった。今度来るときはクッキーの作り方を教えてあげよう」
「本当!?ありがとうトーマスさん」
色んなものが作れるようになったら、ノクスに毎日お菓子を作ってあげるんだ。喜んでくれるかな。
初めて作ったケーキはノクスに一番に食べて欲しい。そう思ってしまうのはどうしてなんだろう。ノクスの顔を思い浮かべると心が温かくなって、抱きしめられたり、手を繋いだりすると幸せな気持ちになるんだ。
「ノクスは甘いもの好きかなあ」
ノクスがお菓子を食べているところをあまり見たことがないから、急に不安になってきた。もしも、嫌いって言われたら悲しいし、申し訳ない。
「魔王様はああ見えて甘党なんじゃよ」
トーマスさんが太鼓判を押してくれて、安心する。
「えへへ、なら心配いらないね」
今すぐに食べてほしいな。はやく出来ないかな~。美味しいって言ってくれるかな。心がふわふわと踊る。美味しいってノクスが言ってくれるのを想像したら笑みがこぼれた。
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