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第1章
異変 Ⅱ
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目覚めが悪い。
あんな夢を見ては当たり前だ。
だが咲恵は平然を装った。
平然を装って朝食を食べる。
舞華は既に家にいなかった。
母親と2人。
もちろん会話はない。
学校でも平然を装った。
あの子が何度か話しかけてきたが全部耳から流れ落ちていった。
全てが灰色。
春幸との思い出達は心の中で蓋をしてしまい込んだ。
蓋を開ければ最後に見たあの表情が飛び込んでくる。
まるで自分を否定されたかのように…寂しそうに笑っていた。
「(当たり前だ……あんな言い方されたら…いや、忘れよう…)」
卒無く学校を終える。
半日以上経過したが何をしたかぼんやりとしか覚えていない。
そんな日を何日か過ごした。
その日は記録的な大雪だった。
降り積もったいつもの帰り道。
雪が足を濡らしても気にせずにシャリシャリと音を立てて歩き続ける。
しばらくして咲恵はしゃがみ込んだ。
どうして傷つけるようなことを春幸に言ったのか。
本当はあんな事を言うんじゃなくて、
「お礼が…言いたかったの…に…」
怒りに身を任せてしまった自分の幼稚さに幻滅した。
「(忘れよう…もうあれは夢だったんだもん。虚像。春幸は虚像だから。)」
しかしそう思えば思うほど胸が痛くて、苦しくて。
苦しさで叫び声をあげる代わりに涙が溢れ出す。
自分なんていなくなってしまえ。
雪はボタボタと咲恵を覆い尽そうとする。
「咲恵ちゃんっ!!!」
上から勢い良く名前を呼ばれた。
咲恵は自分を見下ろす三つ編み姿のその子をぐちゃぐちゃの顔で見た。
「………か……こ……」
夏胡(かこ)はゆっくりとしゃがみ込み。
咲恵を抱きしめた。
「はい、少し熱いかもしれないけど…」
夏胡は目の前のテーブルに2つホットミルクが入ったマグカップを置いた。
テーブルはコタツになっており咲恵を冷やさないようにリビングから自室にわざわざ運んでいた。
咲恵は軽く会釈をするとゆっくりとカップを持ち唇に吸い付けた。
「(甘い…)」
だかそれが咲恵を芯から温めた。
「咲恵ちゃん…」
夏胡は向かい側に座るとジッと咲恵を見つめた。
「きっと…きっとこんなことを話したら気持ち悪がられるかもしれないけど…」
少し躊躇しながらも咲恵は少しずつ自分の身に起こったことを話し始めた。
夏胡は話を聞いている最中何も言葉を発さずに静かであった。
「これが最近身に起きてたこと…気持ち悪がられるね…」
呆れたようにちゃらけながら咲恵は頭をかいた。
しかし夏胡は何も言わなかった。
「……ごめん、こんなこと話して…キモいよね…?人に話せてすっきりしたし…これからはもう関わらなくていい…」
「咲恵ちゃん…」
夏胡が遮るように呟く。
「…っ!!!?ちょっ…泣いてんの!?」
涙を浮かべた瞳がグイッと近くまで寄ってくる。
咲恵は突然だったので思わず身体を逸らした。
「いっぱい…いっぱい…嫌な思いをして…悲しい思いをしたんだね…」
夏胡はまた元の場所に身体を戻すとグシグシと袖を使って涙を拭いた。
予想外の言葉に咲恵は驚いた
が、すぐに俯き首を横に振る。
「いや…そんなことをどうだっていい…自分のことはどうだっていいの…」
今まで母親からいろんな仕打ちをされてきた、嫌だったし悲しかった…だがそんなことよりも…
ただ思い出してしまうのは春幸の最後の表情だった。
全てを受け止めてくれた、背中を押してくれた彼に
なんて愚かな言動を投げかけたのか、
なんて浅はかなんだろう。
例え自分の中の虚像だとしても…自分が望むことを言わさせていたとしても
「春幸さんに会って話をするべきだよ」
またもや夏胡の予想外な発言に咲恵は一瞬止まった。
「…な?…え?」
「また夢の中で会いに行くべきだと思う!!」
「…い…いやいやいや!落ち着いて…」
「だって、春幸さんのおかげでこうして私達仲良くなれたんでしょ?」
にっこりと笑う。
「そう…だけど…でも…私が作り出した…」
「虚像だとしても、春幸さんはきっと咲恵ちゃんにとって大切な存在だと思うんだ。大切だから…嫌なことを言っちゃった時胸が苦しくなったんだよ。」
「大切……」
「しかもしかも、咲恵ちゃんはこのまま終わりでいいの?」
大きく首を降る咲恵を見ると夏胡は安心したようにまだ少し残ってたミルクを飲み干す。
「春幸は…話を聞いてくれるかな…」
あんな事を言った後で…あんな表情にさせた後で…果たして会って話を聞いてくれるのか…不安にかられた。
「大丈夫」
「分からないじゃん…」
「分からくない大丈夫だよ!」
「なんで分かるのよ」
「夏胡的直感」
「阿呆っ」
自信満々で鼻を鳴らす夏胡を見て…少し笑いが込み上げた。
あんな夢を見ては当たり前だ。
だが咲恵は平然を装った。
平然を装って朝食を食べる。
舞華は既に家にいなかった。
母親と2人。
もちろん会話はない。
学校でも平然を装った。
あの子が何度か話しかけてきたが全部耳から流れ落ちていった。
全てが灰色。
春幸との思い出達は心の中で蓋をしてしまい込んだ。
蓋を開ければ最後に見たあの表情が飛び込んでくる。
まるで自分を否定されたかのように…寂しそうに笑っていた。
「(当たり前だ……あんな言い方されたら…いや、忘れよう…)」
卒無く学校を終える。
半日以上経過したが何をしたかぼんやりとしか覚えていない。
そんな日を何日か過ごした。
その日は記録的な大雪だった。
降り積もったいつもの帰り道。
雪が足を濡らしても気にせずにシャリシャリと音を立てて歩き続ける。
しばらくして咲恵はしゃがみ込んだ。
どうして傷つけるようなことを春幸に言ったのか。
本当はあんな事を言うんじゃなくて、
「お礼が…言いたかったの…に…」
怒りに身を任せてしまった自分の幼稚さに幻滅した。
「(忘れよう…もうあれは夢だったんだもん。虚像。春幸は虚像だから。)」
しかしそう思えば思うほど胸が痛くて、苦しくて。
苦しさで叫び声をあげる代わりに涙が溢れ出す。
自分なんていなくなってしまえ。
雪はボタボタと咲恵を覆い尽そうとする。
「咲恵ちゃんっ!!!」
上から勢い良く名前を呼ばれた。
咲恵は自分を見下ろす三つ編み姿のその子をぐちゃぐちゃの顔で見た。
「………か……こ……」
夏胡(かこ)はゆっくりとしゃがみ込み。
咲恵を抱きしめた。
「はい、少し熱いかもしれないけど…」
夏胡は目の前のテーブルに2つホットミルクが入ったマグカップを置いた。
テーブルはコタツになっており咲恵を冷やさないようにリビングから自室にわざわざ運んでいた。
咲恵は軽く会釈をするとゆっくりとカップを持ち唇に吸い付けた。
「(甘い…)」
だかそれが咲恵を芯から温めた。
「咲恵ちゃん…」
夏胡は向かい側に座るとジッと咲恵を見つめた。
「きっと…きっとこんなことを話したら気持ち悪がられるかもしれないけど…」
少し躊躇しながらも咲恵は少しずつ自分の身に起こったことを話し始めた。
夏胡は話を聞いている最中何も言葉を発さずに静かであった。
「これが最近身に起きてたこと…気持ち悪がられるね…」
呆れたようにちゃらけながら咲恵は頭をかいた。
しかし夏胡は何も言わなかった。
「……ごめん、こんなこと話して…キモいよね…?人に話せてすっきりしたし…これからはもう関わらなくていい…」
「咲恵ちゃん…」
夏胡が遮るように呟く。
「…っ!!!?ちょっ…泣いてんの!?」
涙を浮かべた瞳がグイッと近くまで寄ってくる。
咲恵は突然だったので思わず身体を逸らした。
「いっぱい…いっぱい…嫌な思いをして…悲しい思いをしたんだね…」
夏胡はまた元の場所に身体を戻すとグシグシと袖を使って涙を拭いた。
予想外の言葉に咲恵は驚いた
が、すぐに俯き首を横に振る。
「いや…そんなことをどうだっていい…自分のことはどうだっていいの…」
今まで母親からいろんな仕打ちをされてきた、嫌だったし悲しかった…だがそんなことよりも…
ただ思い出してしまうのは春幸の最後の表情だった。
全てを受け止めてくれた、背中を押してくれた彼に
なんて愚かな言動を投げかけたのか、
なんて浅はかなんだろう。
例え自分の中の虚像だとしても…自分が望むことを言わさせていたとしても
「春幸さんに会って話をするべきだよ」
またもや夏胡の予想外な発言に咲恵は一瞬止まった。
「…な?…え?」
「また夢の中で会いに行くべきだと思う!!」
「…い…いやいやいや!落ち着いて…」
「だって、春幸さんのおかげでこうして私達仲良くなれたんでしょ?」
にっこりと笑う。
「そう…だけど…でも…私が作り出した…」
「虚像だとしても、春幸さんはきっと咲恵ちゃんにとって大切な存在だと思うんだ。大切だから…嫌なことを言っちゃった時胸が苦しくなったんだよ。」
「大切……」
「しかもしかも、咲恵ちゃんはこのまま終わりでいいの?」
大きく首を降る咲恵を見ると夏胡は安心したようにまだ少し残ってたミルクを飲み干す。
「春幸は…話を聞いてくれるかな…」
あんな事を言った後で…あんな表情にさせた後で…果たして会って話を聞いてくれるのか…不安にかられた。
「大丈夫」
「分からないじゃん…」
「分からくない大丈夫だよ!」
「なんで分かるのよ」
「夏胡的直感」
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