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2章 オダ郡を一つにまとめる

51話 準決勝戦

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 相撲の休憩期間中、サブロー・ハインリッヒは、ルルーニ・カイロに感想を求めていた。

「ルルーニ殿、いやカイロ卿と呼ぶべきか」

「どちらでも構いませんよ。ハインリッヒ卿」

「そうか。ではカイロ卿よ。ワシの開いた祭りはどうだ?」

「そうですね。領民たちの熱気溢れるこのような祭りは初めてで、楽しんでいます」

「であるか」

 当たり障りのない言葉で返してきたか。

 やはり油断ならぬ男だな。

 サブロー・ハインリッヒは、ルルーニカイロのことをこう称したが、ルルーニ・カイロはというと。

 あの返し方で大丈夫だったでしょうか。

 しかし、サブロー様も実用的な祭りを思い付くものです。

 本来なら危険だということをすぐに報告するところですがマーガレット様の覚悟をお支えすると誓いましたからガロリング卿に言うことはありません。

 ですが相撲でしたか。

 裸に布一枚、まわしというんでしたか。

 その状態でお互い取っ組み合い、周りの貴族の大半はサブロー様の狙いに気付いて居ないでしょうが。

 祭りで歩兵の適正を見極めるとは、全く油断ならない男です。

 タルカやナバルがやられたのも納得です。

 8歳の子供と話してるのに、まるで私の2倍は生きているような修羅場を経験してきている気がしますよ。

 やれやれ、マーガレット様がサブロー様のために古き物を壊そうと決心した気持ちが少しわかりましたよ。

 間違いなくサブロー様ならこのオダ郡を良くできるでしょう。

 ルルーニ・カイロもまたサブロー・ハインリッヒが油断ならないということを考えていた。

「では、カイロ卿、この後も楽しんでくれ。ワシはそろそろ、再開の合図をせねばならんのでな」

「私のことを気にせず。どうぞ準決勝と決勝でしたか?楽しみに拝見させていただきます」

「うむ。失礼する」

 サブロー・ハインリッヒがルルーニ・カイロの元を離れ、再開の合図に向かう。

「あの、マリー殿?私への疑いはまだ晴れませんか?」

「護衛として、若様の敵に対する警戒を弱めるつもりはありません」

「はぁ。まぁ良いでしょう。これだけは言っておきますが。私はガロリング卿ではなくマーガレット様に御仕えしているつもりです。マーガレット様がサブロー様の死を望んでいると?」

「私は元々マーガレット様の侍女でした。若様を愛していらっしゃるのは分かっているつもりです。ですが敵となった以上、1番危険なのもまた若様だとわかっているはず。だからこそ、若様と敵対する道を選んだのが許せないのです。そして、若様の元に貴方のような人物を送り込んできたことも。若様に何かあってからでは遅いので、警戒を緩めるつもりはありません。悪しからず」

「いえ、あの御方の護衛ならそれぐらいの警戒心の方が良いでしょう。その突き刺すような瞳で見るのさえやめてもらえれば、殺気が溢れてるのは、、ね」

「無理ですので、我慢してください」

「はぁ。そう警戒しなくても。僕自身は、サブロー様のことを買ってるつもりなのですがね」

「何か言いましたか?」

「いえ、何も」

 サブロー・ハインリッヒが再開の合図をする。

「皆の者、長らく待たせたな。今より準決勝第一試合を始める。攻撃は最大の防御ですが何か文句ありますとセル・マーケット、前へ」

 2人が短くサブロー・ハインリッヒの言葉に返事をすると土俵入りする。

「奇跡は、2度も怒らないと断言してやるぞ小僧」

「僕には負けられない強い思いがあります。僕を次男坊組合に迎え入れてくれた恩師と対決するため負けるわけにはいかないんです」

 登録名がやたら長いので割愛して、登録名が長い男と表記する。

 登録名が長い男は、その登録名の通り、防御を捨て、ひたすらツッパリによる押し出し、又は引き倒しを狙う。

 セル・マーケットは、ここまで使ってきた足を使った小回りでこれを回避し、脚を狙うが。

「おっと。そうだった。そうだった。小僧の得意な決まり手は、押し倒しだったな」

「!?」

 セル・マーケットの渾身のタックルに対して、登録名が長い男は、張り手による一撃で、沈めようとするがそれを寸前で交わすセル・マーケット。

「チッ。勘のいい小僧だ」

「ハァハァハァ」

「しかし、流石に疲れが見えるなぁ。このまま押し切ってやるよ」

 ツッパリで押し出しを狙う登録名が長い男だったがセル・マーケットは、疲れを利用して、土俵際ギリギリに立つ。

「セルーーーーー!!!良くやった。もう良い。父さんは感動した!」

 セル・マーケットの父もこれには応援ではなくここまでよくやったと労いの言葉をかけ、それに釣られて、領民も拍手で労っていたのだが次の瞬間、何が起こったのかわからなかった。

「勝者、セル・マーケット!」

「チッ小僧め。疲れを利用して、俺の攻撃を利用するとはよ。全く恐れ入るぜ。ハッハッハッハ。俺の分まで決勝戦、頑張ってくれ」

「はい。対戦ありがとうございました!」

 そう、セル・マーケットは、ツッパリによる押し出しを利用して、土俵際ギリギリで攻撃の当たる瞬間に身を翻し、脚を掛けたのである。

 これが決まり手となり、盛大に土俵外に出てしまった登録名の長い男、勝者が発表されて、直ぐに歓声が沸き起こった。

「俺は信じてたぜ!俺が推してた体躯の男に勝ったんだ。こんなところで負けるわけねぇってな」

「セル!!!お前は父さんの誇りだ。うっうっうっ」

「キャーカッコいいわ!!!」

 とめちゃくちゃ盛り上がった準決勝第一試合と違い、第二試合の方はというと。

「勝者、ガタイの良い男!」

 ここまでと同様に村一番の色男を軽々と投げ飛ばし、早々に決着を付けてしまった。

 ここまで、圧倒的だと皆、ここまで番狂わせを起こしてきたセル・マーケットに期待する。

 そして、決勝戦が始まるのだった。
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