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2章 オダ郡を一つにまとめる

50話 相撲で大興奮する民たち

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 集まった千人の参加者による相撲だったが、順調に進んで行き、一回戦が終わり、半分の500人が脱落し、2回戦でさらに半分の250人が脱落、3回戦終わりで125人が脱落し、残りは125人となったところで、1人シードとなり無条件で上がれることとなる。選ばれたのは。

「おいどんが不戦勝でごわすか?」

 この独特な話し方をする大男は、力士を彷彿とさせる筋肉質の身体をしていて、ここまで、投げ技で軽々と相手を投げ飛ばして地面に地をつけて圧倒的強さを証明した。その結果、誰もまだ戦いたくないということで、4回戦と5回戦の連続不戦勝となった。

「不服か?」

「おいどんとしては、戦いたいでごわすがそれが皆の総意なら謹んで受けるでごわすよ」

 ここまで圧倒的な強さを見せたこともあり、民からは、彼の不戦勝が決まると不評の嵐である。

「おい、何でアイツの試合が見られないんだよーーーーー」

「不戦勝とかせずに試合をみせてくれーーーー!」

 すっかりと男たちが汗を飛ばしながら組み合う姿に熱狂している民たち。

「鎮まれ皆の者。彼の者の試合が見たいのは、ワシも同じだ。しかし、勝ち残った者が彼とどんな戦いをするのか見てみたいとは思わんか?楽しみに待とうではないか」

 渋々納得する皆の前に1人の少年が現れる。この少年は、商人の産まれながら先程の大男との出会いを機に次男坊組合に加入した者で、名をセル・マーケットという。

「うおおおおお!セルーーーーー!頑張れーーーー!」

 一際大きな声援を送っているのは、彼の父だ。そんなセルの相手は、2回りほど大きな体躯の持ち主だった。

「ブハァ。なんだぁ。小せぇなぁ。一思いに捻ってやらぁなぁ」

「僕には負けられない強い思いがあるんだ。簡単には負けないぞ」

 誰もが小さいセル・マーケットが体躯の男に投げられて終わりだと思っていた。しかし、そうはならない小回りを生かして、足を重点的に攻める。

「うおおおおおお。良いぞ。そこだいけーーーーーセル!!!!」

 彼の声援を機として、今まで黙って見ていた民たちも声を出し始めた。

「おいおい。でかい巨体を生かして、投げ飛ばせーーーーちんたらしてんじゃねぇぞ!」

「キャー、小さくて可愛いわ。頑張ってーー」

 体躯の男は疲れてきていた。

「ハァハァハァ。ちょこまかちょこまかと動くんじゃねぇ」

「小さい僕でも大きい男に勝てるって希望を与えるんだ」

 疲れて膝にきていた体躯の男に渾身のタックルをかますセル・マーケット。

「うがぁぁぁぁぁぁぁ」

「嘘だろ。デカブツ、何負けてやがんだよ。応援してた俺の気持ちを返せ!」

「あの小さい子、勝ったわ。凄い。凄いわ」

「セルーーーーーー!!!最高だ。いやぁ2人とも良い試合だったぞ!!!!」

 敗者を罵る者もいれば、敗者を讃える者もいる。しかし、当の2人は。

「手をどうぞ」

「チクショーが負けちまったぜ。坊主、やるじゃねぇか。体格差を覆して勝ったんだからよぉ。必ず優勝しろよなぁ」

 セル・マーケットが手を差し伸べ、その手を取り立ち上がる体躯の男。その姿を見て、戦いもせずに罵っていた者たちは、自分の行いに恥じ入っていた。次の瞬間には、2人を讃える拍手が審判を務めていたサブロー・ハインリッヒから贈られた。

「いやぁ。これだから相撲は面白い。誰もが体躯の男の勝ちだと思っていたことだろう。それを覆し勝利した少年よ。大したものだ。名を聞こう?」

「さっサブロー様に、ほ、褒められるなんて、そ、そんな。ぼ、ぼ、僕の名前は、せ、セル・マーケットって、い、い、言います」

「そうか。ではセルと体躯の男よ。2人の正々堂々とした戦いを褒め称える拍手を贈ろう」

 こうして4回戦が終わり63人となり、5回戦が終わって32人となった。ここで、独特な話し方をする筋肉質の大男の試合になる。

「うっひょお。待ってたぜー。さっきの男みたいに負けないでくれよ。俺の期待はもうお前だけなんだ」

「見て、あの筋肉。一体どれだけ鍛えたらあんなふうになるのかしら。あの鎖骨のあたりとか凄いわ」

 そして、この独特な話し方をする大男の相手は。

「おいどんの相手は、お主は。久しぶりでごわすな?」

「クソッ。よりにもよってポンチョと当たるとはな。俺の運もここまでか」

 対戦相手の男は同郷の男で、この独特な話し方をする大男の知り合いだった。

「クソッ。重すぎんだよ。テメェは」

「どうしたでごわす?その程度でごわすか?」

 軽く捻ると一回転して、地面に寝転がらされる同郷の男。

「勝者、ガタイの良い男!」

 サブロー・ハインリッヒが彼の登録名で勝利を告げた。こうして、6回戦が終わり16人となり、7回戦が終わり8人となり、8回戦が終わって、勝ち抜いてきた強者が4人となった。

 独特な話し方をして、ここまで圧倒的な強さで、男たちを投げ飛ばしてきた登録名、ガタイの良い男。小さい身体を活かして、大きい身体の持ち主には真似できない小回りで、翻弄させて全体重を乗せた渾身のタックルが武器の少年セル・マーケット。ここまで外掛けという技のみで、相手を引き倒してきた登録名、村一番の色男。相手に攻撃する隙を与えず攻撃をし続け、相手を土俵の外に追い出して勝ち残ってきた登録名、攻撃は最大の防御ですが何か文句あります。名前などある人間は、珍しく。名前ありで残ったのは商人のセル・マーケットだけである。残りの3人は農民。農作業で培った体力と恵まれた身体を惜しまず使って勝ち上がってきた。

「ここで一度、休憩を挟みたいと思う。ここまで勝ち上がった4人には、最高の状態で最高の試合をしてもらいたいのでな。残り二試合となったが皆の奮闘を期待している」

 サブロー・ハインリッヒの言葉で、ここで一度インターバルを挟むこととなるのだった。
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