上 下
39 / 97
2章 オダ郡を一つにまとめる

39話 マルケス商会への来訪

しおりを挟む
 サブロー・ハインリッヒは、マルケス商会に向かう途中、過去を振り返っていた。

 あれは確かワシがまだ3歳の頃だったな。

 市場で、子供を買う老人を見たのは。

 父にあの老人が何をしていたのか聞いたら奴隷を買ったのだと教えてくれたな。

 奴隷と聞いたワシは、買われた奴隷の女の子がどうなるのか心配で跡をつけた。

 そこでワシが見たのは。

「やはりここだったかマルケス商会」

 過去の記憶にカチリと当て嵌まる商屋があった。

「若、知ってらしたのですか?」

「昔にな」

 出迎えの中にあの時見た老人の姿を見たサブローは確信する。

「うぬがセーバス・マルケス殿だな?」

「あっだったら何なんだよ!ハインリッヒ家のクソガキが何の用だ!」

「レオ、止めるのです!」

「止めるな兄者!恨み言ぐらい言わせてくれ」

 しかしレオは、それ以上何も言えなかった。

 いや、この場にいた全員がサブローの行動に、呆然と固まってしまった。

 サブローは、セーバスの前で、膝をついて手を付き頭を下げたのだ。

「セーバス殿、父の数々の無礼、平に御容赦願いたい。その上で御礼を述べさせてもらう。これだけ多くの子供達が奴隷とならずに済んだこと心より感謝申し上げる。貴殿こそオダ郡の良心だ。是非、若輩者で右も左もわからぬワシに力を貸して貰いたい」

「そ、そ、そ、そのようなサブロー様に頭を下げてもらうことなどしておりませぬ。ワシが勝手にやっただけのこと」

「いや、セーバス殿がおらねばこの子供たちは、父に使い潰されていた。誤って許されることではないが領主が領民を奴隷にするなどあってはならない事だ」

「おい、お前、本当にあのクソ領主の子供か?」

「クソ領主か。お前、面白いことを言うな。確か名はレオと申したか?」

「おっおぅ。って、何で知ってんだ!?」

「先程、そこの博識そうな青年が飛び出したお前にそう呼びかけていたのでな」

「そう言えばそうだったな。おぅ。俺の名は、レオ・マルケスだ」

「マルケスか。成程。セーバス殿は、子供を守るために養子にするか。己の子供ですら育てるのが大変なのにこれだけ多くの他人の子を育てるなどワシには到底できん」

「サブロー様は、不思議な御方じゃ。まるで、歳の近い人間と話しているような心待ちになりますわい」

「セーバス殿は、鋭いな」

「若?」

「いや、何でもない」

 ワシが死んだのは48歳よ。

 後2日で誕生日を迎えて49になるところではあったがな。

 そこからこちらに来て8歳を足せば、56年生きている計算じゃ。

 目の前にいるセーバスの歳は、さっきの言葉から推測すると50~60の間といったところか。

「サブロー様、私は大変驚いています。てっきり子供ばっかり買っている養父上のことを奴隷商人として罰しに来たのかと思っていました」

「確かに褒められた事ではないがワシは何よりも結果を重視する。それに今日、ここに来て確信に変わったのだ。やはりワシの目に狂いはなかったとな」

「それはどういう意味でしょうか?」

「ワシは、3歳の時、セーバス殿を見かけている。あの時、買われていたのは、9歳の少女だったかな?」

「!?ルミナのことですね。隠れてないで、出てきなさい」

「はい。養父上様」

 何もないところからにゃるりと出てきた少女は、やはりあの時に見た少女だ。

「一体どこから!?」

 ローが驚き戸惑う。

「これは珍しいですね。空間魔法の使い手ですか」

 負けじと何もないところからマリーが現れた。

「おっお姉さん、す、すっご~い。今、どうやったの?ねぇねぇ。どうやったの?」

「簡単ですよ。こうして、空間と空間の間に裂け目を作って、潜んで中から閉じれば、竜人族ならすぐにこれぐらいできるようになりますよ」

「竜人族?何いってんだ!ルミナはルミナだ。変なことを言うなよ女」

「レオよ隠す必要はあるまい。マジカル王国の人間ですらこれほど高度な魔法は使えん。ということは、この女性もまた亜人という事じゃ」

「マリー、術を解いてやれ」

「若様、良いのですか?まだ味方になると言質を頂いておりませんが」

「構わぬ」

「それでは」

 人間に擬態していた身体が色白で長い耳と金髪に青い瞳、エルフの姿となるマリー。

「ブハッ」

 布の面積の小さい服、この世のものとは思えない美しさにレオは鼻血を出して倒れた。

「こっこれは、美しいですね。レオが倒れてしまうのも。ハフッ」

 ルカもタラタラタラと鼻血を流して倒れた。

「若い2人には刺激が強すぎたか。もう良いマリー」

「かしこまりました若様」

 マリーは、再び、肌色の肌に眼鏡と黒い目の黒髪の女性になる。

「成程、これが噂に聞くエルフの変身魔法ですな。それにしてもサブロー様がエルフを抱えているとは、とするとやはりあのハザマオカでの噂は?」

「魔法だ」

「やはり、そうでしたか」

 マリーの変身魔法を見て、ルミナが近寄って来る。

「ねぇねぇ。お姉ちゃん、私も私もそれ使ってみたい!」

「はいはい。今、教えてあげますからね」

「わーい!」

 このやりとりを見ていたローがサブローに小声で話す。

「若、マリーが何だか嬉しそうなのは気のせいですかな?」

「いや、己と違う別の亜人種に会えて、色々と世話を焼きたいのかも知れんな」

「いつも若に世話を焼いているようにですか?」

「いや、あれは食い意地が勝ってるだけであろう」

「そういうことにしておきますか」

 一連のやりとりを見ていたセーバスは決心する。

「サブロー様!セーバス・マルケス、お願いがございます。この老骨で良ければ、サブロー様のお力となりたく」

「感謝する。こちらこそ、右も左もわからぬ若輩者に教えていただきたい」

「養父上、共々、世話になります」

「仕方ねぇな。ハインリッヒ家は、気に食わねぇがお前は別だ。手を貸してやるよ」

「レオ!素直に謝ってもらって嬉しかったんだろう?」

「あっ兄者!何言ってやがんだ!そ、そ、そ、そんなんじゃねぇよ」

「ほんと素直じゃないですねレオは」

 ルミナがサブローのところにやってきた。

「ねぇねぇ。この甘いの領主様が作ってるの?」

「あぁ。金平糖だな」

「ねぇねぇ、もっとある?ねぇねぇ、もっとある?」

「待て、今はない。帰れば」

「じゃあ付いてく。もっとマリーねぇねぇに魔法教えてもらいたいし、レオにぃの代わりに監視する」

「いや、しかし」

「構いませぬ。ルミナは、ここに居ても誰も魔法の扱い方を教えてやれませんのでな」

「寧ろ、マリーさんと居られる方がよほど良いかと」

「って、誰の代わりに監視だ!ルミナ、サブロー様に迷惑かけんじゃねぇぞ」

「レオにぃに言われたくない」

「ほんと可愛くねぇ!」

 こうして、サブローは、新たな仲間ルミナを加え、マルケス商会の協力を取り付ける事に成功するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

調教専門学校の奴隷…

ノノ
恋愛
調教師を育てるこの学校で、教材の奴隷として売られ、調教師訓練生徒に調教されていくお話

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...