上 下
40 / 127
2章 オダ郡を一つにまとめる

40話 貴族たちによる反サブロー連盟の発足

しおりを挟む
 マーガレット・ハインリッヒ、元の名前をマーガレット・ガロリングと言い、公爵家の御三家の一つガロリング公爵家の当主レーニン・ガロリングの娘である。

 当時伯爵家であったガロリング家は、領主であるハインリッヒ家との誼を通じるべく娘と合わせたところ意気投合した2人によって、思惑通り外戚となり公爵家となった成り上がり組である。

 レーニン・ガロリングには、オダ郡を意のままに操るという野望がある。

 そのため若かりし頃のサブロー・ハインリッヒに事あるごとに干渉していたが、子供とは思えない頭の良さと奴隷制や階級制に関して、疑問を抱くところに嫌悪感を示し、以降積極的に関わることはしなかった。

 ロルフ・ハインリッヒは、まだまだ若い暫くは安泰だろうと高を括っていたのだ。

 しかし、情勢はロルフ・ハインリッヒの戦死で大きく変わる。

 サブロー・ハインリッヒは、騎士爵位を賜っているレイヴァンド家以外の貴族家を引き連れずにタルカ・ナバルの連合軍に壊滅的な打撃を与え、あろうことかルードヴィッヒ14世からタルカを攻める大義名分を得た、これに危機感を募らせたレーニン・ガロリングは、同じくロルフ・ハインリッヒによって取り立てられた公爵家であるハルト公爵家当主のモンテロ・ハルト、カイロ公爵家当主のルルーニ・カイロと共に反サブロー連盟を発足。ロルフ・ハインリッヒの恩恵を少なからず受けていた貴族の大半がこれに参加、オダ郡を二分する事となる。

 だが、オダ郡でのことが外部に漏れることはなかった。

 公爵家の一つ、カイロ公爵家による徹底的な情報統制のお陰である。

 内外から攻められては、取った後の統治に影響が出ると説得されては、レーニン・ガロリングも受け入れるしかなかったのである。

 その旗頭に立ったのは。

「皆様、亡き夫ロルフの意思を継ぐべくこれだけたくさんの人たちに集まってもらえた事、感謝致します。我が息子、サブローは、奴隷制の撤廃だけでなく階級制の撤廃も視野に入れた動きをしています。その最たるがロルフのことを支援してくれていたグラン商会を含む商会の取り潰し、ロルフが敬遠していたマルケス商会との契約。これは、御用商人をサブローの都合の良いように変えただけのことです。貴方たちもこのまま行けば、取り潰され、その身分はサブローの周りの者たちに配分されるでしょう。それで良いのですか?私は嫌です。ロルフに恩を感じているのなら共に立ちなさい!このマーガレット・ハインリッヒが旗頭となりましょう!」

 うおおおおおおおおおと雄叫びのような声が上がり、皆が口を揃えて、サブローを許すなサブローを殺せと。

 その言葉を聞き、マーガレットは涙を堪えて、自分の果たすべき役割を演じている。

 サブローのこれからの統治のために古い人間は排除されなければならない。

 それは自分の役目なのだと。

 マーガレットは、父から旗頭となるように言われた時に躊躇した。

 それは、自分に息子と戦えと残酷な事だったからである。

 マーガレットは、息子のことを大切に思っている。

 だからこそ、亡き夫ロルフに砂をかけたのは、どうしてそんなことをするのと理解できなかった。

 でも今は違う。

 マーガレットは、サブローがあんなことをしたのは、こんなにめちゃくちゃにして、残していきやがって、尻拭いぐらいしてから行きやがれみたいなのが込められていたのだろうと。

 ロルフが亡くなって、3ヶ月しかたっていないが街の様子は、前より明るくなったと感じていた。

 グラン商会が牛耳っていた時より、マルケス商会になってからは、物価は安くなり、自由商売によって、農家も直販売という形で参入するものも出てきて、これがとにかく安くて美味しい。

 いつの間にか街の人の顔からは笑みが溢れているのだ。

 明らかにロルフが治めていた頃より豊かで幸せになっている。

 それを戻そうとする父の行動は止めなければならない。

 人が人らしく生きられる場所を作ろうとしている息子のためにそれが母として出来る最後のことだとマーガレットは、強く決意を固めた。

 マーガレットの演説が終わり、呼び止めたまだ若い貴族の男性。

「マーガレット様、貴方がサブロー様と戦う道を選ぶとは、思いませんでしたよ」

「カイロ卿こそ。亡き父君の側で、見てきたことが間違っていると改革をされていたように感じましたが、どうして参加しているのです」

「強いて言うならガロリング卿を暴走させないためですかね。サブロー様と戦うにしても情報統制すらしないのは、タルカやナバルによる再侵攻を招きますから。こう見えて私は、サブロー様を高く買っているので」

「成程、父に私がサブローと協力していないか確認してこいと頼まれたのかしら?情報統制の必要がなかったのは、父はここをナバルの領主ドレッドに売り渡して、ナバル郡管轄のオダ郡主にしてもらうためよ。貴方が何を言っても情報統制に今は無かったようね。ナバル郡主ドレッドは、父と密約を交わしているわ」

 マーガレットは、不気味な笑みを浮かべて、ここ数日で父からベラベラと聞かされたことをそれとなくルルーニに必要な情報を耳元で与えてやった。

 ルルーニはそれで全てを察した。

 この人もまたこのオダ郡を守ろうとしている。

 そして、それが成せるのは自分と同じくサブロー・ハインリッヒを置いて他にいないと。

 その露払いをしようとしているのだと。

 自分にはレーニン・ガロリングの暴走を止めることしかできなかった。

 だがこの人は、息子のために全て墓場へと持っていくつもりなのだと。

 一瞬だけ目を瞑ったルルーニは、マーガレットの心情を慮る言葉を他の貴族が不審に思わないように投げかける。

「成程、母としての覚悟ですか。辛く険しい道を選びましたね。微力ながら成就するようにお力添え致します」

「ありがとう。頼りにしているわカイロ卿」

 他の貴族が不審に思わない言葉で締めくくった2人の握手を見て、レーニンは疑っていたルルーニもこちらに付いたと安堵する。

 こうして、ガロリング公爵家を中心とした反サブロー連盟が発足された。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...