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1章 第六天魔王、異世界に降り立つ

11話 マジカル王国の使者との対峙

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 サブローは、マジカル王国の使者と名乗る目の前の男を見る。

 坊主のように綺麗に剃髪されて、光り輝く頭。

 三日月を寝かせたような口髭。

 3本に別れた髭。

 苦労の滲み出る容姿が外交官として、かなりの経験を積んでいる人物である事を窺わせて、緊張していた。

 まぁ、腹周りは太っていて、さぞかし良いものばかり食って、肥え太っているのは、残念なところだ。

「突然の来訪にも関わらず、御対応頂き感謝致します。マジカル王国の外交官を務めていますメルセン・アルフレッドと申します。メルセンと気軽にお呼びください」

「丁寧な挨拶痛み入る。サブロー・ハインリッヒじゃ。此度の御用件をお伺いしよう」

 メルセンは、レベゼンスターに頼まれた通り、見極めようとしていた。

 第一印象は、父が亡くなった後にも関わらず全く動じていない。

 とても8歳とは思えない程の胆力が備わっていると評価した。

「この度のナバル郡とタルカ郡の侵攻をお聞きし、何かお力になれることは無いかと」

「ほぉ。マジカル王国は、早耳なのだな。いや、知っていたのか。ハッハッハッハ」

 メルセンは、しまったと思ったがなんとか取り繕おうとする。

「とんでもない。商人のフリをしてこちらへ参る時にナバル郡とタルカ郡を通ったのですが兵たちが集められて、向かっていた方角がこちらだったので、侵攻していると予測したまでのこと」

「ほぉ。それだけでは侵攻していると断言はできぬと思うがな。それにうぬは、こう言った。此度のナバル郡とタルカ郡の侵攻をお聞きし、とな。さて、誰から聞いたのであろうな?」

「!!!」

 メルセンは、8歳の子供など簡単に丸め込めると考えていた。

 しかし、目の前の男は、自分の失言を拾って、的確に突いてきたのである。

 いつしか、メルセンの額には、大粒の汗が流れていた。

「フッ。すまぬ。先程、ちょうどその話をしていたのでな。うちの部下から聞いたのかも知れぬな。さぁ、額の汗を拭かれると良い」

 思わぬ助け舟に何の裏も読まないで飛びついてしまったメルセン。

「実は、そうなんですよ。ここに来るまでにオダ郡の兵士たちから」

「あり得ぬわ!」

 8歳とは思えない程の鋭い言葉がメルセンをさらなるどん底へと落とした。

「あり得ないとは?先程、サブロー殿が申していたことと矛盾しておりませんかな?」

「フッ。うぬは外交官に向かぬわ。簡単に人を信じるなど。概ね、8歳児のガキなど簡単にたぶらかせるとでも考えていたのではないか?このワシも。舐められたものだな。足元を見て、このワシを傀儡かいらいにでもするつもりであったか!このたわけが!」

 メルセンは、冷や汗が止まらなかった。

 目の前の男の発するそれは覇者の気質であったのだ。

 8歳児と侮った自分を責めた。

 こうなったら強気で行くしかない。

「そのような口を聞いて良いのですか?見たところだいぶお困りなのでは?マジカル王国の支援がさぞかし必要でしょう?」

 しかし、メルセンは帰ってきた言葉に驚愕する。

「ククク。ナバル郡とタルカ郡など恐れることなど何一つもない。それとな。ワシにそのような口を聞いて、後悔するのはマジカル王国の方だと思うが」

「このような小さな郡をマジカル王国が恐れると、バカも休み休み言ってもらいたいものです。こちらが手を貸してやると言ってるんですよ。意地を張らずその手を掴めば良いのです」

「そうかそうか。マジカル王国はそんなにもワシと手を結びたいのか。そこまでいうのなら考えなくもないぞ」

「初めからそう言っておけば良いのです」

 メルセンは、サブローの考えるという言葉を聞き、これでマジカル王国の傀儡にできると胸を撫で下ろしたのだが彼の次の言葉に完全に固まってしまった。

「では、人質を出してもらおうか!マジカル王国がどれほどの支援をしてくれるのか知らぬがこちらもそちらを牽制できる切り札が欲しいのでな。対等な同盟なら良かろう?」

「馬鹿な!?正気の沙汰とは思えない。貴方方、家臣も止めるべきでしょう。マジカル王国を敵に回して、勝てませんよ。ガルディアン王国の二の舞になりたいのですか!」

 しかしメルセンの言葉に誰も答えてはくれない。

 サブローが話を続ける。

「あのような出来レースの戦の何を見て、マジカル王国を恐れよというのか、是非とも教えてもらいたいものだ」

「出来レースですと?貴方は死んだ父親に対して、思うところはないのですか!」

「やれやれ。では、聞くが。どうして、死んだのが父だけなのであろうな。まるで、はなっから狙っているような動きだったと記憶しておるが、如何かな?」

 サブローの言葉にメルセンは言葉を失った。

 あの男は、父親の死が暗殺だということを確信を待って、話しているのである。

「!!!そ、それは」

「もう良い。それが答えじゃ。貴様の首を取っても良いのじゃが、しかし、こちらの言い分を伝えてもらわねばならんしな。即刻、国許に帰るが良い。これ以上、墓穴を掘らぬうちにな」

「うぐぐぐぐ。必ずや後悔しますよ。私のこの手を掴まなかったことを」

「後悔するのはうぬの方じゃ。このワシを侮ったこと、何れ後悔させてくれるわ」

「せいぜい、ナバル郡とタルカ郡に滅ぼされないように抗ってください。それでは、失礼する」

 メルセンは、一刻も早く帰って、この事をレベゼンスターに報告する。

「そうですか。御苦労様でした。ゆっくり休んでください」

「お役に立てず申し訳ありません」

 メルセンは、項垂れるように足早に去っていった。

 扉が閉まるとレベゼンスターは、笑みを浮かべながら呟く。

とんびを殺したらたかが出てきてしまいましたか。サブロー・ハインリッヒ、どうやら類稀なら才能の持ち主のようです。人材は宝。同じ国に産まれなかったことが残念で仕方ありません」

「我が主よ。暗殺なら任されよ」

「いえ。戦場に居たわけでもないのに父親の死を暗殺だと見破る程の慧眼けいがんの持ち主です。対策もしっかりとするでしょう。暗殺者が誰かわかっていないのに危険を犯す必要はありません。バルダル、君もゆっくり休んでください。サブロー・ハインリッヒは、何れ強敵となって、我が愛する祖国の前に立つでしょう」

「なら今のうちに始末を」

「できるならそうしたいですが叶いませんね。いや、サブロー・ハインリッヒの提案は、面白い手でしょうか?姫様を使えば、或いは。いえ、姫様を道具に使うなど、どうかしていましたね。その前に少しでもマジカル王国の国土を大きくするとしましょう」

「我が主の望む通りに」

 サブローは、舐められないように強気で出た。

 それが功を奏して、皆から尊敬の眼差しを向けられていたのだが、その後、自室に籠もって出てこなかったのだが、暫くして、マリーが血相を変えて『若様が、御出陣なされました』と報告するのだった。

 サブローの狙いは、何なのか?
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