18 / 47
18話
しおりを挟む
そして翌日、約束の時間が来た。おそるおそるドアを開ける。
「……誰もいない」
やっぱり昨日のことで愛想を尽かされてしまったようだ。
「……」
いじけた僕は物置部屋の隅で体育座りをした。
この地獄のような毎日のうち、この時間だけがちょっとした楽しみになっていたのに。自分でそれを壊してしまった。後悔してももう遅いが、後悔せずにはいられない。
僕から会いに行くことはできないから、こうして待つことしかできないのもやるせない。
「……」
約束の時間から一時間が過ぎた。やはりヴァルア様は来ない。きっと明日も来ないだろう。
まあ、アリスの言う通り、これでよかったのかもしれない。愛なんてものを与えられても、僕の手に余るだけだ。
うん。諦めよう。諦めるしかない。
そう思って立ち上がろうとしたとき――
勢いよくドアが開いた。
驚いた僕は、部屋の隅で身を縮める。
息切れした誰かがズカズカと中に入ってくる。
「!!」
ヴァルア様だ。ヴァルア様はあたりを見回し、僕に気付かなかったのか深いため息を吐いた。
「間に合わなかったか……。はぁ……」
それでもすぐに帰ろうとはせず、テーブルに腰を落ち着けた。
彼は息を整える間もなく、鞄から紙を取り出し読み始めた。
僕はおそるおそる、物陰から顔を出した。
「あの……。ヴァルア様……?」
「うわぁぁ!?」
僕が待っているとは思いもしなかったようだ。驚きすぎたあまり、床に尻もちをついた。
「えっと……来てくれたんですか……?」
「あ、ああ……。君こそ、待っていてくれたんだね……?」
「……あの、えっと、お、怒っていないんですか……?」
「なんのことだい?」
「えっと……昨日の贈り物を……投げ捨ててしまったこと……」
ヴァルア様は「えっ?」としばらく考える仕草をしてから、大口を開けて笑った。
「ああ! あのことかい? いやいや、どうして怒ることがある?」
「えっと、ご、ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ。それより、せっかく会えたんだ。こっちに来てくれないか」
「は、はい……」
ヴァルア様の隣に座ろうとしたら、そこじゃなくて彼の脚の間に座れと言われた。僕が大人しくそこに座ると、ヴァルア様に抱きしめられた。
「あれから、君の欲しいものを考えていたんだ」
「欲しいものなんてありません」
「いいや、俺は気付いたよ。君が欲しいもの、それは人のあたたかみだ」
そう言って、ヴァルア様は一枚の紙を手渡した。さきほど念入りに読んでいたものだ。そこにはびっしりと文章が書かれている。
「君に手紙を書いてみた」
「手紙……。はじめてもらいました」
「それは嬉しいな。受け取ってもらえるかい?」
「は、はい……。ありがとうございます」
ヴァルア様は満足そうな笑みを浮かべ、僕の頭にキスをした。
「こうして手紙を渡したり、抱きしめたり、キスをしたり……そういうのが、君にとって嬉しい愛の形なんじゃないかと、俺は思ったんだ」
「……はい。嬉しいです」
相手がどんな思いで贈り物を選んだのか、その好意が大事なのだと、アリスは言っていた。僕はそれが少し分かったような気がした。
ヴァルア様が僕の頬に手を添える。そして目を閉じた僕にキスをした。
「俺たちさ、出会って二日でセックスをしたとは思えないね」
「あはは。確かにそうですね。そういえばあれからあなたと一度もしていません」
「だって、セックスを求められるのはあまり好きじゃないだろう?」
「え、あ、まあ。そうですね?」
そんなことを言った覚えは一度もないんだけど。否定するのも癪なので、そのままにしておいた。
「……誰もいない」
やっぱり昨日のことで愛想を尽かされてしまったようだ。
「……」
いじけた僕は物置部屋の隅で体育座りをした。
この地獄のような毎日のうち、この時間だけがちょっとした楽しみになっていたのに。自分でそれを壊してしまった。後悔してももう遅いが、後悔せずにはいられない。
僕から会いに行くことはできないから、こうして待つことしかできないのもやるせない。
「……」
約束の時間から一時間が過ぎた。やはりヴァルア様は来ない。きっと明日も来ないだろう。
まあ、アリスの言う通り、これでよかったのかもしれない。愛なんてものを与えられても、僕の手に余るだけだ。
うん。諦めよう。諦めるしかない。
そう思って立ち上がろうとしたとき――
勢いよくドアが開いた。
驚いた僕は、部屋の隅で身を縮める。
息切れした誰かがズカズカと中に入ってくる。
「!!」
ヴァルア様だ。ヴァルア様はあたりを見回し、僕に気付かなかったのか深いため息を吐いた。
「間に合わなかったか……。はぁ……」
それでもすぐに帰ろうとはせず、テーブルに腰を落ち着けた。
彼は息を整える間もなく、鞄から紙を取り出し読み始めた。
僕はおそるおそる、物陰から顔を出した。
「あの……。ヴァルア様……?」
「うわぁぁ!?」
僕が待っているとは思いもしなかったようだ。驚きすぎたあまり、床に尻もちをついた。
「えっと……来てくれたんですか……?」
「あ、ああ……。君こそ、待っていてくれたんだね……?」
「……あの、えっと、お、怒っていないんですか……?」
「なんのことだい?」
「えっと……昨日の贈り物を……投げ捨ててしまったこと……」
ヴァルア様は「えっ?」としばらく考える仕草をしてから、大口を開けて笑った。
「ああ! あのことかい? いやいや、どうして怒ることがある?」
「えっと、ご、ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ。それより、せっかく会えたんだ。こっちに来てくれないか」
「は、はい……」
ヴァルア様の隣に座ろうとしたら、そこじゃなくて彼の脚の間に座れと言われた。僕が大人しくそこに座ると、ヴァルア様に抱きしめられた。
「あれから、君の欲しいものを考えていたんだ」
「欲しいものなんてありません」
「いいや、俺は気付いたよ。君が欲しいもの、それは人のあたたかみだ」
そう言って、ヴァルア様は一枚の紙を手渡した。さきほど念入りに読んでいたものだ。そこにはびっしりと文章が書かれている。
「君に手紙を書いてみた」
「手紙……。はじめてもらいました」
「それは嬉しいな。受け取ってもらえるかい?」
「は、はい……。ありがとうございます」
ヴァルア様は満足そうな笑みを浮かべ、僕の頭にキスをした。
「こうして手紙を渡したり、抱きしめたり、キスをしたり……そういうのが、君にとって嬉しい愛の形なんじゃないかと、俺は思ったんだ」
「……はい。嬉しいです」
相手がどんな思いで贈り物を選んだのか、その好意が大事なのだと、アリスは言っていた。僕はそれが少し分かったような気がした。
ヴァルア様が僕の頬に手を添える。そして目を閉じた僕にキスをした。
「俺たちさ、出会って二日でセックスをしたとは思えないね」
「あはは。確かにそうですね。そういえばあれからあなたと一度もしていません」
「だって、セックスを求められるのはあまり好きじゃないだろう?」
「え、あ、まあ。そうですね?」
そんなことを言った覚えは一度もないんだけど。否定するのも癪なので、そのままにしておいた。
35
お気に入りに追加
719
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
神官、触手育成の神託を受ける
彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。
(誤字脱字報告不要)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる