たとえ番でないとしても

豆狸

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11・たとえ鶏肉のシチューよりも優先順位が低かったとしても

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「精霊王様っ!」
「妃殿下?」

 私は、オレステス様を押し退けるようにして精霊王様の御前に飛び出しました。
 もし私のせいで精霊王様が怒っているのだとしたら、関係のない彼を巻き込むわけにはいきません。
 離宮を囲む森の大地、落ち葉に覆われた場所に額を擦り付けるようにして声を上げます。

「申し訳ございません。言い訳になりますが、昨夜精霊王様のお名前を出したのは私の誓いが真実だと理解してもらうためでした。精霊王様を貶めようなどという考えは露ほどもございません。けれどもご不興をお買いしてしまったというのなら、お詫び申し上げます。すべての罪は私にあります。オレステス様やソティリオス様、近衛騎士隊の方々やカサヴェテス竜王国の民人には関係のないことです。罰をお与えになるのなら、私だけにお願いします」

 精霊王様が小首を傾げました。
 巨大な狼のお姿なのに、そうしていると仔犬のようで可愛らしく思えてしまいます。

『……罰? なんのことやらわからんな。昨夜のことなど知らん。吾は……』

 そう言いながら、精霊王様が私に近づいてふんふんと鼻を鳴らし始めました。
 こんなときなのに、鼻息がくすぐったく感じます。

『うむ。間違いない、そなただ。……我は、そなたに頼みがある。そなたにしか出来ぬことだ』
「頼み……でございますか?」

 どういうことでしょうか。
 真のつがいである竜王ニコラオス陛下とサギニ様のために身を引けとでも言われるのでしょうか。おふたりにとっては、途中で現れた私のほうがお邪魔虫です。
 竜王陛下をつがいだなどと思い込んでいる愚かな女など、消えてしまったほうが良いのかもしれません。けれど今は、今だけは、陛下の御身がどうなるのかはっきりするまでは、ここに居させてほしいのです。

『……ん?』

 私を探っていた精霊王様の鼻先が、べつの方向へ向きました。
 離宮のある辺りです。
 先ほどよりも激しく鼻息を吹き、紫色の瞳を煌めかせて言います。

『美味そうな鶏肉の匂いがする!』

 ……鶏肉?
 よくわからない発言に目を丸くしていた私の代わりに、オレステス様が答えました。

「ああ、兄上が妃殿下のご夕食を離宮に運んできたのでしょう」

 森は広いので、本宮殿から離宮への道はたくさんあります。

「今夜は鶏肉のシチューなんですよ。朝、護衛任務交代の前に厨房へ摘まみ食いに行ったら料理人が煮込み始めてました。うちの料理人のシチューは絶品ですよ、精霊王様」
『そうか……』

 チラッチラッと、精霊王様から視線が来るのを感じます。
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