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11章

288話 浸食する宇宙猫

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「スキンくれてやるんだから暫く着なさいよ」
「消費しないからって本気過ぎて引くんだけどー!」
「その代わり、配信はずいぶんと盛り上がったんじゃないの?」

 いや、まあ、と口ごもっているのでよっぽど図星のようだな。どうせスキン券余ってるからくれてやっても全然かまわないんだけどな。

「インベントリアイテムじゃないから譲渡するのめんどくせーな、これ」
「じゃあいいよう」
「めんどくさいのより面白さが勝ってるからダメだな」

 ポンコツピンクのアカウントIDを探すのにさらに時間が掛かってしまったので、譲渡するのに数分かかったが特に問題なく、渡せたので良し。リアルマネーが絡んでくるとこの辺はしっかり管理するってのは信用できる。
 そういえばこのゲーム、RMTも別に咎めないらしい。ただ、当たり前な話になるのだが、其れ関係のトラブルは一切運営は関わらないから自己責任だと。

「いいじゃない、私とお揃いよ?」
「うぇー、んー、まあ、いいけどさあ」

  口からどばーっと水を吐き出してる猫のTシャツスキンにしてからうーんとずっと唸っているポンコツピンクを見て指をさしてゲラゲラと笑う。ピンク髪はこういう奇抜な格好してるのが似合いすぎる気がするわ。
 闘技場の待機室であまりにも宇宙猫Tを着たポンコツピンクを指さしてゲラゲラ笑っている私も宇宙猫Tを着ている訳だけど。

「あー、おもしれ」
「もー、相手悪すぎなんだもん」

 むすーっとしながら文句を言ってくるポンコツを見つつ、ベンチに座って一息。しばらく遊んで楽しんだから、さっきの戦い方を話し合う。大体は手裏剣跳弾は出来るのかって話だったり近接戦闘についての云々になる。クランハウス戻ってやれよって話にもなるんだけどさ。鉄は熱いうちに打てっていうし、覚えている間に色々と話すってのは結構大事だったりするわけよ。

「あんたはもうちょっと前に出る方法を模索した方が良かったんじゃないの?」
「折角ボスとやるなら撃ち合いしてる方が楽しいって思っただけですぅー」

 そんな殊勝な心掛けなんてあったのか、こいつに。

「視聴者募って対人イべでもやったらどうよ、強い奴いっぱいいるわよ」
「やるのはいいけど、ボスはそんな時間ないんじゃ?」
「まー、明日に響くだろうから、そろそろログアウトして寝るかなーってはあるけど」

 何だかんだで狩りと対人やってたら時間掛かってるのよね。休みの日はがっつりやるだろうけど、暫くは帰って来て夜にちょびちょびログインするってのが基本だからなあ。

「ボスも配信したらどう?結構稼げると思うんだよねー……T2WのHMD同梱版なら機能付いてるよ?」
「私はあんたみたいに派手なゲームプレイってわけじゃないからねえ」

 悪目立ちしているって点ではいいけど、配信するプレイとは程遠いから映えないのを良ーくわかってるわ。何て事を考えつつ葉巻を咥えて揺らしていると、ポンコツピンクが声を掛けられるので少しだけ離れて様子を伺う。顔が割れているって大変だよな、ファンや信者が増えるってやっぱ私の柄にもない。

「ねー、ボス、チーム戦やんない?って誘われたんだけど」
「他人とやるならランク掛けてもらわねーとやらねーぞ、わたしゃ」

 葉巻の煙をぷぁっと吐き出しながらそういうと向こうに行って話、またこっちにぱたぱたと戻ってくる。

「その条件で良いって言ってるけどどーしよ?」

 葉巻を揺らすのをやめて立ち上がってから紫煙を大きく吐きだし、対戦を申し込んだ2人の所へ。

「ランクは」
「あんたらよりも上だよ、受けてくれるのか?」

 最近は向こうからやってくることも無かったし、ちょうどいいランク上げにはなる。なんだったら最近対戦申し込みもされてなかったし、ちょうどいい。それにしてもランク戦でチームも組めるなんて便利なシステムを組んでるなあ。
 さっさとポンコツとパーティを組んでランク戦を開始。



「……泣いてたよ?」
「負けて泣くなんて根性ないわねぇ」

 対戦希望してきた割には弱くて歯ごたえ無さ過ぎてびっくりしたわ。
 正直な所、配信としてもそんなに映えない上に、私とポンコツが戦っていたのでも見て勝てると思ったんだろうな。大分舐めた動きをしてくるから完膚なきまでに叩きのめしてやった。

 私と敢えて撃ち合いをして遊んでいたさっきとは違い、完全に前に出てかき乱すポンコツ、その後ろで手裏剣跳弾と単純なウサ銃での狙撃で援護をして弾幕とプレッシャーをかけて押していくだけで勝てるってなかなか貧弱な奴らだった。
 タンク型の戦士と魔法職だったので、待ちながら大きいのを放り込んでくるって戦法だったんだろうなあ。急造のチームだったから微妙にちぐはぐだったのも頷ける。

「連携って連携くむ奴がどういう動きをするか知ってないと出来ないでしょ」
「ボスが合わせてくれたよーな気がするけど」
「あんたは好き勝手やらせた方が良いって判断しただけよ」

 葉巻を咥えて火を付けて一服……しているとその葉巻を取られる。
 人の持ち物に干渉できるって事はフレンドだろうけど、誰だ、私の一服タイムを邪魔する奴は。

「ねぇ、なんで、ももちゃんと先にやってんの」

 紫髪が頬っぺた膨らませながら私から奪った葉巻を咥えて思い切り吸ってぶはーっと紫煙を吐きだす。うちのクランじゃ珍しい喫煙系プレイヤーだったか。

「実験台してくれたからよ」
「いいな、いいな、負け越してるからしたいのにー!」
「バイオレットさんめっちゃ強いのによく勝てたね、ボス」
「紙一重でな……次やったら負けるからやんないの」

 一気に半分以上吸いやがった葉巻を奪い返して咥え、ゆっくり一服。1本1,000Zもするってのに、まったく……。

「とりあえず今日は寝る前に気持ちよくなれたし、そろそろ落ちるわよ」
「もうちょっと早く来たらよかったー……ちょっとももちゃん相手して」
「バイオレットさん強いからやなんだけどなあ……」

 そうやってぎゃーぎゃーと言い合いしている横で闘技場からクランハウスに戻って、いつも座っている椅子に座ってログアウト処理をしている所にアイオンが傍にやってきてしっかりと隣に立ったまま私の事を見送る。
 
「律儀ねえ、あんた達」
「恐れ入ります」

 頭を提げてくるのに合わせてわしゃわしゃと撫でまわし、ログアウト処理を続けるのだが……ちょっとむくれているような感じがあるので、処理が終わるまでは撫でまわしておこう。

『お疲れさまでした、これよりログアウト処理を開始します』

 オーラ付きモンスターの事だったり、忍者のレベル上げ、闘技場のランク上げ……休みの時にやっぱり集中してやらないと駄目かなあ。

「じゃ、またな」
「はい、お疲れさまでした」

 リアルにほしーわ、この敏腕秘書。
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