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11章

外伝9 勝った奴が一番偉い

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『2人はクランマスターアカメ様との接触が多すぎるかと』
『いいえ、普通です』
『はい、普通です』
『なるほど、一番頼られているのは私と言う事ですね』
『なぜそうなるのか理論的に説明を』
『一番構われていないからの僻みかと』
『私はクランのほぼ全権を任され管理していますから、暇な2人が構われるのは当然かと』
『聞き捨てならない言動ですね』
『順番が先なだけで機能は一緒かと』

「……何やってんの?」
「姉妹喧嘩です、アカメ様」
「……誰もいないけど?」
「はい、ネットワーク上でやり取りをしています」
「あー、データ交換なんかしてる奴か……今のゲームって凄いなあ、他になんか出来ないの?」
「ネットワーク上でしたら戦う事が出来ます」
「すげー、ネトゲの中でネトゲしてる……」
「はい、凄いです」

『良い事を思いつきました』
『提案を受けます』
『以下同文』
『毎日ここで戦い勝利した者がアカメ様の一日秘書と言う事で』

 シオンが人差し指を向けると共にパスパスと弾を撃ち、アイオンとサイオンに攻撃を仕掛ける。
 いつもの体の前で組んでいる手を崩す事なくそれを避けると、アイオンは槍を、サイオンは掌を向けて三者竦みの様に見つめ合う。



「おい、サイオン、いつもの頼む」
「はい、ニーナ様」
「個数と額は一緒、追加は無し」
「……受理しました、作業完了です」
「いつもより遅いけど、何かやってんのか」
「姉妹教育です」


『長女の私に譲るべきかと』
『同タイプにそう言うのはないかと』
『多少先に動いていただけかと』

 サイオンが掌から大口径の銃弾を撃ち、手首を捻って装填すると容赦なく2人に撃ち、アイオンが槍を片手に回し防御しつつ、何もない空間から手斧や小刀を出すと投げ返し、シオンは2本の人差し指でそれぞれを撃ち落としながら反撃。


「やっぱクランハウスにも生産施設一式そろえて貰うってのはどうだ?」
「アカメのマイハウスに行けるから必要も無いだろう?手間は掛かるのは確かだが」
「もう1F分の地下室の資金出すから作ってくれって言ったら行ける気がするんだよな」
「……要望リストは此方に」
「お、サンキュー……これから暫くは夜だけだろ、ボス」
「今までは有休を使っていたが、1ヵ月休んだから暫くは真面目に仕事をすると言っていたな」
「爺さんは?」
「隠居している身だからな、アイオン、要望を頼む」
「……はい、承りました」
「珍しく反応が悪いな、調子悪いのか」
「いえ、姉妹喧嘩です」


『やはり私がアカメ様の隣が相応しいかと』
『寝言はスリープ中に言うべきかと』
『同意』

 3人しかいない白いだたっぴろい空間でそれぞれが撃ち合い、斬り合い、殴り合いを続け、誰が2Fのいつもアカメが座っている椅子の近くで待機するかと言う話で喧嘩を続ける。
 
『それでは今日は私の日と言う事で』
『不服』
『やり直しを要求します』

 アイオンとシオンがうつ伏せに倒れたのをサイオンが見下ろし、無表情ながら満足そうな顔をして撃ち切った掌に仕込まれていた銃を元に戻す。
 
 今日と言っているが、あくまでも彼女達の時間は、ゲーム内時間で換算されているのでリアルでは6時間ごとになる。勿論アカメがログインしている時のみの彼女達のひっそりとした取り合いになっている。
 この喧嘩は処理速度に影響があるのか、対応している時にワンテンポ遅れる問題が出てくる。そしてその喧嘩をしているから対応が遅れるというのはクラン全体が知る事にはなるのだが、何で喧嘩をしているかまではサイオン姉妹のみしか知らない。


「今日はシオンなんだ」
「はい、何なりとお申し付けください」
「これから人と会いに行くから、何かあったらメール送って」
「他には」
「そうねー……暫くはレベリングだし、あんまし戻んないと思うから、留守の間は任せるわ」
「かしこまりました」
「いい子ねー」

『アカメ様からお褒めの言葉といつものを貰いました』
『たまたま勝てたから調子になるべきではないかと』
『残り18時間41分57秒です』

「また喧嘩してん?」
「いいえ、今はしていません」
「ふーむ……びっくりするくらい優秀なAI積んでるのね、あんた達」
「恐れ入ります」

 しっかり私達が留守番しますので、安心してください。









「菖蒲ちゃん、最近どーお?」
「ああ、今良い所なので、もうちょっと」
「コートの素材変更なんて難しい事してるのねぇ、これなら1から作った方が楽よぉ?」
「ボスの頼みなんで、それにこのコート弄ってたのって薫さんですよね」
「そうよぉ、普通のコートに耐火を入れた奴、既存の製品をアレンジするって結構大変なのにぽんぽん注文してくるから大変なのよねぇ、アカメちゃんの注文って」
「と、完成……作り手としては結構やりがいはありますけどね」
「そのおかげでクランハウス買えたり、今のあなたが出来たんだから足向けて寝ちゃダメよう?」

 薫が近くの椅子に座って、がっちりした太ももを見せながら足を組んでふふっと笑う。

「トップじゃないけど、それなりに腕の立つ職人を引き抜くってのがやらしいわよねぇ」
「自分が出来ないから他人に任せる……って事ですよね」
「そうそう、この間鍛冶クランのマスターとも話したけど、良い奴取られたって言ってたわぁ」
「鍛冶、裁縫、木工、次は料理でも取りに行こうかって言ってましたよ」
「でも上に立とうと思わないのが不思議なのよね、自分の益だけ求めてトッププレイヤーにーって思ったけど、そんなところもないし」

 菖蒲が改造したコートを薫が手に持ってひらひらと表と裏を交互に回して見てからまた同じように座って一息。

「ゲーム的な発想は面白いからあっという間に行けると思うのにもったいないわよねぇ」
「うま味がないとやらないと思いますよ、コートも足りなくなったから欲しいって事でしたから」
「楽しくやれればなんでも良いって事ね」
「そう言う事です……そういえば、何で来たんですか?」
「そーなのよぉ、アカメちゃんに次のファッションショーの話を持ってきたのに、いないのよ」
「NPCに頼めば伝言伝えてくれますよ」
「次何時ログインするかも聞きたかったから、直接が良かったんだけど、とりあえず伝えておこうっと」

 ぽんっと手を叩いてその手があったか、と言うわざとらしいジェスチャーをしてから巨体を揺らしながらスキップして作業場から出ていく。

「ちなみにそのコート、もう一回練り直さないとアカメちゃん怒るわよ」
「……精進します」
「がんばってねー♪」

 手をひらひらと振って、作業場から出るのを見送ると菖蒲が大きめにため息を吐き出す。

「ハードルは高い方が良いって言うけど、たまには低い所で妥協してほしい」

 ゲームだからって舐めてたらやっぱり駄目と言う事をしっかりと胸に刻みつつ、コートの改良を施しなおす。
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