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第二章 本部編

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「……もう、動けない」

「ごめん、やり過ぎた」

 行為が終わった後、俺は疲労が頂点にまだ達し身動きが取れずにいた。それもそのはず、俺の身体は朝から森を歩き、モンスターに襲われ、研究所から飛び出して森を駆け回り、最後にクロムと淫らなことをしたのだから疲れるに決まっている。

「へっくしゅん! ……さ、寒い」

 さっきまで媚薬により身体が熱くて仕方なく、激しく動いていた為気づかなかったが、ここは森の奥の日の当たらない場所だ。普通に寒い。ほぼ全裸みたいな格好なら尚のこと寒いに決まっている。

 そんな俺をみてクロムは何も言わずに汚れた身体をせっせと拭き乱れた服を整えていく。そんな彼の行動を俺はぼーっと見ているしかないほどに疲れ切っていた。

「歩ける?」

「絶対に無理」

 クロムの質問に子どもみたいな返事をする。魔力をたくさんもらったので元気はあるのだが、疲れ過ぎて身体がとにかくだるくて痛い。言うなら全身筋肉痛みたいな感じだ。

 俺の言葉にクロムは申し訳なさそうな顔をしながら身体の下に手を差し込むと軽々と俺を横抱きにし持ち上げた。本日2度目となるクロムのお姫様抱っこだ。178cmの平均身長よりだいぶ高めの俺を簡単に持ち上げる。クロムは細身で筋肉なんて付いているのかと思えるほどにスラっとした体型なのだが、支える手は逞しく安心感すらあった。

 アルにもこんなことをされた経験があった。その時は自分で歩けると拒否した。結局アルに丸め込まれそのままテントまで戻ったのだが、今回の俺はとてもじゃあないが歩けないので、黙ってクロムの腕の中に収まっていた。

「研究所にもどろっか……」
 
「……お願いします」



◇◇◇



 それから俺は、クロムに抱えられ森の奥から出た。森を抜けると太陽の光が差し込んできて外はまだ明るかった。この深い森を一度も迷うことなく出る事の出来るクロムは森の常連客なのだろう。ひとりだったら遭難していたのでその部分では助かったといえなくもない。

 そしてあっという間に研究所の建物が見えてきた。俺は研究所を前にしてどうして森の奥に逃げ込んだのかを思い出した。アルとギル、レオの3人に揶揄われて怒って、出て行ったのだった。
 そんな理由なのであの3人に会うのはなんだか気まずい。しかしあれから何時間たったのかはわからないがそれなりに時間はたっているはずである。さすがに本部内でも役職を持った3人、そこまで暇な訳ではあるまい。あのタイミングで俺を揶揄いに来ているので自信はないが……。さすがにもう自分の仕事に戻っているはずだと安心しきっていた。

 しかし俺の望んでいた結果にならないことはいつものことである。研究所の全体が見えてくるとそこには4つの人影があった。
 俺の身体はクロムに運んでもらったおかげで大分回復してきていた。
 人影はまだこちらには気がついていないようだ。シルエットからみて逃げ出したときにいた4人だという事がわかる。この状況で会うのはやはり気まずい。それに魔力量の感知が得意なパスカルとレオがいる。この状況を見れば何があったのかなんてあの2人ならすぐに感づいて揶揄ってくるに決まっている。今日は研究所に戻らずそのまま宿舎に戻ることが得策だろう。

「クロム! 研究所に寄るのはやめて宿舎に戻ろう!」

 クロムの服を引っ張り、焦りながらそう伝えた。

「どうして? 研究所は目の前なのに、もしかしてあの4人に会うのが気まずいの?」

 ———さすがクロム、俺の思っていることを瞬時に理解してくれた。

 俺は静かにしかし激しく首を縦に振る。
 するとクロムは相変わらずの真顔な表情を俺から正面に戻した。

「でももう遅いよ。4人とも小生たちに気がついたみたいだし……」

「……ま、まじか」

 クロムの言葉に恐る恐る彼が向けている視線の方向に顔を向けると俺たちを捉える4人の視線と目が合った。


 

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