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第二章 本部編

75 困惑

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 俺のことに気づいた4人は驚いた顔をしたのちに、ほっと安堵した顔になった。
 気まずい気持ちの俺のことなんて気にもせずクロムはズカズカと4人に近づいていく。

 4人の前まで来るとクロムは俺をそっと地面に下ろした。

「サタロー、無事だったんだね! 本当に良かった」

 最初に口を開いたのはアルだった。俺の正面に立つと肩を掴み心底心配した表情をしている。
 申し訳なさとか恥ずかしさとか色んな感情が混ざり合ってアルと目を合わせられず、顔を背ける。

「森に入っていくなんてまたモンスターに襲われたいのか、この馬鹿が……心配したんだぞ」

 次に口を開いたのはギルだった。呆れた様にそう言った彼の言葉に返す言葉も見つからない。しかし、彼もまたアル同様、心配してくれていたようで俺は少しだけギルの方に視線を向け

「……ごめんなさい」

と、小さな声で謝罪した。

 俺の予想した通り気まずい雰囲気が流れる。

「全く、お前がいなくなってから3人とも自分の仕事を放り出して探し回っていたんだぞ! 自分の立場を少しは理解しろ」
「えぇ! マジで探してたの?」

 絶対にないだろうと思っていたことが現実になっていたことに驚き気まずさなんて忘れて顔を上げて3人を見る。さっきまで俺のこと凝視していたのに何故か3人とも顔を逸らしている。3人の反応に俺は首を傾げる。

 傾げながらパスカルの自分の立場という言葉に対して考える。
 恐らくだが、俺の様な下っ端が迷惑をかけて軍のお偉い方の仕事の邪魔をするなということだろう。
 それに対しては重々反省している。

「本当に、ごめんなさい。俺のせいでみんなの仕事の時間を奪ってしまって……」

 俺はみんなに向けて謝罪をする。するとパスカルは大きなため息を吐き、俺の頭をこづいた。

「お前は何もわかってないな。この鈍感男が!」
「えぇ……意味がわからないんですけど」

 パスカルの言っている意味が全くわからない。俺は3人に助けを求める様に顔を向ける。すると今まで珍しく黙っていたレオが俺の方に近づいて肩を組んできた。相変わらず馴れ馴れしい奴である。

「サタローはさぁ~、これから誰から魔力をもらうの? 本部にいる限り基本的に俺らは居る訳だしサタローは誰がお気に入りなのか俺知りたーい」
「え? えっと、それは……」

 レオの言葉で本部に来てからどうやって魔力を貰ってきたのかを思い返す。最初はギルから貰った。アルが不在だったためギルから貰うしかなかったからだ。
 次にレオ。ギルが疲れていてリズが話を通してくれていた為これも流れ的にレオしかいなかった。次はギル。レオとの特訓? の成果のお披露目のためである。
 こう振り返ってみると成り行き任せで今まで魔力を貰ってきたことがわかる。

 しかし、今現在アルも帰ってきて魔力を貰う相手は俺が自由に選べることになるのだ。
 つまりパスカルが言いたかった自分の立場とは、選ぶ立場になったということなのだろうか?
 それと3人が俺を探していた理由との繋がりはよく分からないが、この3人を前にして選ぶ立場とは随分と偉くなったものだと思う。

 正直、一番頼みやすいのはレオである。歳が近いしいつも仕事サボっていて暇そうだからだ。
 アルとギルは団長と副団長だ。仕事も忙しいのに頼むのは忍びない。そうなるとレオが一番適任である。そう伝えようと口を開いた瞬間……

「もちろん私だよね! サタロー? 初めての相手の私が責任を持って面倒を見るべきだと私は思う!」

 アルがそう言った。とっても爽やかな顔でそう言った。

「何言ってんだ。元々は俺がこいつを見つけて保護したんだ。俺が責任を取るべきだろ? それに俺が一番こいつに魔力をあげているしな」

 次にギルがアルの言葉を否定するかの様に、そして何故か得意げにギルがそう言った。

「忙しいお二人さんは仕事でもしてなよ~。年も近い俺が一番適任でサタローも頼みやすいってわかんないの~」

 最後にレオが呆れながら2人を煽る様にそう言った。俺の思っていることと同じことを口にしている。

 3人の主張が終わると余計な奴が割り込んでくる。

「じゃあ小生も仲間に入れて貰おうかな。一応さっきサタローに魔力あげたし……それもサタローからほしぃ~っておねだりしてきたし」

 クロムだ。いつもの真顔が面白そうだと笑っていた。それに要らんことまで言いやがった。
 クロムの言葉にバチバチと火花を散らしている様な雰囲気が漂っていた3人が一斉に俺の方を向く。

「「「はぁ?!」」」

 俺は3人の迫力に気押され後ろに下がる。

「そういえばさっきからサタローからクロさんの魔力を感じてたんだよねー。何? サタローちゃんってそんな尻軽だったの?」

「もしかしてクロムに脅されたのかい? そうだよね。でなきゃサタローがそんな大胆なこと……」
「モンスターに襲われておかしくなったんだろ。じゃなきゃウブでヘタレなサタローがそんなことねだるわけないだろ」

 三者三様に言いたいことを言っている。ギルに至ってはしれっと正解に辿り着いているがだいぶ俺のことをディスっている。

「どう言うことか説明してくれるかな? サタロー」
 
 今まで見たことのないアルの顔が俺に向けられる。笑っているのに全然笑っていない。

「モンスターの媚薬に当てられたの! だからあれは俺の意思だけど俺の意思じゃないと言うか……可笑しくなってただけ! クロムも余計なこと言うな!」

 俺は顔を真っ赤にしてそう叫んだ。こんな恥ずかしいこと言わせないでほしい。そんな俺のことよりも他3人、否もう1人加わって4人になった彼らに俺の方が聞きたいことがある。

「4人とも俺なんかの為に無理しなくていいんだよ? 親切にしてくれるのはマジでありがたいけどこんな急に現れた可愛げもない男にそのまで優しくする必要……」
「いい加減気づけ」

 俺が必死に想いを伝えようとしているところに、呆れを通り越して怒った様な口調のパスカルがもう一度俺の頭をこづく。

「何をだよ?!」

 俺はパスカルの言っている意味がわからず、同じく怒り口調でそう言った。

「いい加減自分が愛されていることに気づけ!」

「………………は?」

 パスカルの言葉に俺は怒りも忘れて放心状態でその場に立ち尽くした。

 
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