獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

恋愛脳

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少佐に抱き締められて背中トントンしてもらって、私はパニックに陥っていました。

これまでも労ってくれたり気遣ってくれたりというのはよくありましたけど、どうして急にここまで……!?

すると伍長が、

「くかかかか! どうだ! 俺が言った通りじゃねえか! このビア樽にゃ、お前が一番の薬なんだよ。てか、お前がいなきゃこいつは、クソ真面目なだけのどうしようもねえポンコツだ。こいつみたいなのが<無能な働き者>になるんだよ。久利生くりう、お前だって気付いてたはずだ。こいつが使いものになんのはお前が手綱を握っててこそだってな。これからもこいつを役に立ててえなら、ちゃんとしろ。いい加減に腹を括れ!」

果実酒を口にしながら、そんなことを。え? まさか伍長の差し金……?

私が見上げると、少佐は、

「ユキの言いたいことも分かる。確かに僕はこれまでずっと逃げてきた。『今の関係が一番いい』と自分に言い聞かせてきた。ただ、ユキが、『ヤらせりゃいいじゃねえか。減るもんじゃなし』と言った時、僕の中でカアッと何かが熱を持つのを感じた。それが僕の正直な気持ちだったんだな……」

え……?

ええ……?

何ですか!? え!? そんなフラグ立ってましたか!? 恋愛ものだったりしたらこんな展開、普通に炎上ものですよね!? なんの前触れもなくこれって! おかしいでしょ!?

嬉しいですけど!!

嬉しいです! ええ、嬉しいですとも!! 私としてはこれまでずっと気持ちを伝えてきたつもりでしたよ! だからいつかこうなればいいなって思ってましたよ!!

でも、急展開過ぎですよ!!



などと、私としてはのぼせあがってしまってましたけど、冷静に考えてみると、伍長がずっと、私の知らないところで少佐にハッパをかけていたらしいんですよね。それと思しきやり取りも何度もありました。ありましたね。それが、伍長の、

『ヤらせりゃいいじゃねえか。減るもんじゃなし』

という、普通に考えたらただのセクハラ発言でしかないそれが最後の一押しになって、少佐も観念してくれたっていうのが分かります。

いや、しかし。なんて言うか、もっとこう、段階を踏んでですね、徐々に盛り上げていくような形で……

……なんて、ああ、こういうのを<恋愛脳>って言うんですかね……

少佐は少佐でずっといろいろ考えてくださってて、だけどそれを表に出さないようにしてて、私がそれを察してなかっただけで……

少佐のことをすごくよく見てたはずなのに少佐の心の内が私には見えていなかったと……

嬉しいんだけど、なんだか凹みます……

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