上 下
1,949 / 2,557
第四世代

閑話休題 メイの挑戦・後編

しおりを挟む
猪竜シシは明らかにメイを狙っていた。

猪竜シシは雑食であり、メイのことなどそれこそ美味そうな肉の塊にしか見えないだろう。

しかしメイとておとなしく食われたりはしない。

「……」

緊張感をみなぎらせながらも、怯えた風でもなく、静かに身構える。彼にとっては当たり前の対応だった。

猪竜シシともこれまでにも何度か遭遇している。

ただ、これまで勝てたことはない。ないが、だからといってそのままでいていいとも思っていない。

勝てるまで何度でも挑むし、挑めるように生き延びようとする。無理だと察したらためらうことなく樹上に逃げる。猪竜シシはそこまでは追ってこられないことを知っているからだ。これは母親のれいから教わった。

『勝てないと悟ったら逃げる』

というのもだ。実年齢は僅か二歳でも、野生の動物であればそれこそ人間の二歳児ほどの知能さえないものであっても、その種の判断はする。できる。だから二歳程度の知能が備わっていれば十分にできることなのだろう。

普通の人間にはそこまで必要ないというだけだ。

それを基に、メイは猪竜シシと対峙する。

「……」

数瞬、睨み合った後、猪竜シシが彼目掛けて突進してきた。確実に殺すつもりの突撃だった。推定体重七十キロといったところの猪竜シシの全力の突撃を受ければ、体重十五キロほどのメイではそれこそひとたまりもない。

しかし彼は、敢えて猪竜シシに向けてダッシュした。あまりにも無貌に見えるそれではあったが、決して破れかぶれというわけではなかった。

衝突する寸前、地面を蹴って跳び上がる。

「!!」

するとそれに猪竜シシも反応してみせて頭を突き上げるが、メイはその頭を蹴りつけてさらに高く跳び上がった。

そしてこの一合で力の差を察したのだろう。そこからはもう無理はせず、木の枝に飛び乗って樹上に逃れた。

「フガッ! フガアッッ!!」

体を翻した猪竜シシはそんなメイを地上から見上げて悔しそうに声を上げるが、もう為す術はない。八つ当たりのようにして彼が乗った枝がある木の幹に頭を叩きつけるものの、さすがに折れることもなくただ揺らしただけでしかなかった。

こうして今回の<メイの挑戦>は実にあっさりと終わったが、実はこの時、この場には母親のれいもいて、さらにドーベルマンDK-aはち号機も待機していたのだが、手を貸す必要もなかった。

特にれいの方は、メイが飛び乗った枝がある木の幹に張り付いた状態で気配を殺していた。猪竜シシが木を頭突いたのは、本当は<八つ当たり>ではなく、れいがいたことに気付いたからであったのだ。

「帰るか……」

いつの間にかメイの隣に来ていたれいが口にすると、

「……」

メイも黙って頷いたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

悲しいことがあった。そんなときに3年間続いていた彼女を寝取られた。僕はもう何を信じたらいいのか分からなくなってしまいそうだ。

ねんごろ
恋愛
大学生の主人公の両親と兄弟が交通事故で亡くなった。電話で死を知らされても、主人公には実感がわかない。3日が過ぎ、やっと現実を受け入れ始める。家族の追悼や手続きに追われる中で、日常生活にも少しずつ戻っていく。大切な家族を失った主人公は、今までの大学生活を後悔し、人生の有限性と無常性を自覚するようになる。そんな折、久しぶりに連絡をとった恋人の部屋を心配して訪ねてみると、そこには予期せぬ光景が待っていた。家族の死に直面し、人生の意味を問い直す青年の姿が描かれる。

処理中です...