955 / 2,387
第三世代
保編 きっかけ
しおりを挟む
そうして疲れ果てて、同時に苛立ちどころじゃなくなって、保はゆっくりと体を起こした。
すると、翠を抱き留めていた碧が彼女を離して、翠は保のところへと駆け寄った。
自分に抱き付いてくる彼女に、今度は保も苛立ちをぶつけることはなかった。
いやはや、大人達の見事な連携プレイに称賛を禁じ得ない。
翠の不安を受け止める碧。
保の苛立ちを受け止める轟。
それらをしっかりと見守り、見届ける誉。
正直、俺にも同じことができるかと言われると、自信がない。
俺なんかより誉達の方がよっぽど<大人>だと思う。
いくらパパニアンの社会が、人間のそれほどは複雑じゃないからといってもな。
新暦〇〇三十一年四月五日。
とは言え、それですべてが一気に変わるほど、この世の中ってのは単純じゃない。
保も、翠に苛立ちをぶつけるようなことはしなかったが、それでも複雑な思いは抱いていたようだ。
ただ、間違いなく<きっかけ>にはなった。
保が、茉穂に顔を見せるようになったんだ。
茉穂は、保に会いたくて度々、縄張りの境界線近くまできていたらしい。保も、それ自体は知っていたんだろうな。
すると茉穂は、縄張りを超えて保のところへとやってきた。
普通は縄張りを侵す行為として衝突になるところではあるものの、相手が雌で、しかも、小集団のリーダーだった保が彼女を敵認定しなかったことで、他の若い雄達は戸惑いながらも遠巻きに二人の様子を見てた。
この日はこうして顔を合わせただけだったが、それから何度も逢瀬を繰り返し、互いに毛繕いをするようになり、キスをするようになり……
そしてある日を境に、保は群れに戻らなくなった。
その時の様子を、ドローンのカメラが捉えている。
茉穂と共に彼女の群れへと行って、その場で<土下座>に似た服従の姿勢を見せて、自身に攻撃の意志がないことを示したんだ。
もっとも、それがすぐに信用されるわけでもなく、その群れの兵隊である若い雄達に小突かれたり蹴られたりしていた。
けれど保は抵抗することなく、ボスが現れてもその姿勢を保った。彼の名の通りに。
こうして半日、自身の想いが本物であることを伝えるために服従の姿勢を取り続け、結果、保はその群れに加わることとなった。
保はようやく、妹離れができて、巣立つ決心がついたんだろうな。
茉穂として見れば、十五年間想い続けた、もはや<執念>と呼んでもおかしくない気持ちが報われた瞬間だったわけだ。
保にしても、翠のことがあったからそっちを優先してただけで、茉穂のことは悪からず想ってたんだろう。
が、突然、大好きな兄を失うことになった翠と言えば、保の姿を求めて縄張りの境界線の辺りまで来て、
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!!」
と何度も保を(もちろん<パパニアンの言葉>でだが)呼んでいた。
さすがにその姿には胸も痛んだものの、俺も口出しはしなかった。
そこに、昴の姿が。
何度も毛繕いをしてもらって、さすがに気になるようにもなっていたようだ。
「……」
すごく不器用な感じで、翠の頭を撫でていたのだった。
すると、翠を抱き留めていた碧が彼女を離して、翠は保のところへと駆け寄った。
自分に抱き付いてくる彼女に、今度は保も苛立ちをぶつけることはなかった。
いやはや、大人達の見事な連携プレイに称賛を禁じ得ない。
翠の不安を受け止める碧。
保の苛立ちを受け止める轟。
それらをしっかりと見守り、見届ける誉。
正直、俺にも同じことができるかと言われると、自信がない。
俺なんかより誉達の方がよっぽど<大人>だと思う。
いくらパパニアンの社会が、人間のそれほどは複雑じゃないからといってもな。
新暦〇〇三十一年四月五日。
とは言え、それですべてが一気に変わるほど、この世の中ってのは単純じゃない。
保も、翠に苛立ちをぶつけるようなことはしなかったが、それでも複雑な思いは抱いていたようだ。
ただ、間違いなく<きっかけ>にはなった。
保が、茉穂に顔を見せるようになったんだ。
茉穂は、保に会いたくて度々、縄張りの境界線近くまできていたらしい。保も、それ自体は知っていたんだろうな。
すると茉穂は、縄張りを超えて保のところへとやってきた。
普通は縄張りを侵す行為として衝突になるところではあるものの、相手が雌で、しかも、小集団のリーダーだった保が彼女を敵認定しなかったことで、他の若い雄達は戸惑いながらも遠巻きに二人の様子を見てた。
この日はこうして顔を合わせただけだったが、それから何度も逢瀬を繰り返し、互いに毛繕いをするようになり、キスをするようになり……
そしてある日を境に、保は群れに戻らなくなった。
その時の様子を、ドローンのカメラが捉えている。
茉穂と共に彼女の群れへと行って、その場で<土下座>に似た服従の姿勢を見せて、自身に攻撃の意志がないことを示したんだ。
もっとも、それがすぐに信用されるわけでもなく、その群れの兵隊である若い雄達に小突かれたり蹴られたりしていた。
けれど保は抵抗することなく、ボスが現れてもその姿勢を保った。彼の名の通りに。
こうして半日、自身の想いが本物であることを伝えるために服従の姿勢を取り続け、結果、保はその群れに加わることとなった。
保はようやく、妹離れができて、巣立つ決心がついたんだろうな。
茉穂として見れば、十五年間想い続けた、もはや<執念>と呼んでもおかしくない気持ちが報われた瞬間だったわけだ。
保にしても、翠のことがあったからそっちを優先してただけで、茉穂のことは悪からず想ってたんだろう。
が、突然、大好きな兄を失うことになった翠と言えば、保の姿を求めて縄張りの境界線の辺りまで来て、
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!!」
と何度も保を(もちろん<パパニアンの言葉>でだが)呼んでいた。
さすがにその姿には胸も痛んだものの、俺も口出しはしなかった。
そこに、昴の姿が。
何度も毛繕いをしてもらって、さすがに気になるようにもなっていたようだ。
「……」
すごく不器用な感じで、翠の頭を撫でていたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
163
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる