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新世代

走・凱編 度量の大きさ

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コーネリアス号から出て帰路に就いた時、ビアンカは名残惜しそうにそう達のことを見詰めていたそうだ。よっぽど気に入ったんだろうな。

「向こうでもちゃんと見られるからね」

「はい……」

シモーヌに言われて、ビアンカはホッとしたような声で応えた。

この時の声の調子とかを覚えておかないとな。

もっとも、毎日ちゃんと気にしてると、感覚的に分かってくる。少なくと俺の場合はそうだ。子供達についても、声や表情で大体の機嫌が分かってしまう。ひかりあかりだってそうだ。彼女達の機嫌なら分かるんだ。

『子供の気持ちが分からない』

そんなことを嘆く親も多いと聞くが、それを気にする感覚が俺には分からない。

<気持ち>なんてものは元々、たとえ相手が自分の子供であっても自分とは違う人間なんだから分からなくて当然だ。分かるのはせいぜいその時の気分や機嫌だけだと思ってる。落ち込んでたりしたらそれが分かるくらいだ。

でも、それでいいと俺は思うんだ。

なんでも分かるなんて、なんでも理解できてしまうなんて、むしろ恐ろしい。完璧にその人のことが理解できてしまうなら、もうその人は必要ないんじゃないかなって気さえしてしまう。いなくても分かってしまうんだから。その人がやってたことはロボットで代用できてしまうだろうし。

分からないからいいんだよ。

俺だって、ひかりあかりの<機嫌>は分かっても<気持ち>までは完全には分からない。だが、機嫌さえ大体分かれば不安はない。機嫌が悪いということはそこに何らかの原因があるわけで、その原因を突き止めて対処すればいいだけだからな。

ただ、余計なことはしない方がいい時もあるのも分かる。月経で機嫌が悪い時なんかはその典型だな。俺にはどうしようもないからそっとしておくのが吉だ。そういうので何か相談があるならシモーヌもいるし、医学的なことならエレクシアが詳しい。人間の医者の頭に入ってる程度の知識なら、インストールされてる。

そのおかげで細かい怪我や軽い感染症くらいなら、治療カプセルを使うまでもなく対処できるので、温存できてる。ここで収集できたものから殺菌剤や傷薬や解熱鎮痛剤が作れたのだって、エレクシアに保存された知識やデータがあってのことだし。

抗生物質だって作れるぞ。ただし、耐性菌ができてしまうと厄介なので、使用については慎重になるが。

正直、日常レベルの医療なら、二十一世紀頃の地球の先進国のそれと何ら変わらないだろうな。ありがたいことだ。

と、話が横道に逸れたな。

いずれにせよ、俺達は手持ちのカードでできることをするしかないんだが、だからこそお互いのことをよく見て普段の様子をよく知っておきたいんだ。

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