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幸せ

突然のさよなら(この日がくるのは分かっていたが……)

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新暦〇〇二〇年六月七日。



最近、じんの様子がおかしい。以前は、ぼーっとしてるように見えても隙のようなものは感じさせなかったのに、今では俺でも分かるくらい本当にぼうっとしてる時があるんだ。

エレクシアが言う。

「明らかに身体的な活動レベルが下がっています。おそらくは、老化が原因かと」

「老化だと……?」

「やっぱり……」

様子を見ていて、俺もシモーヌも薄々は察していた。動きにキレがなく、覇気を感じさせないその姿が衰えによるものだというのは。

「いよいよということなのか……?」

恐る恐る問い掛ける俺に、エレクシアはやっぱり淡々と、

「残念ながら」

と答えるだけだった。

ああ、分かってたよ。いずれ来ることだというのは。でも、じんが最初だというのは予測してなかった。あんなに強くて、気高くて、凛々しかったじんが……

「強さゆえ、か……?」

呟いた俺に、今度はシモーヌが答える。

「そうかもしれません。強いからこそ、その強さを維持できなくなれば早々に退場するしかないんでしょう。じんの種族は共食いも確認されてます。弱った個体は、他の個体により縄張りを奪われ、同時に餌となるということなのでしょうね」

「なるほどな……」

それもまたここでの摂理なんだろう。ただ、じんの場合は、俺達の縄張りの中にいる限りは他のカマキリ人間マンティアンに狙われることもない。だから静かに余生を送ることもできるんじゃないかな。







新暦〇〇二〇年六月十五日。



なんてことを思っていたら、食事もとらず、水も飲まず、俺達が気付いてから僅か一週間で、眠るように彼女は息を引き取った。介護とか老後の世話とか、そういうのすらさせてももらえなかった。

「こんな風に考えるのは人間の勝手な感傷なんだろうが、密林の頂点に立つ<王>として、不様な姿はいつまでも晒せないっていうのことなのかなとも思ってしまうな……」

散々考えて、想像して、想定して、何度も何度も心の中でシミュレーションして、この日がくるのを覚悟していたおかげで、何とかその現実を受け止めることができた。

それでも……

それでも、胸が締め付けられるな……

そのくせ、涙すら出やしない。目と言うか鼻と言うかの奥で何かが詰まってるみたいに、圧力が掛かってる感じはするのに出てこないんだ。

光莉ひかり号のベッドの上で横たわるじんの体にそっと触れて、話し掛ける。

じん……お前が本当に幸せだったのかどうかは、俺には分からない……

でも、少なくとも不幸そうには見えなかったと思う……

めいじょうも立派に育った。えいも大きくなった。お前の命はちゃんと繋がってるよ。

それでいいんだよな…じん……」

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