上 下
80 / 2,387
大家族

おままごと(光という癒し)

しおりを挟む
新暦〇〇〇三年十月十日



「パぁパ。まんま」

そう言ってひかりがビーチチェア脇のミニテーブルの上に置いたのは、泥の団子三つだった。きたるとの遊びで作った泥団子を、おままごとよろしく食事として提供してくれたのだろう。

それがまた可愛くて、俺はその泥団子を手に取り、

「美味しそうだな。いただきます。あ~ん。パクッ」

と食べるふりをしてみせた。するとひかりが照れくさそうにもじもじとしながら笑ってた。

ああ、いいなあ。こういう感じ。

妹は小さい頃から体が弱くてあまりこういう遊びもできなかった。もっとも、俺も子供だったし男だからおままごとなんて恥ずかしくてできなかったかもしれないが。なのに、自分の娘が相手となればできてしまう。子供がいるというのはこういうことなのかなとも思ってしまった。

「楽しそうですね、マスター」

背後からエレクシアに声を掛けられ、急に素に戻ってしまって「は、はは…」と苦笑いしながら振り返る。しかし俺を見るエレクシアの表情が、以前のように冷淡なものではなくなってる気がした。どちらかと言えば、穏やかなような…?

それは、もしかすると俺の方の捉え方の違いかもしれない。エレクシアは以前からずっと同じ表情をしてるだけかもしれない。彼女を見る俺の気分で、印象が変わっているだけなのかもしれない。彼女はただ、俺を穏やかに見守ってくれてただけなのかもな。

「マぁマ、マぁマ」

自分に向かって歩いてくるひかりを、エレクシアは躊躇うことなく抱き上げた。泥だらけなことも気にすることなく。

「はい、ママはここですよ」

抱き上げたひかりに向かってそう言った時の表情も、とても穏やかな、まぎれもなく<母親>という感じのそれだった。見た目が違い過ぎて自分の子だと認識できなかったのかひそかには育ててもらえなかったひかりだが、こうやってエレクシアを母親と認識して健やかに育っていた。

だがその分、やっぱり完全に<人間の子供>として育っている気がする。同じ母親から生まれたほまれとさえ似ても似つかず、普通に服を着て(気付いたら脱いでしまってたりもしつつ)、絵本を読むのが好きな、人間の子供だった。

食事の時も、ただ一人、スプーンを使うし、生の生き物は食べようとしなかった。離乳食も、実の母親であるひそかが噛み砕いたものを口移しでほまれに与えていたのに対して、セシリアが用意してくれた離乳食メニューを食べていた。

お昼寝も俺の傍で寝るし、風呂は俺と一緒に入りたがるし、夜も俺が傍にいないと泣いたりもする。

なんか、こんな可愛い生き物がいるなんて、知らなかった気がするよ。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

精霊のお仕事

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:123

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,765pt お気に入り:4,653

悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14,086pt お気に入り:6,020

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,380pt お気に入り:281

追放の破戒僧は女難から逃げられない

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:654pt お気に入り:167

冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,581pt お気に入り:9,008

異世界転移で生産と魔法チートで誰にも縛られず自由に暮らします!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:2,452

処理中です...