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ハーレム

衝突(やはり曖昧ではいさせてもらえないか)

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新暦元年十二月二十三日



はるかの胎内にいた時にはものすごい速さで成長したきたるだったが、生まれてからはごく普通な感じの成長だった。

「どうやら、はるか自身がそういう能力を持っている感じのようですね。現在の私達の装備ではちからとの違いを見出すことができませんが。

他の生物のDNAやRNAを取り込み、その形質を再現することも可能。また妊娠・出産も再現し、かつ高速育成を行うなど、このような生物が自然に発生するなどおよそ論理的ではないと考えます」

「つまり、あの不定形生物そのものが、何者かによって生み出された<何か>である可能性があるってことか?」

「そうですね。現時点で分かっている情報から類推しても、そう仮定するのが妥当だと思われます」

「なるほど…。ひそか達の遺伝子が地球人由来だとしても、ひそか達を生み出すきっかけとなった存在は、やはり地球人以外の知的生命体の文明由来である可能性がまた出てきたって訳だな」

再生医療が充実していることで、かつてのような臓器移植の必要がなくなったこともあって、現在では人間のクローンを作ることは禁止されているものの、技術的には機材さえあれば学生が片手間で作ることが可能である。その副次的な技術として胎児の高速育成も可能らしい。だからそういう意味では現在の技術とそれほど劇的に差があるものではないが、あくまで機械的にそれを行う俺達の文明とはかなり発想が異なる文明がかつてあったということかもしれない。

それを解明することは叶わないかもしれないが、何となくロマンのようなものも感じるな。

そもそも、地球人以外の知的生命体の存在や地球文明以外の文明の存在についてはほぼ確実視されてるから、誰が一番にそれを発見、証明するかという競争が、その辺りの分野では熱を帯びてるらしい。その為に、エレクシアのように旧式化して使い勝手が悪くなったロボットを、殆ど使い捨てのような形であっちこっちの惑星に向けて投入するということも行われているとも聞いた。

それ自体はまあロボットの使い方としては正しいんだろう。帰れる可能性が決して高くない危険な役目を担うのはロボットの存在意義そのものだからな……



なんてことを考えてた時、突然、ドーン!という衝撃音と共に家が僅かに揺れた。

「地震か!?」

思わず声を上げた俺に、エレクシアが冷静に「いえ、違います」とツッコむ。すると「ぎゃーっ!!」「がぁーっ!!」という、聞き覚えのある叫び声が。

「ああ、あいつらか…」

そう、ひそかふくがまたケンカをしているのだ。もうすっかり恒例になった騒ぎである。今回は少々いつもより激しいようだが、やれやれと首を振らずにはいられなかった。

だからいつものように仲裁に入るべく、どたんばたんと騒々しい物音の震源地と思しき部屋を覗き込む。

だが、目に入ってきた光景に、俺はハッとなってしまった。見ると、いつもは真っ白なひそかの体が真っ赤に染まり、左腕をだらんと垂れ下らせながらも、凄まじい形相で歯を剥き出して、正面にいるふくを睨み付けていたのだ。

ふくふくで、顔に何本もの赤い筋を浮かび上がらせて牙を剥きながら「グルルルル!」と唸り声をあげていた。

「何やってんだお前ら!!」

つい声を荒らげてしまった俺に、二人はビクンと体を竦めて、それぞれ部屋の隅に逃げ、怯えた目で俺を見た。こんな大声で怒鳴ってしまったのは初めてだった。俺自身、あまりの様子に狼狽えてしまったんだろう。

「マスター。そのくらいでいいでしょう。まずは怪我の手当てです」

冷静にそう告げながら部屋に入ってくるエレクシアに続いて、「何事ですか!?」と、宇宙船の方のキャビンの掃除をしていたセシリアも慌てて駆け付けた。

「左肩が脱臼してますね。取り敢えず応急処置します」

落ち着かせる為と手当て中に暴れないようにする為に鎮静剤を打ち、静かになったところでエレクシアがひそかの左腕を引っ張り、外れた肩をはめ直した。同じように鎮静剤を打ち静かにさせたふくをセシリアが診察する。

二人の怪我は、命に係わる程のものではなかったが、念の為、治療カプセルに入ってもらって医療用ナノマシンによる治療を行うことにした。幸い、カプセルは二つある。二人同時に治療はできた。

ひそかの方は、左肩の脱臼以外にも、おそらく噛み付かれたことによる頭から脇腹にかけての七か所の裂傷があった。

対してふくの方の傷も、ひそかに引っかかれたことによるとみられる顔の裂傷は、額から頬にかけてけっこう深く抉られ、左目の瞼が千切れかけるほどのものだった。

どちらも、医療用ナノマシンを使えば恐らく傷跡も残らずに治る筈だ。しかし、二人が眠るカプセルを見下ろしていた俺に、エレクシアが語り掛けてくる。

「これは、あなたの責任ですよ、マスター。あなたが曖昧にしていたことがこの事態を招いたのです」

「……」

容赦のない彼女の言葉に、俺はうなだれるしかできなかったのだった。

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