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油断しない。相手を侮らない

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ジャックは油断しない。相手を侮らない。仲間もそれを学んでいる。

だから手加減もしない。クイーンの首に食らい付いた三頭はそれぞれ、渾身の力を込めてクイーンの頸椎を噛み砕いた。

なのに、

「ギヒーッ!!」

頸椎を噛み砕かれながらもクイーンは猛然と暴れて三頭を振り飛ばした。頸椎は砕かれたものの神経まではまだ断裂していなかったのかもしれない。それでも、途轍もない激痛で普通は動くこともできなくなるであろうに、クイーンは動いてみせた。脳を焼き焦がすような痛みすら、クイーンにとっては激烈な麻薬だったのだろうか。

だからこそ。

だからこそ、鋭い牙が並んだ巨大な口が、クイーンの首を再び捉え、

ゴギンッッ!!

と、今度こそ完全に神経まで断ち切ってみせた。ジャックがとどめを刺したのである。こうなればどれほどイカレていようとも、脳からの指令が届かないのだからどうにもならない。呼吸も、鼓動も、維持することはできない。指一本動かすこともできない。

にも拘らず、最後の最後までクイーンの狂気は薄まることがなかった。ぎょろりと剥かれた目が、命が尽きるその瞬間までジャックを睨みつけていた。身を翻しジョーカーへと向かうジャックを。



こうしてジャックがクイーンを倒すまでの間、<ジョーカーの兄>は、体中傷だらけになりながらも、首からだらだらと血を垂らしながらも、ジョーカーの攻撃を凌いでみせていた。そこに、

「ガアアアアアーッッ!!」

爆発するかのような咆哮を上げながらジャックが乱入した。ボスである自分に対しての挑戦であれば、仲間に手出しはさせなかった。しかしこれは違う。ボスを差し置いて行われた、仲間に対する理不尽な凶行に過ぎない。ならば一対一の勝負などに拘る必要は欠片もない。ボスとして仲間を守るためにジャックはジョーカーに襲い掛かる。

しかしジョーカーも、ボスを務めていた雄を仕留めたこともある強者だ。ジャックの攻撃をすんでで躱し、

「ガーッッッ!!」

『邪魔すんじゃねえ!!』とばかりに威嚇した。やはり狂気に染まった目を向けつつ。

もっとも、ジャックもそんなことでは怯まない。こいつも先ほどの雌と同じように『イカレてる』と判断して、一切の手加減を捨てた。『勝てないと判断したら逃げる』ような奴ではないと察したからだ。

ダシッッ!!

と地面を蹴り、突撃。体格では一回り以上大きいジャックが、ジョーカーの速度さえ上回ってみせた。なのに、ジョーカーも怯むことなく逆にジャックに向けて迫ったのだった。

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