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狂気に呑まれれば

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襲ってきた<頭のおかしいオオカミ竜オオカミの雌>を、ジャックはその仲間ごと頭突きで弾き飛ばした。続けて、一緒に襲い掛かってきた一頭に向かって奔り、今度は下からの頭突きで顎を砕く。

さらにその勢いのまま宙に飛び上がり、間髪入れず隣にいた一頭の頭に足の爪を突き立てつつ飛び乗って自らの体重で圧し潰すと同時に首に食らいつき頸椎を噛み砕いた。

そんなジャックの攻撃は止まらない。体を回転させ他のオオカミ竜オオカミらも打ち据えて怯ませ、止まることなく棒立ちになった一頭の首に食らい付いてやはり嚙み殺す。

強靭な肉体とすさまじいスタミナと高い知能と一切の躊躇を見せない覚悟を持って、<急迫不正の侵略者>を完膚なきまで叩き伏せる<ボス>の姿を、ジャックは見せた。

普通ならここまでの力の差を見せつけられれば諦めて撤退するはずである。普通なら。けれどこの時、ジャック達に襲い掛かったのは<普通のオオカミ竜オオカミの群れ>ではなかった。頭のネジが何本も外れた、狂気に支配された群れであった。

「ギャアアアアーッッ!!」

耳にした者のほとんどが、ビクッと体を竦ませるほどの恐ろしい咆哮を上げたのは、クイーンだった。

零れ落ち視神経でかろうじて繋がっているだけの片目を振り回しつつ、クイーンはジャックに襲い掛かる。力の差は歴然としているのに、彼女にはそれが理解できないようだ。ただただ破壊と殺戮を求める衝動に突き動かされているのが分かる。

「……ッ!!」

ジャックもその狂気にてられつつも、正気を保った。確かに狂気に呑まれれば恐れを知らず加減を知らず戦うことはできるだろう。しかし、そもそも相手の力を察し、勝てないと思えば逃げるのが、生きる上での鉄則だ。

そうだ。ジャックは強い。恵まれた体躯と高い知能とクイーンの狂気に中てられてさえ正気を保つことのできる豪胆さを兼ね備えた彼を前にしたなら、逃げるべきだったのだ。なのに狂気に呑まれたクイーンにはその判断ができなかった。逃げて生き延びることが本来なら正しい判断だったというのに。

「……」

仲間達を次々に打ちのめしていくジャック目掛けて、彼女は奔った。仲間達の相手に気を取られている今ならと。

しかし、

「ゲッ……!?」

彼女は自身の首に衝撃を感じ、その場にどお!と倒れ込む。その彼女の首には、三頭のオオカミ竜オオカミが食らい付いていた。ジャックの仲間だ。ジャックの仲間が、目が潰れて死角となった側から一斉に飛び掛かったのである。

ボスであるジャックが正気を保っていことでやはり正気を保っていられたがゆえに、確実に勝利を得るための動きができたのだ。

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