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気苦労の連続

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ジャックは賢いからこそ群れを分割することは得策ではないと考えた。群れが大きくなって餌がたくさん必要になる点についても、自分が工夫してより確実に狩りを成功させれば何とかなるはずだった。

けれど、ジャックをボスに据えようと考える者達にとっては、それはさほど重要なことじゃなかったらしい。その者達はとにかくジャックをボスとして掲げたかったのだろう。

だからある時、ジャックが仲間を連れて狩りに出た時に、彼を慕う者達が全員、ついてきてしまったのだ。

ジャックはキング達のところに戻ろうと促すが、仲間達はもうそれには従わなかった。

「グウウ……」

この事態に、さすがのジャックも狼狽えた。キング達のところに戻ろうと歩き出すもののついてこない仲間達を見て、引き返してくる。それを何度も繰り返し、逡巡する。

現在の<ボス>はあくまでキングだ。そのキングに従えないのなら確かに群れを出て行くしかないだろう。そして自分はキングをボスとして仰いでいる。

けれど、今、この者達だけで群れを離れれば早晩、壊滅するであろうことは、ジャックには予測できてしまった。

『みんな死んでしまう……』

と。

自分が指揮しなければまだまだまともに狩りも成立しないのだから。そして子供達の面倒を見る成体おとなも少なく、守り切れないだろう。猪竜シシにでも遭遇すればそれこそその場で皆殺しになるかもしれない。

加えて、『群れを出る』ということは新たに縄張りを確保しなければいけない。この辺りで空いている場所などなかったはずなので、どうやって縄張りを得るというのか? なのに仲間達は、キングの下には帰ろうとしない。

「グ…ググ、グルルッウル」

ジャックはなんとか説得を試みるものの、聞いてくれない。

仲間達も、確信があったようだ。ジャックは自分達を見捨てないと。自分達がキングの下に戻ることを頑として拒めば、ジャックは折れてくれると。

そしてそれは、事実だった。

仲間達の固い意志に根負けして、ジャックはそのまま仲間達を率い、新しい群れの<ボス>に収まることとなった。

しかしそれは、ジャックにとっては気苦労の連続となった。

新しく縄張りを確保するにも他の群れと戦って奪い取るしかない。それこそキングを倒してキングの群れの縄張りを奪ってしまうという選択もあるだろうが、今のジャックではキングを相手に確実に勝てる見通しが立たなかった。

彼は賢いが、キングを出し抜くだけならまだ何とかなりそうだったが、根本的な<力の差>はまだいかんともしがたかったのだ。

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