オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

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二つの群れが一つの場所で

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そういう鬱屈した部分も抱えつつ、ジャックの群れはおおむね平穏だった。新しく子供達も生まれ、時には犠牲を出しつつも順調に育っていた。一般的には最初の数ヶ月で半分になってしまうことも多いのが、一年が過ぎても七割ほどが生き延びている。

ただそうなると、群れが大きくなってしまうことで、餌が不足しがちになる。それをジャック率いる<別動隊>が狩りを行うことで補っているわけだ。

とは言えそれは、事実上、

『二つの群れが一つの場所で暮らしている』

状態でもあり、必ずしも健全とは言えなかっただろう。しかも子供達はジャックを慕っているので、群れを構成している年齢の分布が非常に偏ってもいた。

片方は若すぎ、片方には子供がいない。という形で。

聡いジャックは、すでにそのことも察していた。だからこそ今はまだ群れが分裂するようなことは避けたかった。いくら効率よく狩りができると言っても、成体おとなの雌のほとんどはさすがにキングについているので、群れを分けると、狩りをしている間、子供達を見ていてくれる成体おとなが極端に少なくなってしまう。

それでは意味がない。

だからこそジャックは、敢えてキングに対して下手したてに出て、群れを分かつことなく効率よく獲物を捕らえつつ、子供達にも土竜モグラ狩りなどを上手くこなしてもらって負担を減らす努力をした。

彼としてはそれが最も確実な生存戦略だと考えていたのである。

けれど、そんな彼の想いは、必ずしも正確に仲間に伝わるわけじゃない。むしろ彼が賢過ぎるだけで、実際には他の仲間達の方が<普通>だったのだ。自分達が慕うジャックこそをボスとして担ぎ、キングを排除しようとする者が出始めるのも、自然な流れでしかない。

当然だ。ジャックの方が優秀であると考えれば、排除されるべきはキングの方なのだから。

そして、実際にキングに襲い掛かる者が出ると、ジャックは群れの統率を守るためにキングを庇い、自分を慕う仲間を打ちのめした。それでもなお従わない場合には、その場で噛み殺したりさえした。

すべては<群れ>を守るために。

なのに、ジャックがキングを庇ってもなお、彼を慕う仲間達は、彼こそを敬った。

だからこそ、事あるごとにジャックに服従を強いて彼を蔑むような振る舞いをするキングに対しての反発は収まることがなく、むしろ膨らんでさえいったと言えるだろう。

『どうすればいいんだろう……?』

ジャックは悩んだ。

群れを分けるのは簡単だ。自分が出て行けば自分を慕う者達は勝手についてくるに違いない。けれどそうなれば、年齢構成がいびつな群れが二つできるだけでしかない。

キングの群れの方は新たに子を作れば済むかもしれないが、自分達の方は、本当にそれでやっていけるのだろうか……?

賢いからこそ、それが分かってしまうのだった。

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