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四十四話「M《エイワズ》」

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森の外に出ると、ヴォルフリック兄上がボクの帰りを待っていてくれた。

少し離れたところに停めた馬車の御者席で、カールとルーカスが待機しているのが見えた。

「お帰りエアネスト」

兄上がボクを抱きしめる。

「あっ、兄上……!」

いつもされていることなのに、兄上を愛していると気づいた途端、心臓がうるさく鳴り、顔に熱いくらい熱が集まる。

兄上が心配そうにボクの顔をのぞきこむ。

ボクは兄上の顔を直視できず、兄上の胸に顔をうずめた。

「森で何かあったのか?」

いつもの違う反応を示したボクを兄上が不審に思ったのかな? 兄上が心配そうにボクに聞いてきた。

「精霊様にお会いしました」

ボクは兄上のお顔が見えなくて、うつむいたまま話しをした。

「そうか、きちんと礼は言えたのか?」

「はい、お礼を伝え、新たにMエイワズのルーン文字を授かりました」

「そうか、それはすごいな」

兄上がボクの髪をやさしく撫で、耳にキスを落とす。心臓の鼓動が早まり、顔にさらに熱が集まる。

「『エイワズ』のルーン文字は『馬』を意味するそうです」

「そうか」

「森で会った精霊様はラグ様ではありませんでした」

「そうか」

「森で会った精霊は、ラグ様のお兄様でした」

「そうか」

兄上は先ほどから「そうか」としか返してくれない。

「聞いてますか兄上? 森でボクがお会いした精霊様は、ヴォルフリック兄上のお祖父様のラグ様ではなかったのですよ? がっかりしていませんか?」

兄上を見上げる。兄上の美麗な顔が間近にあって、顔に急速に熱が集まる。

「一度も会ったことのない精霊を、祖父だと言われても実感がわかない、その兄であっても同様だ」

そんなものなのだろうか?

「森で会った精霊様の名前はシュトラール、兄上の大伯父様です。お会いしたくありませんか?」

シュトラール様は魔王を除けば、ヴォルフリック兄上の一番近い血縁者。

「別に、私にはお前がいれば他になにもいらない」

兄上の言葉にキューンと胸が締め付けられる。

兄上が好きで気持ちがあふれてきそうになる。

兄上の唇が近づいてきたので、ボクは両手を伸ばし兄上の口に当てる。

ヴォルフリック兄上が悲しそうにボクを見る。兄上を傷つけてしまっただろうか?

「外ですし、恥ずかしいです」

ボクは兄上から顔を逸らした。

昨日は人が見ていても外でキスができたのに。兄上を愛していると気づいたら、外でキスするのが恥ずかしくなった。

「そうか、なら馬車の中でしよう」

「ばっ、馬車の中でですか……!?」

馬車の中で兄上と半日キスをしていたのは、つい先日のこと。今さら馬車の中でキスするぐらいなんてことはない。

なんてことはないんだけど……。

「やっ、屋敷までは我慢してください」

ヴォルフリック兄上は残念そうに眉根を下げ、かすかにうなずいた。

「では残念だが屋敷まで我慢するとしよう」

「屋敷に着いたら、朝までキスする」兄上がボクの耳元でささやく。

ボンと音を立てて、ボクの顔が耳まで赤く染まる。

兄上と一晩中キス?! 嬉しいけど恥ずかしい!


◇◇◇◇◇
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