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加筆③ー2「ライバル令嬢の足止めと、鬼よりも怖い皇太子」アルファポリス限定
しおりを挟むその件については、ボワアンピール帝国からの皇族から正式に発表があったはずだ。
レーゲンケーニクライヒ王国のポンコツ王太子と俺の婚約は、王太子の有責で破棄されたって。
いるんだよな。
自分に不利益な情報は無視して、自分に都合のいい情報だけ取り入れるやつが。
この子もそんなタイプかな?
「申し訳ありませんが、今は約束がありますので、その件につきましてはまた別の機会に……」
できるだけ波風を立てたくないので、敬語で対応した。
貴族らしい喋り方をするのは苦手だ。
「まあ、わたくしが話している途中ですのに、
どこに行くおつもりですの?
公爵令嬢であるわたくしと話すより、
大切な約束があると言いますの?」
公爵令嬢が眉間に皺を寄せ、キッと俺を睨みつけた。
「はい。かなり大切な約束がありまふ」
あの人を持たせると、あとが怖いからな。
蔑ろにされたと思ったのか、公爵令嬢はぎりっと奥歯を噛み締めた。
「わたくしの話はまだ終わっていませんわ!
そんな約束など無視してしまいなさい!」
「それは難しいですね……」
「ザフィーア君、ここにいたのか。
時間になっても現れないから、探しに来たよ」
廊下をコツコツと歩いてくる音が聞こえた。
その音を聞いて、俺は嫌な予感がした。
振り返ると、穏やかな笑みを称えたヴェルテュ様が立っていた。
俺にはわかる。
彼はニコニコと笑ってるけど、あれは作り笑いで、内心めちゃくちゃ怒ってるって事が……。
もしかしなくても、ヴェルテュ様は俺が約束の時間に遅れたことにめちゃくちゃ怒ってるのかな?
「ヴェルテュ様、約束に遅れてしまい申し訳……」
俺はとりあえず謝罪することにした。
「皇太子殿下、ちょうど良い所にいらしてくれましたわ。
殿下からもこのよそ者に、一言言ってください」
しかし謝罪の言葉は、公爵令嬢に遮られてしまった。
公爵令嬢はヴェルテュ様の笑顔が、作り笑いだと見抜けなかったようだ。
あの方の逆鱗に触れないといいけど……。
「君は、ナントカナル公爵家のカントリーナ嬢だったね」
「はい。皇太子殿下に覚えていただいて光栄ですわ」
公爵令嬢は名前を覚えられたことも嬉しいのか、頬を染めていた。
そんな公爵令嬢を見て、ヴェルテュ様が笑顔を消し、すっと目を細めた。
「僕は君に発言する許可を与えたかな?」
「えっ……?」
ヴェルテュ様に絶対零度の視線を向けられ、公爵令嬢の顔から笑顔が消えた。
「僕は今ザフィーア君と話しているんだよ。
それなのに君は、彼の言葉を遮り、僕の許可なく発言した。
ナントカナル公爵家では、教育はどういう教育をしているのかな?」
ヴェルテュ様に真冬の湖よりも冷たい視線で睨まれ、なんとか公爵令嬢の顔から血の気が引いていった。
「ザフィーア君はね、僕と会う約束をしていたんだよ。
君が彼を引き止めたから、彼は約束の時間に遅れてしまった。
わかるかな?
君は皇太子である僕の時間を無駄に使わせたんだよ」
公爵令嬢は真っ白い顔でパクパクとさせていた。
何か言い訳したいけど言葉が出てこないんだろう。
「それとも……。
君は皇太子である僕との約束より、
自分との無駄話のが大事だっていうのかな?」
「……そ、そのようなことは……け、決して……」
公爵令嬢は消えるような声で弁明した。
彼女の体はガタガタと震えていた。
「不愉快だ。
僕の前から消えてくれる?
永遠にね」
そう言ったヴェルテュ様の目はギラリと冷たく光っていて、鬼でも話して逃げ出すほど恐ろしい眼力だった。
「し、失礼いたしました……!!」
公爵令嬢は、ヴェルテュ様に頭を下げると、逃げるようにこの場は立ち去っていった。
途中、彼女はドレスの裾を踏んで盛大に転んでいた。
公爵令嬢はなんとか立ち上がり、足を引き釣りながら廊下の向こうまで走って行った。
この国の貴族令嬢は根性があるな。
俺ならヴェルテュ様にあんな顔されたら泣きべそかいてる。
それはそうと、俺はまだ彼に謝罪していなかった。
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