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九十五話「アモルド・ジーゲル④」
しおりを挟むーーアモルド・ジーゲルーー
ザフィーア様が王都を立つ日。
粗末な服をまとい、靴を履くことも許されず、やつれた顔をしたザフィーア様の姿を目にしたとき、わたしの胸はズタズタに切り裂かれたように痛んだ。
わたしよりザフィーア様の心の方が、百倍傷ついているだろう。
おいたわしやザフィーア様! ザフィーア様の靴になり、おみ足を守って差し上げたい。
王都を出るとき、民衆に罵声を浴びせられ、石を投げつけられた。
ザフィーア様の盾になり、降り注ぐ石や罵声からザフィーア様を守って差し上げたい! だがわたしは神子に買収され、ザフィーア様を殺す命令を受けている。ここでアインス公爵の命令を受けていることを知られる訳にはいかない!
わたしには「止めろ! 罪人の護送中だ!」と言うことしかできなかった。
◇◇◇◇◇
国境まで来たとき、大地は二つに引き裂かれ、眼下にはどこまでも続く深い谷が広がっていた。
雪解け水で水量の増しているのか、谷底からゴーゴーと激しい水音が聞こえる。
ここから落ちたらひとたまりもないだろう。
「着きましたよ、ザフィーア様」
「恨みはないのですが、死んでいただきます」
そう口にしたのはわたし以外の二人の兵士。わたしは二人の背後で、兵士を殺すタイミングをはかっていた。
わたしはためらわずに、さっさと背後から二人の兵士を斬り殺すべきだったのだ。
わたしはうかつにも一瞬、ザフィーア様との逃亡生活に思いをはせてしまった。
「剣を使う必要はないよ、僕は一人で死ねるから」
わたしがもたもたしている間に、ザフィーア様が全てを諦め絶望した瞳でそう言い放ち、自ら崖に身を投じた。
わたしは大バカものだ! 大切な人を! 命をかけてお守りすべきお方を! 一瞬の判断ミスで死なせてしまうなんて……!!
悔やんでも悔やみきれない!!
◇◇◇◇◇
ザフィーア様のあとを追って死にたかったが、わたしには生き残りやらなければならないことがある。
二人の兵士を言いくるめなくては……!
「神子様のご気性を考えると、ザフィーアをむざむざ死なせたと報告したらこちらの身が危ない。抵抗されたので斬った、遺体は崖から落ちたと話そう」
そう話すと、我が身可愛さに二人の兵士は首を縦に振った。
アインス公爵の命令を守れず、ザフィーア様を死なせてしまった罪は、王都に帰還後死を以て償う。
わたしの使命は、ザフィーア様が尊厳を守る道を選んだことを、アインス公爵に報告することだ。
ザフィーア様が清い体のまま、潔く自害したことをアインス公爵にお伝えしなくては。死ぬのはそれからでも遅くない。
その思いだけを支えに王都に帰り、アインス公爵にことの顛末を報告した。
その後神子に報告に行き、神子の怒りを買い牢屋に繋がれた。他の二人が拷問に耐えかね真実を話してしまわないかとハラハラしたが、その心配はなかった。
二人の兵士は神子の好みでなかったらしく、あっさり殺された。
そしてわたしは母と妹を人質に取られ、自害することも許されず、神子の玩具に成り下がり、無様に生きながらえている。
◇◇◇◇◇
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