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九十六話「アモルド・ジーゲル⑤」
しおりを挟むーーアモルド・ジーゲルーー
ーー現在、牢屋ーー
「ひどい有様だな」
聞き覚えのある声に顔をあげる。
「アインス公爵……!」
このような卑しい場所に来るような方ではないのにどうして……?
「声を抑える必要はない、周りの者は寝ている」
眠りの魔法を使ったのだろうか ?いやそんな事より……!
「申し訳ありませんでしたっっ!!」
わたしは床に頭をこすりつけ、アインス公爵に謝罪した。
王都に帰ったときも謝罪したが、なんど謝ってもたりぬ!
「わたしのミスでザフィーア様をみすみす、死に追いやってしまいました!!」
家族を人質に取られていなければ、今すぐ喉を切って死にたい!!
「頭をあげよ」
「しかし……!」
「その様子だと、ザフィーアへの尊敬の念はまだ失っていないようだな」
「わたしがザフィーア様に抱く崇拝の気持ちは、アインス公爵の命を受けたあの日から一ミリも代わっておりません!!」
「謝罪は不要だ」
「ですが……!」
「ザフィーアは生きている」
「えっ?!」
アインス公爵の言葉に思わず頭をあげる。アインス公爵は威厳のある表情で、堂々と立っていた。
嘘を言っているようには見えない。
「詳細は省くがザフィーアは生きている」
「よかった! よかったぁぁあ……!」
ボロボロと涙が溢れ、床に染みを作る。
「そなた、私とザフィーアの為にもう一度働く気はあるか?」
バッと顔を上げる。袖で涙を脱ぐい真っすぐにアインス公爵を見上げる。
「何度でもお仕えいたします!!」
アインス公爵はわたしに汚名返上の機会をくださるというのか?
「良い返事だ、そなたの母と妹は助けた。存分に働くがいい」
アインス公爵の話では、神子はわたしとの約束通り母と妹を家に帰そうとしたらしい。ただし無傷ではなく傷物にして。
母の目の前で無頼な輩に妹を犯させ、精神を病んだ母を麻薬中毒にし、妹は自ら娼館に入るように仕向ける計画だったようだ。
アインス公爵が二人を助け出してくれなかったらどうなっていたことか!
おのれ神子め! どこまでも根性が腐った男だ!! 絶対に許せん!!
「そなたには神子の計画の証人になってもらう。移送中のザフィーアを陵辱してからの暗殺計画。生贄に集めた者の中から見目の良い男を選び手篭めにしていたこと。神子という聖職に就き、王太子の婚約者という立場にありながら、他の男たちと通じ処女を失っていたことを公にする! 教会の教えを厳格に守るそなたには辛いことかもしれぬ……」
「ザフィーア様を失うこと以上に辛いことなどありません!! ザフィーア様が受けた仕打ちに比べたら、わたしが受けた仕打ちなど赤子に叩かれた程度のダメージしかありません!!」
「では証言してくれるのだな?」
「アモルド・ジーゲル命にかえても証言いたします!!」
ザフィーア様は生きていた! 神子を失脚させる証人になれる!
神様、ザフィーア様を天国に連れて行かないでくださりありがとうございます!!
汚名返上のチャンスを与えてくださったことに感謝いたします!!
わたしはアインス公爵の手により牢屋から出された。
汚らわしく残忍で狡猾な水の神子! 首を洗って待っているがいい! 貴様の悪事を洗いざらい暴露してやる!!
◇◇◇◇◇
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