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97話「モンターニュ村から、帝都フォレ・カピタールまで」
しおりを挟む事後シャワーを浴び、衣服を整えていると、トマが血相を変えて飛び込んできた。
俺たちが広場に行くまで、家には誰も近づかないと思っていたから油断してた。
服は着たけど、まだ匂いが……! じゃなくて、トマが顔色を変えて飛び込んで来るなんてただ事じゃない。
広場に向かいながらトマに話を聞くと、ラック・ヴィルの市長とギルド長がモンターニュ村に手下を連れて乗り込んで来たらしい。
ラック・ヴィルでノヴァさんにギルドの職員をボコボコにされたことを逆恨みしたのだろうか?
しかし事態はもっと深刻だった。
「モンターニュ村は疫病が蔓延していると聞く、モンターニュ村の住人がラック・ヴィルに来たら疫病がラック・ヴィルに広まってしまう。だからモンターニュ村ごと焼き払うことにした!」
ラック・ヴィルの市長と名乗る男が、松明を片手に言い放つ。
モンターニュ村の人たちは後ろ手に縛られ、広場に転がされていた。
まずい! なんとかしないと!
俺は吹雪で、市長と市長の手下が持っている松明を凍らせた。
ノヴァさんが音速で市長の手下に当て身を食らわせ、剣を市長の喉元に突きつける。
「疫病の村を焼き払うには皇帝陛下の許しがいる、皇帝陛下の印のある許可証をもっているのか!」
ノヴァさんが市長に凄む。
「へ、陛下の許可ならもらっている……! 昨日帝都まで早馬を飛ばし、皇帝陛下から直に賜ってきたのだ……!」
市長は震える手で許可証を取り出した。
ノヴァさんが許可証を見て、鼻で笑う。
「陛下は今身体を患い床に伏せっている、許可証など出せん。皇太子殿下が代理政権を行っていることも知らないのか?」
ノヴァさんの言葉に市長の顔が青くなる。
「それに俺の知る皇太子殿下は疫病の村を焼き払う許可証など絶対に出さん! 皇印を偽造は重罪だ!! 皇帝陛下の命と偽り罪のない民を殺そうとした罪は重い! 帝都の兵に引き渡してくれる!!」
ノヴァさんが市長をぶん殴った。市長は「ひでぶっ……!」と叫び、ゴロゴロと地面を転がった。
ラック・ヴィルの市長とその手下はノヴァさんが帝都の兵士に事情を話すまで、村の牢屋に入れることになった。
「こんなことをしてただですむと思うなよ! 私は帝都の貴族に知り合いが多いのだ!! 牢屋なとすぐに出て貴様らに復讐しさてやる!!」
往生際悪く市長が喚く。貴族に知り合いがいようが、皇帝陛下の印を偽造したら死罪は免れないと思うが。
ラック・ヴィルと市長の耳元でノヴァさんが何かささやいた。その途端、市長の顔から血の気が引き市長がガタガタと震えだした。
ノヴァさんは市長になんて言ったのかな? 気になる。
後でノヴァさんに聞いてみたが、市長に何を囁いたのか教えてはもらえなかった。
◇◇◇◇◇
その夜はラック・ヴィルの宿には泊まらず、帝都に向かった。
ノヴァさんは白羊宮の新月までに帝都フォレ・カピタールに帰らないといけないらしい。
ラック・ヴィルの宿屋でのセックスはなくなった。ホテルでのセックスを期待していたからちょっと残念……いや何でもない。
変わりにラック・ヴィルから帝都への街道で、馬車を街道の端に止め馬車の荷台でいちゃいちゃした。
ノヴァさんが御者付きの豪華な馬車ではなく、荷馬車を買ったのは、荷台でセックスしたかったからのようだ。
豪華なホテルでのセックスもいいけど、星の数を数えながら馬車の荷台でする性行為もそれはそれで萌えた。
◇◇◇◇◇
帝都の入口に着いたのは、白羊宮の新月の前日の午前中だった。
帝都というだけあってフォレ・カピタールの城壁は高く厚く城門も立派だ。
若い門番に馬車を止められ「身分証を提出しろ! 身分証がない者を帝都に入れることはできん!」と言われた。
帝都の入口になると、チェックも厳しい。
まずいな、【シエル】なんて人間はこの世に存在しない。身分証なんかある分けがない。
本名のザフィーア・アインスとは名乗れないし…………どうしよう?? このままでは王都に入れない、完全に詰んだ。
「ノヴァさん、俺身分証がないのでここで待ってます。ノヴァさんは今日の夜までにご実家に帰らないといけないんですよね? 俺のことは気にしないで、ノヴァさんだけ帝都に入ってください」
「シエル、私と一緒にいて身分証の心配など不要だ」
ノヴァさんが不敵に笑い、耳元で囁く。
ノヴァさんのその自信はどこから来るんだ?
「おい! 何をひそひそと話している!」
内緒話を不快に思ったのか、兵士がノヴァさんに槍を向ける。
「シエルに槍を向けるとはいい度胸だ、貴様死にたいようだな?」
ノヴァさんが兵士を睨めつける。
「シエルは私の妻だ、身分は私が保証する。だからそこを通せ」
ノヴァさんの言葉に若い兵士が何言ってんだこいつ? みたいな顔をしていた。年配の兵士が慌てた様子で走ってきて、若い兵士の頭を叩いた。
ボコッと音がしたから相当強く叩かれたと思う。叩かれた兵士の目から星が飛び出した気がした。
しかしノヴァさんに槍を向けた若い兵士の不幸はそれで終わらなかった。他の兵士にも殴られたり蹴られたりしていた。動けなくなり地面に伸びだ若い兵士を、他の兵士が引きづってどこかに連れて行った。
「カル……いえ、ノヴァ様、部下が大変失礼いたしました。新人なものでお許し下さい。きつく叱っておきますので」
年配の兵士は低姿勢で終始謝っていた。
「分かればいい、気にするな」
「ノヴァ様の寛大なお心に感謝いたします」
年配の兵士が深く頭を下げる。
「通ってもよいか?」
「もちろんでございます」
結局俺たちは、身分証の提示をすることもなく、荷物のチェックも受けることなく、帝都に入ることができた。
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