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五十一話「モンターニュ村の少年②」
しおりを挟む「病だと?」
「気持ち悪い! 俺たちに触れるなこの疫病神が!!」
男に殴られ少年が地面を転がる。口の端を切ったようで血を流している。
「お願いです! お金は何年かかっても払います、だから魔物を倒して下さい……!」
少年がまた立ち上がり、男にすがりつく。
「金の問題じゃねぇ! さわるな!
病気が移る!」
男が少年を蹴り飛ばした。少年は地面に転がり動かなくなった。
「二度と来ないように打ち付けておけ!」
「はい!」
もう一人の男が棍棒に手をかける。
「止めろ! 相手は子供だ! しかももう意識がない! これだけやれば十分だろ!」
俺は男たちと子供の間に飛び出していた。
「なんだでめぇは? このガキの仲間か?」
二人の男が俺をギロリと睨む。
「知らない子だ! だけど見過ごせない!」
俺も負けずににらみ返す。
「ならお前が子供の代わりに殴られるか?」
「こっちはこのガキに病原菌をばらまかれて迷惑してるんだ、迷惑料と消毒費用も請求してぇな!」
男たちが俺に詰め寄る。
いざとなったら眠りの呪文で眠らせよう。目覚めさせる呪文を知らないからあんまりかけたくないのだが。
「それとも体で払ってくれるのか?」
「見ろよ! すげぇ上玉だ!」
ローブのフードをめくられてしまった。ザフィーアの容姿は目立つから人前で顔を晒したくなかったのに……。
「あんたが宿の二階に来てくれれば、このガキは見逃してやってもいいぜ」
「離せ!」
男の一人が俺の腕を掴む。
「可愛い顔に似合わず気が強いな、いいね俺の好み」
もう一人の男が俺の腰に手を回す。
「触んな!」
やっぱり眠りの魔法をかけるか、起きなかったら、起きなかったときだ。
「お姉ちゃんを離せ……!」
蹴り飛ばされ倒れていたはずの少年が、男の足にしがみついていた。
「まだ生きてたのか? 寝てろクソガキ!」
男が棍棒を振り上げる!
「止めろ! その子に手を出すな!」
ドカッ! バキッ! ぐしゃ! バキバキっっ!!
嫌な音がして、俺に絡んできた男たちが地面に倒れていた。
「ノヴァさん!」
「大丈夫か! シエル!」
俺は倒れていた子供に駆け寄り「回復」を唱えた。
少年の傷が癒えていくのを見てホッと息を吐く。
視線を感じ振り返ると、ノヴァさんが腕を広げたまま固まっていた。俺が胸の中に飛び込んで行くのを期待してたんだろうな、悪いことをしてしまった。
「私ですら、シエルに抱き上げてもらったたことはない……、シエルに回復魔法をかけてもらったこともない……、その上膝枕だと……!」
ノヴァさんがブツブツと呟いている。目に闇が宿り黒いオーラがただ漏れになっている。
「ノヴァさん……?」
俺がうっかり少年を抱き上げ、膝枕してしまったのがいけなかったようだ。
「なんだ?」
「騒々しいな!」
「なんの騒ぎだ?」
建物の中からがたいのいい男たちがぞろぞろと出てきた。
「こっ、こいつに……やられ、た……!」
ノヴァさんにボコボコにされた男が、寝転がったままノヴァさんを指差す。
「オレたちに楯突くとはいい度胸だ!」
「やっちまえ!」
「覚悟しやがれ!」
数は十五人ぐらい、がたいがよく武器を手にしている。
男たちが一斉にノヴァさんに飛びかかる。
「ノヴァさん!」
俺が叫んだ三秒後……ノヴァさんに飛びかかった男たちは全員地面に転がっていた。
「相手が悪かったな」
ノヴァさんは剣すら抜いておらず、息一つ乱れていなかった。ノヴァさん銀色の髪が風にサラサラとなびく。
ノヴァさんの怒りが少年でなく、男たちに向いてくれてよかった。
それにしても……ノヴァさんって戦っているときってかっこいいんだな。S級冒険者の称号は伊達じゃないや。
◇◇◇◇◇
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