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三十七話「起きて下さい!②」
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「シエル、怒っているのか?」
俺は駅馬車の隅の席に座り、フードを深く被っている。
「のどが渇いてないか? みかんを食べるか? 水を飲むか?」
俺は寝たふりをしたいので話しかけないでほしい。
情事を終えた俺はもう一度とねだるノヴァさんを無視し、急いで身支度を整え部屋を出た。ノヴァさんに付き合っていたら一日中抱かれてしまう。
部屋を出たとき、偶然隣の部屋のリナちゃんとリナちゃんのお母さんに会った。
リナちゃんのお母さんは気まずそうな顔で俺に近づくと「ここ壁が薄いですから、そのリナは早く寝ていたから夜のあれは聞いてないと思います…………朝のそれも準備運動だと言ってごまかしておきました」と耳元でささやき、ほほを染めた。
俺とノヴァさんが泊まった部屋は、宿の二階にある一番奥。多分声はリナちゃんとリナちゃんのお母さんの泊まった部屋にしか聞こえていないと思う。
でもそれでも…………! 性行為中の音を聞かれてた…………!?
俺を打ちのめすのにはその事実だけで十分だった。
リナちゃんのお母さんがリナちゃんを連れて、階下に降りるまで俺は固まっていた。
俺の体は足の指先から頭のてっぺんまで、唐辛子を百個食べたぐらい熱くなり、りんごのように真紅に染まった。
もしかして、リーヴ村の宿に泊まったときも声を聞かれてたのか……?
恥ずかしい! 恥ずかしすぎる! 羞恥心で死ねる!!
遅れて部屋から出てきたノヴァさんに、「シエル、もう一泊しよう。二度では足りぬ」とささやかれ後ろから抱きしめられた。
精神的に追い詰められていた俺は、耳にチュッチュッとキスしてくるノヴァさんのお腹にエルボーをくらわせ、足を思いっきり踏んづけていた。
それからノヴァさんとは一言も話していない。馬車の中でも寝たふりを決め込んでいる。
リナちゃんとリナちゃんのお母さんの前で会話をする精神力は、今の俺にはない。
「お姉ちゃんとお兄さんケンカしたの? 飴上げるから仲直りして」
前の席に座っていたリナちゃんが飴をくれた。
リナちゃんに清らかな目で見られると、いたたまれない気持ちになる。
こんな純粋な子に、情事中の音を聞かせてしまったのか……罪悪感で胸がズキズキといたむ。
「ありがとう、リナちゃん」
子供に心配されたのでは、寝たふりは出来ない。リナちゃんと目を合わせずに飴を受け取る。
「シエル……」
ノヴァさんが、不安そうな顔で俺を見ていた。
朝のことは死ぬほど恥ずかしかったけど、いい加減忘れて、ノヴァさんともちゃんと向き合わないとな。
「えっと……、ノヴァさん」
「なんだ?」
話しかけられたのが嬉しかったのか、ノヴァさんが瞳を輝かせた。ずっと無視していて悪いことをした。
「ノヴァさんに聞きたいことがあります、ラック・ヴィルに着いたら時間をもらえますか?」
俺はノヴァさんのセフレですか? ノヴァさんは遊び人なんですか? 指輪はそのための小道具ですか? なんて馬車の中では聞けないし子供の前でする話でもない。
「シエルのためならいくらでも時間を作る!」
ノヴァさんが俺の手を取りぎゅっと握りしめた。
ノヴァさんの顔が近い、キスしたくなるからあんまり顔を近付けないでほしいな。
「仲直り出来たの偉いね、いいこいいこ」
リナちゃんが俺とノヴァさんの頭をなでた。子供に子供扱いされてる。
◇◇◇◇◇
俺は駅馬車の隅の席に座り、フードを深く被っている。
「のどが渇いてないか? みかんを食べるか? 水を飲むか?」
俺は寝たふりをしたいので話しかけないでほしい。
情事を終えた俺はもう一度とねだるノヴァさんを無視し、急いで身支度を整え部屋を出た。ノヴァさんに付き合っていたら一日中抱かれてしまう。
部屋を出たとき、偶然隣の部屋のリナちゃんとリナちゃんのお母さんに会った。
リナちゃんのお母さんは気まずそうな顔で俺に近づくと「ここ壁が薄いですから、そのリナは早く寝ていたから夜のあれは聞いてないと思います…………朝のそれも準備運動だと言ってごまかしておきました」と耳元でささやき、ほほを染めた。
俺とノヴァさんが泊まった部屋は、宿の二階にある一番奥。多分声はリナちゃんとリナちゃんのお母さんの泊まった部屋にしか聞こえていないと思う。
でもそれでも…………! 性行為中の音を聞かれてた…………!?
俺を打ちのめすのにはその事実だけで十分だった。
リナちゃんのお母さんがリナちゃんを連れて、階下に降りるまで俺は固まっていた。
俺の体は足の指先から頭のてっぺんまで、唐辛子を百個食べたぐらい熱くなり、りんごのように真紅に染まった。
もしかして、リーヴ村の宿に泊まったときも声を聞かれてたのか……?
恥ずかしい! 恥ずかしすぎる! 羞恥心で死ねる!!
遅れて部屋から出てきたノヴァさんに、「シエル、もう一泊しよう。二度では足りぬ」とささやかれ後ろから抱きしめられた。
精神的に追い詰められていた俺は、耳にチュッチュッとキスしてくるノヴァさんのお腹にエルボーをくらわせ、足を思いっきり踏んづけていた。
それからノヴァさんとは一言も話していない。馬車の中でも寝たふりを決め込んでいる。
リナちゃんとリナちゃんのお母さんの前で会話をする精神力は、今の俺にはない。
「お姉ちゃんとお兄さんケンカしたの? 飴上げるから仲直りして」
前の席に座っていたリナちゃんが飴をくれた。
リナちゃんに清らかな目で見られると、いたたまれない気持ちになる。
こんな純粋な子に、情事中の音を聞かせてしまったのか……罪悪感で胸がズキズキといたむ。
「ありがとう、リナちゃん」
子供に心配されたのでは、寝たふりは出来ない。リナちゃんと目を合わせずに飴を受け取る。
「シエル……」
ノヴァさんが、不安そうな顔で俺を見ていた。
朝のことは死ぬほど恥ずかしかったけど、いい加減忘れて、ノヴァさんともちゃんと向き合わないとな。
「えっと……、ノヴァさん」
「なんだ?」
話しかけられたのが嬉しかったのか、ノヴァさんが瞳を輝かせた。ずっと無視していて悪いことをした。
「ノヴァさんに聞きたいことがあります、ラック・ヴィルに着いたら時間をもらえますか?」
俺はノヴァさんのセフレですか? ノヴァさんは遊び人なんですか? 指輪はそのための小道具ですか? なんて馬車の中では聞けないし子供の前でする話でもない。
「シエルのためならいくらでも時間を作る!」
ノヴァさんが俺の手を取りぎゅっと握りしめた。
ノヴァさんの顔が近い、キスしたくなるからあんまり顔を近付けないでほしいな。
「仲直り出来たの偉いね、いいこいいこ」
リナちゃんが俺とノヴァさんの頭をなでた。子供に子供扱いされてる。
◇◇◇◇◇
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