37 / 131
三十七話「起きて下さい!②」
しおりを挟む
「シエル、怒っているのか?」
俺は駅馬車の隅の席に座り、フードを深く被っている。
「のどが渇いてないか? みかんを食べるか? 水を飲むか?」
俺は寝たふりをしたいので話しかけないでほしい。
情事を終えた俺はもう一度とねだるノヴァさんを無視し、急いで身支度を整え部屋を出た。ノヴァさんに付き合っていたら一日中抱かれてしまう。
部屋を出たとき、偶然隣の部屋のリナちゃんとリナちゃんのお母さんに会った。
リナちゃんのお母さんは気まずそうな顔で俺に近づくと「ここ壁が薄いですから、そのリナは早く寝ていたから夜のあれは聞いてないと思います…………朝のそれも準備運動だと言ってごまかしておきました」と耳元でささやき、ほほを染めた。
俺とノヴァさんが泊まった部屋は、宿の二階にある一番奥。多分声はリナちゃんとリナちゃんのお母さんの泊まった部屋にしか聞こえていないと思う。
でもそれでも…………! 性行為中の音を聞かれてた…………!?
俺を打ちのめすのにはその事実だけで十分だった。
リナちゃんのお母さんがリナちゃんを連れて、階下に降りるまで俺は固まっていた。
俺の体は足の指先から頭のてっぺんまで、唐辛子を百個食べたぐらい熱くなり、りんごのように真紅に染まった。
もしかして、リーヴ村の宿に泊まったときも声を聞かれてたのか……?
恥ずかしい! 恥ずかしすぎる! 羞恥心で死ねる!!
遅れて部屋から出てきたノヴァさんに、「シエル、もう一泊しよう。二度では足りぬ」とささやかれ後ろから抱きしめられた。
精神的に追い詰められていた俺は、耳にチュッチュッとキスしてくるノヴァさんのお腹にエルボーをくらわせ、足を思いっきり踏んづけていた。
それからノヴァさんとは一言も話していない。馬車の中でも寝たふりを決め込んでいる。
リナちゃんとリナちゃんのお母さんの前で会話をする精神力は、今の俺にはない。
「お姉ちゃんとお兄さんケンカしたの? 飴上げるから仲直りして」
前の席に座っていたリナちゃんが飴をくれた。
リナちゃんに清らかな目で見られると、いたたまれない気持ちになる。
こんな純粋な子に、情事中の音を聞かせてしまったのか……罪悪感で胸がズキズキといたむ。
「ありがとう、リナちゃん」
子供に心配されたのでは、寝たふりは出来ない。リナちゃんと目を合わせずに飴を受け取る。
「シエル……」
ノヴァさんが、不安そうな顔で俺を見ていた。
朝のことは死ぬほど恥ずかしかったけど、いい加減忘れて、ノヴァさんともちゃんと向き合わないとな。
「えっと……、ノヴァさん」
「なんだ?」
話しかけられたのが嬉しかったのか、ノヴァさんが瞳を輝かせた。ずっと無視していて悪いことをした。
「ノヴァさんに聞きたいことがあります、ラック・ヴィルに着いたら時間をもらえますか?」
俺はノヴァさんのセフレですか? ノヴァさんは遊び人なんですか? 指輪はそのための小道具ですか? なんて馬車の中では聞けないし子供の前でする話でもない。
「シエルのためならいくらでも時間を作る!」
ノヴァさんが俺の手を取りぎゅっと握りしめた。
ノヴァさんの顔が近い、キスしたくなるからあんまり顔を近付けないでほしいな。
「仲直り出来たの偉いね、いいこいいこ」
リナちゃんが俺とノヴァさんの頭をなでた。子供に子供扱いされてる。
◇◇◇◇◇
俺は駅馬車の隅の席に座り、フードを深く被っている。
「のどが渇いてないか? みかんを食べるか? 水を飲むか?」
俺は寝たふりをしたいので話しかけないでほしい。
情事を終えた俺はもう一度とねだるノヴァさんを無視し、急いで身支度を整え部屋を出た。ノヴァさんに付き合っていたら一日中抱かれてしまう。
部屋を出たとき、偶然隣の部屋のリナちゃんとリナちゃんのお母さんに会った。
リナちゃんのお母さんは気まずそうな顔で俺に近づくと「ここ壁が薄いですから、そのリナは早く寝ていたから夜のあれは聞いてないと思います…………朝のそれも準備運動だと言ってごまかしておきました」と耳元でささやき、ほほを染めた。
俺とノヴァさんが泊まった部屋は、宿の二階にある一番奥。多分声はリナちゃんとリナちゃんのお母さんの泊まった部屋にしか聞こえていないと思う。
でもそれでも…………! 性行為中の音を聞かれてた…………!?
俺を打ちのめすのにはその事実だけで十分だった。
リナちゃんのお母さんがリナちゃんを連れて、階下に降りるまで俺は固まっていた。
俺の体は足の指先から頭のてっぺんまで、唐辛子を百個食べたぐらい熱くなり、りんごのように真紅に染まった。
もしかして、リーヴ村の宿に泊まったときも声を聞かれてたのか……?
恥ずかしい! 恥ずかしすぎる! 羞恥心で死ねる!!
遅れて部屋から出てきたノヴァさんに、「シエル、もう一泊しよう。二度では足りぬ」とささやかれ後ろから抱きしめられた。
精神的に追い詰められていた俺は、耳にチュッチュッとキスしてくるノヴァさんのお腹にエルボーをくらわせ、足を思いっきり踏んづけていた。
それからノヴァさんとは一言も話していない。馬車の中でも寝たふりを決め込んでいる。
リナちゃんとリナちゃんのお母さんの前で会話をする精神力は、今の俺にはない。
「お姉ちゃんとお兄さんケンカしたの? 飴上げるから仲直りして」
前の席に座っていたリナちゃんが飴をくれた。
リナちゃんに清らかな目で見られると、いたたまれない気持ちになる。
こんな純粋な子に、情事中の音を聞かせてしまったのか……罪悪感で胸がズキズキといたむ。
「ありがとう、リナちゃん」
子供に心配されたのでは、寝たふりは出来ない。リナちゃんと目を合わせずに飴を受け取る。
「シエル……」
ノヴァさんが、不安そうな顔で俺を見ていた。
朝のことは死ぬほど恥ずかしかったけど、いい加減忘れて、ノヴァさんともちゃんと向き合わないとな。
「えっと……、ノヴァさん」
「なんだ?」
話しかけられたのが嬉しかったのか、ノヴァさんが瞳を輝かせた。ずっと無視していて悪いことをした。
「ノヴァさんに聞きたいことがあります、ラック・ヴィルに着いたら時間をもらえますか?」
俺はノヴァさんのセフレですか? ノヴァさんは遊び人なんですか? 指輪はそのための小道具ですか? なんて馬車の中では聞けないし子供の前でする話でもない。
「シエルのためならいくらでも時間を作る!」
ノヴァさんが俺の手を取りぎゅっと握りしめた。
ノヴァさんの顔が近い、キスしたくなるからあんまり顔を近付けないでほしいな。
「仲直り出来たの偉いね、いいこいいこ」
リナちゃんが俺とノヴァさんの頭をなでた。子供に子供扱いされてる。
◇◇◇◇◇
424
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される
水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。
絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。
長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。
「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」
有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。
追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる