25 / 131
二十五話「駅馬車の旅①」
しおりを挟む主人公視点
「ふわぁぁ……」
大きく口を開けあくびをしてから、あわてて口を抑える。やば、今は女の子の格好をしているんだから大あくびはまずいよな。
ちらりと周りに目をやると、何人かの男がこちらをちらちら見てひそひそと話していた。
所作で男だってバレたかな? 女装している男は気持ち悪いとか言ってるのかもしれない。
この世界の朝は早い、日が昇るとすぐにお店は開業するし、学校の授業もはじまる。駅馬車の出発時間も日の出の三十分後だ。
夜はまだ明けきっておらず、西の空にはわずかに星が見える。
ノヴァさんと日付が変わる時刻まで性行為
……解毒治療していたから睡眠不足だ。
腰の痛みは回復魔法で治ったが、眠気だけはどうしようもない。
もう一度あくびをしようとしたとき、ふわっと肩に何かが触れた。
「ノヴァさん?」
大あくびしてるの見られたかな?
「ローブだ、朝晩は冷える」
「これを買いに行ってたんですか?」
「ああ」
肩に触れたものはノヴァさんが買ってきてくれたローブだった。
ノヴァさんが買い物している間、村の中央にある広場で待っているように言われた。
「いや、でも受け取れません」
「気にするな」
「でも……」
「風邪をひかれては困る」
確かに風邪をひいたらノヴァさんに迷惑をかけてしまう。ありがたく受け取ろう。
「すみません、ローブまで買って頂いて」
前にボタンが着いた水色のロングワンピースの上に、濃い青色のフード付きのローブを身にまとう。青色のローブは水色のワンピースと白いブーツとよく合っていた。
「そなたの容姿は目立つ」
ノヴァさんかローブのフードを掴み、俺の頭にかぶせる。
「男の目を引き過ぎて、牽制するのが大変だ」
ノヴァさんがボソリとなにか呟いたが、よく聞こえなかった。
広場で待っている間、村の人間をそれとなく観察していたが、金髪碧眼の人間はいなかった。
田舎だからかもしれないが、ザフィーアの容姿は確かに目立つ。
金色のストレートヘアのボブカット、天色の瞳、目鼻立ちが整った顔、白くてきめが細かな肌、華奢な体……隠れて旅するにはザフィーアの容姿は目立ちすぎるんだよな。
護送中に逃げ出した身としては、目立つのは良くないのでフードを目深に被る。
しかし目立つという意味ではノヴァさんの容姿も人目を引く。
さらさらの銀の髪に、切れ長のアメジストの瞳、ギリシャ彫刻のような整った顔。程よく筋肉のついた体に、スラリとした長身。
村の女の子たちがノヴァさんを見てきゃあきゃあ言っている。
ノヴァさんの漆黒のマントにはフードがついてない。フードがないなら帽子でも被ってくれないかな。
俺はなんでイライラしてるんだろ? ノヴァさんがモテても俺には関係ないのに。
ノヴァさんと俺の関係はセフレ……良くて医者と患者のような関係だ。体の関係はあっても恋人じゃない。
ノヴァさんに好きな人ができて、治療を止めたいと言われても俺にはどうすることも出来ない。
今は婚約者も恋人もいないって言ってるけど、こんなに格好いいんだから、周りがほっとかないよな。
ノヴァさんが知らない女と腕を組んで歩いているところを想像したら……もやもやした。
「駅馬車が出発する時間だ、行こう」
「はい」
ノヴァさんに手をひかれる。
ノヴァさんを見てキャッキャッと騒いでいた女性たちから、ため息が漏れる音が聞こえた。周りからは恋人同士に見えているのだろうか?
「痛っ」
考えごとをしていたら、なんか大きなものにぶつかった。
「大丈夫かシエル!」
ノヴァさんが回復をかけてくれる、いやどこもケガしてないですから。ノヴァさんは過保護だな。優しくて親切だから、俺なんかの治療に一年も付き合うとか言ってくれたんだろうな。
「あっ、はい、大丈夫です。ありがとうございますノヴァさん」
ケガはしていなかったが、治療魔法をかけてくれたことにお礼を言う。ノヴァさんは頬を赤く染め、ふわりと笑った。俺もノヴァさんに笑顔を返す。
それにしても、俺はいったい何にぶつかったんだろう?
見上げると大きな石の像があった。足まで伸びた髪が印象的な少女の像。
『……月の女神』 月の前の文字が削れていて読むことが出来ない。
『nouvelle lune』女神の名前だろうか? そこだけ古い文字で書かれていて読むことが出来ない。
レーゲンケーニクライヒ国における、水竜メルクーアの像みたいなものかな?
ボワアンピール帝国では女神を信仰しているのか。
女神像を見上げていたとき、誰かに見られているような気がして背筋がゾクリとした。
なんだ? 今殺気を感じたような?
しかし周囲を見回してもこちらも見ている人はいない。気のせいかな?
「フードが脱げている」
ノヴァさんがフードを被せてくれた。
「すみません」
ノヴァさんの手が俺の頬に触れじっと見つめてくる。あんまりにもじっと見てくるから、キスしたくなってしまった。
瞳を閉じてキスのおねだりをしそうになり、公衆の面前であることに気づき顔を逸らす。
恋人じゃないんだから人前でのキスはまずい。周囲にいる人間の中にノヴァさんの運命の相手がいたら困るし。性行為中のキスも止めるべきなのかもしれない。
「ノヴァさん、時間です。馬車に乗りましょう」
ノヴァさんの胸を押し距離を取る。ノヴァさんは俺の髪を一房手に取り、髪にキスをした。
そういうことさらっとやらないでほしい、心臓に悪い。
◇◇◇◇◇
370
お気に入りに追加
4,304
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
【完】ラスボス(予定)に転生しましたが、家を出て幸せになります
ナナメ
BL
8歳の頃ここが『光の勇者と救世の御子』の小説、もしくはそれに類似した世界であるという記憶が甦ったウル。
家族に疎まれながら育った自分は囮で偽物の王太子の婚約者である事、同い年の義弟ハガルが本物の婚約者である事、真実を告げられた日に全てを失い絶望して魔王になってしまう事ーーそれを、思い出した。
思い出したからには思いどおりになるものか、そして小説のちょい役である推しの元で幸せになってみせる!と10年かけて下地を築いた卒業パーティーの日ーー
ーーさあ、早く来い!僕の10年の努力の成果よ今ここに!
魔王になりたくないラスボス(予定)と、本来超脇役のおっさんとの物語。
※体調次第で書いておりますのでかなりの鈍足更新になっております。ご了承頂ければ幸いです。
※表紙はAI作成です
逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~
結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】
愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。
──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──
長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。
番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。
どんな美人になっているんだろう。
だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。
──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。
──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!
──ごめんみんな、俺逃げる!
逃げる銀狐の行く末は……。
そして逃げる銀狐に竜は……。
白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる