BL「幼なじみに婚約破棄された僕が、隣国の皇子に求婚されるまで」第9回BL小説大賞、奨励賞受賞作品

まほりろ

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二十四話「覗き見なんて人聞きが悪いな」

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ーー謎の人物視点ーー


――ボワアンピール帝国、月の神殿――



「へぇ、ついに運命の相手を見つけたんだ」

厳かな雰囲気の神殿の隅、猫脚の椅子に腰をかけた男が一人。

年の頃は二十代前半。男が身にまとっているジュストコールには夜を連想させる濃紺シルクの糸が使用されており、袖の部分には月を連想させる金の刺繍が施されていた。

腰まで伸ばされた銀色の髪は、首の後ろで一つにまとめられ、水晶玉を見つめる切れ長の瞳は藤色をしていた。

「しかも可愛い子じゃないか、やるねカルム」

男はテーブルの中央にある水晶玉をき見し、目を細めた。

【覗き見とは感心せんな、まさか閨も……】

神殿の中央で黒い影のような物がゆらゆらと揺れる。

影は形をとどめずに揺れるが、時折髪の長い少女のような姿を形どった。

「覗き見なんて人聞きが悪いな、ちょっと弟が心配で見守っていただけだよ。それに閨をうかがうほど僕は野暮じゃない」

男は影を見つめニコリと笑う。美しい笑顔だが、仮面のようで感情が読めない。

【どうだかな、そなたはなかなかに底意地が悪い】

男は影の言葉に「ひどいな」と言って目を細めた。男は再度水晶玉を透見すきみる。

「満月のように輝く金の髪、澄んだ湖のような青い目、整った目鼻立ち、妖精のように愛らしい少女……いや少年か、弟の運命の相手が楚々とした雰囲気のキュートな子でホッとしたよ」

男が水晶玉の中の銀髪の青年を撫でる。

「これがもし、とんでもない不美人や、二回り以上年上の相手や、素行の悪い者や、性根が腐ってる者や、何人もの男のペニスを咥えこんできたあばずれが相手だったら、うっかり消してしまったかもしれないな」

水晶玉に映る金の髪の少年を指で弾いた。

【相変わらず、弟離れが出来ていないな】

黒い影がボソリと漏らした言葉を、男は聞き逃さなかった。

「心配しているんだよ、あの子はしっかりしているように見えて、肝心なところで抜けているからね」

男が水晶玉を愛おしそうに見つめる。

「僕が守ってあげないと」

水晶玉越しに弟を撫でる男を、黒い影は黙ってみていた。

「僕にはいつ紹介してくれるのかな? 運命の相手が見つかったなら王都に帰ってくるよね? 大変だ! 急いでカルムの部屋を掃除して、カルムの好物を取り寄せて、カルムに役職を用意してあげないと! 新しい服も作りたいけど採寸し直した方がいいかな? 二年の間に背も伸びただろうし」

【…………】

男の言葉に黒い影は答えない。

「つれないね、返事もしてくれないなんて」

黒い影を見て、男が残念そうにつぶやく。

【くだらない話には反応しかねるな】

「よく言うよ、新月が近づくとおしゃべりになるくせに。とくに白羊宮ベリエの新月が近づくとね」

十二星座の最初に位置する白羊宮ベリエ。三月二十一日から四月二十日までの新月を白羊宮ベリエの新月と呼んだ。

男の言葉には答えず、影はただ部屋の中央で揺らめいていた。

「でも、この子どこかで見たことがあるような」

男が水晶玉に視線を戻し、金髪の少年をじっと見る。

「ああそうか、いつかのパーティーで会った壁の花。宝物のように守られていたお姫様か」

男は何かを思い出したようにつぶやく。

「あのときと雰囲気が違うから分からなかったよ。でもそうか、この子がカルムの運命の相手か……」

男は指を顎に当て、考えるような仕草をした。男はしばらく考えを巡らせていたが、何か良いアイデアを思いついたように口の端を上げた。

「ちょうどいい、この子には僕が欲しいものを手に入れるための駒になってもらおうかな」

男の氷のように冷たい瞳が金髪の少年を映していた。


◇◇◇◇◇
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