BL「幼なじみに婚約破棄された僕が、隣国の皇子に求婚されるまで」第9回BL小説大賞、奨励賞受賞作品

まほりろ

文字の大きさ
上 下
24 / 131

二十四話「覗き見なんて人聞きが悪いな」

しおりを挟む


ーー謎の人物視点ーー


――ボワアンピール帝国、月の神殿――



「へぇ、ついに運命の相手を見つけたんだ」

厳かな雰囲気の神殿の隅、猫脚の椅子に腰をかけた男が一人。

年の頃は二十代前半。男が身にまとっているジュストコールには夜を連想させる濃紺シルクの糸が使用されており、袖の部分には月を連想させる金の刺繍が施されていた。

腰まで伸ばされた銀色の髪は、首の後ろで一つにまとめられ、水晶玉を見つめる切れ長の瞳は藤色をしていた。

「しかも可愛い子じゃないか、やるねカルム」

男はテーブルの中央にある水晶玉をき見し、目を細めた。

【覗き見とは感心せんな、まさか閨も……】

神殿の中央で黒い影のような物がゆらゆらと揺れる。

影は形をとどめずに揺れるが、時折髪の長い少女のような姿を形どった。

「覗き見なんて人聞きが悪いな、ちょっと弟が心配で見守っていただけだよ。それに閨をうかがうほど僕は野暮じゃない」

男は影を見つめニコリと笑う。美しい笑顔だが、仮面のようで感情が読めない。

【どうだかな、そなたはなかなかに底意地が悪い】

男は影の言葉に「ひどいな」と言って目を細めた。男は再度水晶玉を透見すきみる。

「満月のように輝く金の髪、澄んだ湖のような青い目、整った目鼻立ち、妖精のように愛らしい少女……いや少年か、弟の運命の相手が楚々とした雰囲気のキュートな子でホッとしたよ」

男が水晶玉の中の銀髪の青年を撫でる。

「これがもし、とんでもない不美人や、二回り以上年上の相手や、素行の悪い者や、性根が腐ってる者や、何人もの男のペニスを咥えこんできたあばずれが相手だったら、うっかり消してしまったかもしれないな」

水晶玉に映る金の髪の少年を指で弾いた。

【相変わらず、弟離れが出来ていないな】

黒い影がボソリと漏らした言葉を、男は聞き逃さなかった。

「心配しているんだよ、あの子はしっかりしているように見えて、肝心なところで抜けているからね」

男が水晶玉を愛おしそうに見つめる。

「僕が守ってあげないと」

水晶玉越しに弟を撫でる男を、黒い影は黙ってみていた。

「僕にはいつ紹介してくれるのかな? 運命の相手が見つかったなら王都に帰ってくるよね? 大変だ! 急いでカルムの部屋を掃除して、カルムの好物を取り寄せて、カルムに役職を用意してあげないと! 新しい服も作りたいけど採寸し直した方がいいかな? 二年の間に背も伸びただろうし」

【…………】

男の言葉に黒い影は答えない。

「つれないね、返事もしてくれないなんて」

黒い影を見て、男が残念そうにつぶやく。

【くだらない話には反応しかねるな】

「よく言うよ、新月が近づくとおしゃべりになるくせに。とくに白羊宮ベリエの新月が近づくとね」

十二星座の最初に位置する白羊宮ベリエ。三月二十一日から四月二十日までの新月を白羊宮ベリエの新月と呼んだ。

男の言葉には答えず、影はただ部屋の中央で揺らめいていた。

「でも、この子どこかで見たことがあるような」

男が水晶玉に視線を戻し、金髪の少年をじっと見る。

「ああそうか、いつかのパーティーで会った壁の花。宝物のように守られていたお姫様か」

男は何かを思い出したようにつぶやく。

「あのときと雰囲気が違うから分からなかったよ。でもそうか、この子がカルムの運命の相手か……」

男は指を顎に当て、考えるような仕草をした。男はしばらく考えを巡らせていたが、何か良いアイデアを思いついたように口の端を上げた。

「ちょうどいい、この子には僕が欲しいものを手に入れるための駒になってもらおうかな」

男の氷のように冷たい瞳が金髪の少年を映していた。


◇◇◇◇◇
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

処理中です...