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十五話「運命の人①」
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ーーノヴァ視点ーー
何十代か前の当主に女遊びが好きな男がいた。何人も愛人を囲い、正妻の部屋を訪れることはめったになかった。
夫が自分の部屋を訪れることがないと知りながら、それでも正妻は夫を待ち続け、毎夜枕を涙で濡らした。
その涙が枯れた頃、正妻は夫を諦めた。そして息子たちの教育に熱を入れるようになった。
夫のような遊び人にならないように、紳士的で一途な真人間に育てようと躍起になった。
正妻には二人の息子がいた。長男は母親に似た金色の髪と緑の目の色をもち性格は慎重、次男は父親と同じ銀色の髪と紫の目を持ち顔立ちも性格も父親によく似ていた。
正妻は息子たちを夫のような遊び人にしたくなかったので、息子たち……特に父親似の次男に厳しく接した。
だが教育のかいなく、次男は年を重ねるごとに父親に似ていき、女好きの遊び人に育っていった。
正妻は教育を諦め、怪しげな呪術に手を出した。
毎晩息子たちの枕元に立ち【妻にしか勃たぬようになれ、愛した人にしか勃たぬように、運命の相手にしか勃たぬようになれ……】と呪いのように呪文を唱えた。
数年後、次男は運命の相手にしか勃たない体になっていた。呪いは次男だけに効いた。
息子に自分の思いが届いたことを知ると、正妻は満面の笑みを浮かべ亡くなったという。
その後、次男は運命の相手を探し国中を周った。だがとうとう運命の相手を見つけ出すことができず、童貞のまま亡くなった。
それ以来我が家には何十年かに一度、運命の相手にしか勃たない男子が生まれる。
その呪いは銀色の髪に紫の目を持つ者と次男に現れることが多かった。
呪いを受けて生まれた者は、教会に入り清いまま生涯を終え聖人君子とたたえられたり、武芸の道に一生をささげ武術の神と呼ばれたり、はたまた運命の相手を探し世界中を旅しついでにモンスターを狩っていたらSSランクの冒険者になって人々に感謝されたりしている。
つまるところ運命の相手を探し出せた者は一人もいない。
そして私の髪は銀色、瞳はすみれ色、その家の次男として生を受けた。
私もまたその不運な呪いをばっちり受け継いで生まれてきた。
兄上も私と同じ銀髪に紫眼なのに、呪いを受けてなかった、なぜだ! 長男だからか?
兄や親戚は普通に勃つのになぜ私だけが勃たない……!
思春期以降、私を突き動かしたのはなぜ私だけが勃たないんだ! という強い憤りだった。
父も兄も親戚も口を揃えて『呪いも悪いものじゃない先人たちを見よ。みな偉大な功績を残している』と言った。
人々に感謝されようが、神と崇められようが、童貞は童貞だ! そんなわびしい人生を送るなど私は嫌だ!
帝都の学園を卒業後、私は旅に出た。
兄は『見つかるかどうか分からない運命の相手を探すより、城で文官でもした方が良くない? 文官が嫌なら武官でもいいよ』と言ってきたが、丁重にお断りした。
私には一生の問題なのだ。探す前から諦めたくない。
勃たなければ子孫も残せない。家は兄上が継ぐので次男の私は子孫を残さない方が良いのかもしれないが、童貞のまま、いや精通もしないまま一生を終えるなんて御免だ。
何が何でも運命の相手を見つけ出す! 運命の相手が見つかるまで帰らないとたんかを切り、旅に出た。
二年をかけ大きな街から小さな村まで国の隅々まで旅した。しかし運命の相手には出会えなかった。
出発前に冒険者ギルドに登録しておいた。冒険者の身分の方が旅をするのに都合がいいからだ。こちらの方は適当にモンスターを狩っていたら、Sランクになっていた。
最初の一年はただがむしゃらに運命の相手を探した。二年目になると、もしかしたら運命の相手になど一生出会えないのでは……という考えが頭をよぎる回数が増えた。
一生を運命の相手を探すために費やした、遠い親戚のメンタルはそうとうタフであったのかもしれない。その人をちょっとだけ尊敬した。
もしかしたら私の運命の相手は、ボワアンピール帝国にはいないのかもしれない。
何十代か前の当主に女遊びが好きな男がいた。何人も愛人を囲い、正妻の部屋を訪れることはめったになかった。
夫が自分の部屋を訪れることがないと知りながら、それでも正妻は夫を待ち続け、毎夜枕を涙で濡らした。
その涙が枯れた頃、正妻は夫を諦めた。そして息子たちの教育に熱を入れるようになった。
夫のような遊び人にならないように、紳士的で一途な真人間に育てようと躍起になった。
正妻には二人の息子がいた。長男は母親に似た金色の髪と緑の目の色をもち性格は慎重、次男は父親と同じ銀色の髪と紫の目を持ち顔立ちも性格も父親によく似ていた。
正妻は息子たちを夫のような遊び人にしたくなかったので、息子たち……特に父親似の次男に厳しく接した。
だが教育のかいなく、次男は年を重ねるごとに父親に似ていき、女好きの遊び人に育っていった。
正妻は教育を諦め、怪しげな呪術に手を出した。
毎晩息子たちの枕元に立ち【妻にしか勃たぬようになれ、愛した人にしか勃たぬように、運命の相手にしか勃たぬようになれ……】と呪いのように呪文を唱えた。
数年後、次男は運命の相手にしか勃たない体になっていた。呪いは次男だけに効いた。
息子に自分の思いが届いたことを知ると、正妻は満面の笑みを浮かべ亡くなったという。
その後、次男は運命の相手を探し国中を周った。だがとうとう運命の相手を見つけ出すことができず、童貞のまま亡くなった。
それ以来我が家には何十年かに一度、運命の相手にしか勃たない男子が生まれる。
その呪いは銀色の髪に紫の目を持つ者と次男に現れることが多かった。
呪いを受けて生まれた者は、教会に入り清いまま生涯を終え聖人君子とたたえられたり、武芸の道に一生をささげ武術の神と呼ばれたり、はたまた運命の相手を探し世界中を旅しついでにモンスターを狩っていたらSSランクの冒険者になって人々に感謝されたりしている。
つまるところ運命の相手を探し出せた者は一人もいない。
そして私の髪は銀色、瞳はすみれ色、その家の次男として生を受けた。
私もまたその不運な呪いをばっちり受け継いで生まれてきた。
兄上も私と同じ銀髪に紫眼なのに、呪いを受けてなかった、なぜだ! 長男だからか?
兄や親戚は普通に勃つのになぜ私だけが勃たない……!
思春期以降、私を突き動かしたのはなぜ私だけが勃たないんだ! という強い憤りだった。
父も兄も親戚も口を揃えて『呪いも悪いものじゃない先人たちを見よ。みな偉大な功績を残している』と言った。
人々に感謝されようが、神と崇められようが、童貞は童貞だ! そんなわびしい人生を送るなど私は嫌だ!
帝都の学園を卒業後、私は旅に出た。
兄は『見つかるかどうか分からない運命の相手を探すより、城で文官でもした方が良くない? 文官が嫌なら武官でもいいよ』と言ってきたが、丁重にお断りした。
私には一生の問題なのだ。探す前から諦めたくない。
勃たなければ子孫も残せない。家は兄上が継ぐので次男の私は子孫を残さない方が良いのかもしれないが、童貞のまま、いや精通もしないまま一生を終えるなんて御免だ。
何が何でも運命の相手を見つけ出す! 運命の相手が見つかるまで帰らないとたんかを切り、旅に出た。
二年をかけ大きな街から小さな村まで国の隅々まで旅した。しかし運命の相手には出会えなかった。
出発前に冒険者ギルドに登録しておいた。冒険者の身分の方が旅をするのに都合がいいからだ。こちらの方は適当にモンスターを狩っていたら、Sランクになっていた。
最初の一年はただがむしゃらに運命の相手を探した。二年目になると、もしかしたら運命の相手になど一生出会えないのでは……という考えが頭をよぎる回数が増えた。
一生を運命の相手を探すために費やした、遠い親戚のメンタルはそうとうタフであったのかもしれない。その人をちょっとだけ尊敬した。
もしかしたら私の運命の相手は、ボワアンピール帝国にはいないのかもしれない。
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