4 / 131
四話「性行為は罪悪?」
しおりを挟む
夢を見ていた。
これは多分ザフィーアの記憶。
父親譲りの金色の髪に、サファイアのように輝く瞳、母親似の愛らしい顔立ち。
幼い頃のザフィーアと、一緒にいる茶色の髪の偉そうな子供は多分エルガー王子だな。
二人とも五、六歳ぐらいだろうか?
エルガー王子がザフィーアの手を掴み、ザフィーアは王子の手を振り払った。
拒否されると思っていなかったエルガー王子が、目を見開く。
「失礼いたしました王子殿下、ですが婚約者といえど結婚するまでは肌の接触をさけるのがこの国のしきたり」
幼いながらしっかりとした言葉で事情を説明するザフィーア。
王子は顔を赤らめ、
「誰がお前なんかと手を繋ぐか!」
怒って帰ってしまった。
厳格な両親に育てられたザフィーアは、超がつくほど堅物だった。
婚約者の王子にキスどころか、指一本触れさせなかった。
この世界、というかレーゲンケーニクライヒ国の性に対する考えは厳格で、セックスは子孫を残すために仕方なくするものというのが一般的だ。
セックスができる日も厳格に定められている。
冬至の祭り、復活祭と四句節(復活祭の四十日前)、結婚後三日間。昼間、日・水・金・土、祭日は性行為をしてはいけない。
正直いつセックスしてんだよ?
性行為はあくまでも子作りのための行為なので、快楽を伴ってはいけない。
全裸でしてはだめ、愛撫もだめ、セックス中のキスも禁止、体位も正常位のみ、回数は一回きり。
エロ漫画の世界ならネタがなさすぎて、一話で打ち切りになるレベル。
そんな禁欲的な生活していて、よく子供ができるな。
◇◇◇◇◇
成長してもザフィーアは保守的なままだった。
ここからは漫画で読んだ知識。
二人が十三歳の時こんなことがあった。
エルガー王子が、いたずらでザフィーアに抱きついた。
精通したばかりのエルガー王子はエッチな遊びに興味津々で、婚約者にちょっとスケベなことをしてみたかったらしい。
幼い頃にザフィーアの手をにぎろうとして拒否されたことを、エルガー王子は忘れてしまったようだ。
ザフィーアは基本的にエルガー王子に従順だった。髪の長さから、着る服の色、食べ物の趣味まで王子に合わせていた。
多少のセクハラをしてもザフィーアなら受け入れてくれる、エルガー王子はそう期待していた。
ところが抱きつかれたザフィーアは、ショックのあまりその場に膝をつき泣き出してしまった。
ザフィーアの泣き声を聞きつけ、大人がたくさん集まってきて、騒然となった。その事件は国王とアインス公爵の耳にも入った。
エルガー王子は国王からこっぴどく叱られた。エルガーが得意な剣術の授業を禁止され、苦手な算術の授業を増やされ、一カ月外出禁止になった。
城に仕えるものは、新人のメイドに至るまで「エルガー王子は好き者の変態」と噂した。
自業自得なので同情する余地はない。
この事件が起きる前、エルガー王子はザフィーアの事が好きだったと思う。
だけどエッチないたずらしようとしたのがみんなにバレ、国王に叱られ、恥をかかされたことから、その思いが少しだけゆがんだ。ザフィーアはエルガー王子の初恋の人から、お堅いだけの婚約者に変わった。
お堅い婚約者の体を結婚後に好きなだけ抱いて快楽に目覚めさせてやる……というエルガー王子の野望は、禁欲的な国と保守的な公爵家の前に消えた。
エルガー王子は、ザフィーアとの結婚に希望を持てなくなっていた。おもに性欲処理的な意味で。
◇◇◇◇◇
それから数年経ったある日、異世界から一人の少年がやってきた。
彼の名は立花葵、この世界にはない黒曜石の髪と黒真珠の瞳を持つ愛らしい顔立ちの少年。
神秘的な容姿のアオイに、エルガー王子が惹かれるのに時間はかからなかった。
禁欲的な世界に生きてきたエルガー王子に、アオイは手とり足とり性行為の楽しさを教えた。
婚約者のいる身で他の男に手を出す罪悪感、国で禁止されている行為を楽しんでいる背徳感が、急速に二人の距離を縮め、恋を燃え上がらせた。
アオイが「ザフィーア公子から嫌がらせを受けているのです」と涙ながらエルガー王子にうったえると、エルガー王子はその言葉をあっさりと信じた。
「卒業パーティでザフィーア公子と婚約破棄して、その場でザフィーア公子を断罪して」とアオイにお願いされ、エルガー王子は言われるままに実行した。
卒業パーティの前日に、エルガー王子の名でザフィーアに漆黒の服を贈ったのもアオイだ。
自身は純白の服を身にまとい天使を装い、ザフィーアに漆黒の衣装を着せ悪魔に仕立てた。
ザフィーアの悲しみと絶望が伝わってくる。
今分かった、俺がなぜあのタイミングで前世の記憶を取り戻したのか。
ザフィーアは死んだんだ。
エルガー王子に裏切られ、自ら谷底に落ちることを選んだあの時に、ザフィーアの心は死んだ。
漫画のストーリーはザフィーアが崖から落ちて死ぬところで終わっている。
物語の筋書きはもうない。
あとは俺の好きに生きさせてもらうよ。
いいよな? ザフィーア。
これは多分ザフィーアの記憶。
父親譲りの金色の髪に、サファイアのように輝く瞳、母親似の愛らしい顔立ち。
幼い頃のザフィーアと、一緒にいる茶色の髪の偉そうな子供は多分エルガー王子だな。
二人とも五、六歳ぐらいだろうか?
エルガー王子がザフィーアの手を掴み、ザフィーアは王子の手を振り払った。
拒否されると思っていなかったエルガー王子が、目を見開く。
「失礼いたしました王子殿下、ですが婚約者といえど結婚するまでは肌の接触をさけるのがこの国のしきたり」
幼いながらしっかりとした言葉で事情を説明するザフィーア。
王子は顔を赤らめ、
「誰がお前なんかと手を繋ぐか!」
怒って帰ってしまった。
厳格な両親に育てられたザフィーアは、超がつくほど堅物だった。
婚約者の王子にキスどころか、指一本触れさせなかった。
この世界、というかレーゲンケーニクライヒ国の性に対する考えは厳格で、セックスは子孫を残すために仕方なくするものというのが一般的だ。
セックスができる日も厳格に定められている。
冬至の祭り、復活祭と四句節(復活祭の四十日前)、結婚後三日間。昼間、日・水・金・土、祭日は性行為をしてはいけない。
正直いつセックスしてんだよ?
性行為はあくまでも子作りのための行為なので、快楽を伴ってはいけない。
全裸でしてはだめ、愛撫もだめ、セックス中のキスも禁止、体位も正常位のみ、回数は一回きり。
エロ漫画の世界ならネタがなさすぎて、一話で打ち切りになるレベル。
そんな禁欲的な生活していて、よく子供ができるな。
◇◇◇◇◇
成長してもザフィーアは保守的なままだった。
ここからは漫画で読んだ知識。
二人が十三歳の時こんなことがあった。
エルガー王子が、いたずらでザフィーアに抱きついた。
精通したばかりのエルガー王子はエッチな遊びに興味津々で、婚約者にちょっとスケベなことをしてみたかったらしい。
幼い頃にザフィーアの手をにぎろうとして拒否されたことを、エルガー王子は忘れてしまったようだ。
ザフィーアは基本的にエルガー王子に従順だった。髪の長さから、着る服の色、食べ物の趣味まで王子に合わせていた。
多少のセクハラをしてもザフィーアなら受け入れてくれる、エルガー王子はそう期待していた。
ところが抱きつかれたザフィーアは、ショックのあまりその場に膝をつき泣き出してしまった。
ザフィーアの泣き声を聞きつけ、大人がたくさん集まってきて、騒然となった。その事件は国王とアインス公爵の耳にも入った。
エルガー王子は国王からこっぴどく叱られた。エルガーが得意な剣術の授業を禁止され、苦手な算術の授業を増やされ、一カ月外出禁止になった。
城に仕えるものは、新人のメイドに至るまで「エルガー王子は好き者の変態」と噂した。
自業自得なので同情する余地はない。
この事件が起きる前、エルガー王子はザフィーアの事が好きだったと思う。
だけどエッチないたずらしようとしたのがみんなにバレ、国王に叱られ、恥をかかされたことから、その思いが少しだけゆがんだ。ザフィーアはエルガー王子の初恋の人から、お堅いだけの婚約者に変わった。
お堅い婚約者の体を結婚後に好きなだけ抱いて快楽に目覚めさせてやる……というエルガー王子の野望は、禁欲的な国と保守的な公爵家の前に消えた。
エルガー王子は、ザフィーアとの結婚に希望を持てなくなっていた。おもに性欲処理的な意味で。
◇◇◇◇◇
それから数年経ったある日、異世界から一人の少年がやってきた。
彼の名は立花葵、この世界にはない黒曜石の髪と黒真珠の瞳を持つ愛らしい顔立ちの少年。
神秘的な容姿のアオイに、エルガー王子が惹かれるのに時間はかからなかった。
禁欲的な世界に生きてきたエルガー王子に、アオイは手とり足とり性行為の楽しさを教えた。
婚約者のいる身で他の男に手を出す罪悪感、国で禁止されている行為を楽しんでいる背徳感が、急速に二人の距離を縮め、恋を燃え上がらせた。
アオイが「ザフィーア公子から嫌がらせを受けているのです」と涙ながらエルガー王子にうったえると、エルガー王子はその言葉をあっさりと信じた。
「卒業パーティでザフィーア公子と婚約破棄して、その場でザフィーア公子を断罪して」とアオイにお願いされ、エルガー王子は言われるままに実行した。
卒業パーティの前日に、エルガー王子の名でザフィーアに漆黒の服を贈ったのもアオイだ。
自身は純白の服を身にまとい天使を装い、ザフィーアに漆黒の衣装を着せ悪魔に仕立てた。
ザフィーアの悲しみと絶望が伝わってくる。
今分かった、俺がなぜあのタイミングで前世の記憶を取り戻したのか。
ザフィーアは死んだんだ。
エルガー王子に裏切られ、自ら谷底に落ちることを選んだあの時に、ザフィーアの心は死んだ。
漫画のストーリーはザフィーアが崖から落ちて死ぬところで終わっている。
物語の筋書きはもうない。
あとは俺の好きに生きさせてもらうよ。
いいよな? ザフィーア。
864
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される
水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。
絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。
長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。
「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」
有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。
追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる