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七話

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◇◇◇◇◇レオナルド視点◇◇◇◇◇



「婚約者への非礼は、口づけで許してやる」

サフィールの肩に手を回し、手まで握っている男に殺意が湧いた。

「嫌っ……!」

サフィールが苦しげな声を漏らし、顔を背ける。

サフィールを傷つけるやつはただではおかぬ!

「何をしている……!」

サフィールは私の物だ! 見るな! 触れるな! 声をかけるな! サフィールが汚れる!

ルーキーとかいう男の腕を掴み後ろ手に締め上げた。

「授業中だぞ」

授業中でなければ、八つ裂きにしているところだ……!

「何しやが……る! って、れ、レオナルド様……!!」

相手が高位貴族だと分かり、男の声が裏返る。

血の気の引いた顔で口をパクパクさせている。

ゲスが、私のサフィールに触れてただで済むと思うなよ!

「ちょっと、じゃれていただけです! なっ、そうだよな!」

男が媚びるような目でサフィールを見る。お前ごときがサフィールを目に入れるな! 今すぐこの男の目をえぐってやりたい!

しかし、サフィールの前なのでぐっとこらえる。子供のように無垢なサフィールにそのような残虐な光景は見せられん!

「そうなのか?」

じゃれていただけでも許す気はないが……!

「…………」

サフィールは赤い顔で私を見るだけで、何も答えなかった。かわいそうに、ゲスに襲われ恐怖で声も出せないのだな!

「どうやら違うようだな」

サフィールが何も話さないのを、ルーキーの言葉を否定したと受け取る。

ギロリとルーキーを睨みつける。

「おい、サフィール!」

ルーキーが泣きそうな顔でサフィールを見る。サフィールの名を気安く呼ぶな! やつの口を割いてやりたいっ!

「お前のようなものが気安くこの者の名を呼ぶな!」

「いだだだっ!」

腕をひねりあげると、ルーキーが間抜けな悲鳴をあげた。

「うせろ!」

ルーキーの手を放し威嚇(いかく)するようにねめつけると、泣きべそをかきながら逃げるように走って行った。

「大丈夫か?」

できる限り穏やかな顔で、サフィールを怖がらせないように声をかける。

サフィールは何も言わず、赤い顔で小さくうなずいた。

間近で見るサフィールは天使のような愛らしさで、抱きしめてむさぼるように口づけしたい衝動にかられる……!

いや落ち着け! ここでは人目がある!

サフィールのキス待ち顔や、喘ぎ声や、求め声や、口づけの後のとろんとした顔を見せるのはしゃくだ!

サフィールのそんな姿を他の者に見られたら全員の目をつぶし、耳をもぎ取りたくなる!

だがサフィールの近くにいたら、欲望を抑えきれなくなる!

残念だが、ここはいったん引くとしよう。

「そうか、よかった」

理性を総動員し、サフィールの頭をポンポンとなでるだけにとどめ、踵を返す。

初めて触れたサフィールの髪は柔らかく、サラサラだった。

サフィールから離れてから、手に残るサフィールの香りをくんかくんかと嗅ぐ。

甘い花のような香りがした。

「一生、手を洗わぬ」

自身の手をかぎながらそう呟く私を、ミハエルがひどく残念な者を見る目で見ていた。


◇◇◇◇◇
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