7 / 24
七話
しおりを挟む◇◇◇◇◇レオナルド視点◇◇◇◇◇
「婚約者への非礼は、口づけで許してやる」
サフィールの肩に手を回し、手まで握っている男に殺意が湧いた。
「嫌っ……!」
サフィールが苦しげな声を漏らし、顔を背ける。
サフィールを傷つけるやつはただではおかぬ!
「何をしている……!」
サフィールは私の物だ! 見るな! 触れるな! 声をかけるな! サフィールが汚れる!
ルーキーとかいう男の腕を掴み後ろ手に締め上げた。
「授業中だぞ」
授業中でなければ、八つ裂きにしているところだ……!
「何しやが……る! って、れ、レオナルド様……!!」
相手が高位貴族だと分かり、男の声が裏返る。
血の気の引いた顔で口をパクパクさせている。
ゲスが、私のサフィールに触れてただで済むと思うなよ!
「ちょっと、じゃれていただけです! なっ、そうだよな!」
男が媚びるような目でサフィールを見る。お前ごときがサフィールを目に入れるな! 今すぐこの男の目をえぐってやりたい!
しかし、サフィールの前なのでぐっとこらえる。子供のように無垢なサフィールにそのような残虐な光景は見せられん!
「そうなのか?」
じゃれていただけでも許す気はないが……!
「…………」
サフィールは赤い顔で私を見るだけで、何も答えなかった。かわいそうに、ゲスに襲われ恐怖で声も出せないのだな!
「どうやら違うようだな」
サフィールが何も話さないのを、ルーキーの言葉を否定したと受け取る。
ギロリとルーキーを睨みつける。
「おい、サフィール!」
ルーキーが泣きそうな顔でサフィールを見る。サフィールの名を気安く呼ぶな! やつの口を割いてやりたいっ!
「お前のようなものが気安くこの者の名を呼ぶな!」
「いだだだっ!」
腕をひねりあげると、ルーキーが間抜けな悲鳴をあげた。
「うせろ!」
ルーキーの手を放し威嚇(いかく)するようにねめつけると、泣きべそをかきながら逃げるように走って行った。
「大丈夫か?」
できる限り穏やかな顔で、サフィールを怖がらせないように声をかける。
サフィールは何も言わず、赤い顔で小さくうなずいた。
間近で見るサフィールは天使のような愛らしさで、抱きしめてむさぼるように口づけしたい衝動にかられる……!
いや落ち着け! ここでは人目がある!
サフィールのキス待ち顔や、喘ぎ声や、求め声や、口づけの後のとろんとした顔を見せるのは癪だ!
サフィールのそんな姿を他の者に見られたら全員の目をつぶし、耳をもぎ取りたくなる!
だがサフィールの近くにいたら、欲望を抑えきれなくなる!
残念だが、ここはいったん引くとしよう。
「そうか、よかった」
理性を総動員し、サフィールの頭をポンポンとなでるだけにとどめ、踵を返す。
初めて触れたサフィールの髪は柔らかく、サラサラだった。
サフィールから離れてから、手に残るサフィールの香りをくんかくんかと嗅ぐ。
甘い花のような香りがした。
「一生、手を洗わぬ」
自身の手をかぎながらそう呟く私を、ミハエルがひどく残念な者を見る目で見ていた。
◇◇◇◇◇
69
お気に入りに追加
2,420
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる