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六話
しおりを挟む「いい加減なことを言うな!」
相手も私を思っているなど、そんな都合のいいことが起こるわけがない。
ただでさえ鋭すぎる目つきと、この国には珍しいカラスのような髪と黒檀のような瞳で周囲から恐れられているというのに。
あんな草食動物のようにか弱い存在が私を愛してくれるわけが……。
「そう思う?」
ミハエルが意味有りげに笑う。
「なら振り返ってサフィールくんを見てみなよ」
王子に言われるままに、振り返りサフィールを見る。
サフィールは私と目が合うとすぐに視線を逸した。
「目を逸らされた、それがなんだと言うのだ?」
多くの者は遠まきに私を見てヒソヒソと話し、目が合うと「キャー」と言って、さっと目を逸らす。
悲しいがサフィールもその一人だ。サフィールは他の者のように「キャー」と叫ばない、それが唯一の救いだ。
「嫌われていることを再確認させたかったのか?」
認めたくはないが、サフィールにもやはり嫌われているのだろうか? もしくは恐れられているのか?
こうして親しく話してくれる存在は、学園ではミハエル王子ただ一人。
「どうしてそうなるのかな? 無駄にスペック高いのに自尊感情低すぎ」
王子が残念な者を見るような目で私を見た。
「もう一度振り返って、よ~く見て! サフィールくんの表情とか、頬の色とか!」
サフィールを視姦……いや見るのはいい、目の保養になる。
「しかしまた目を逸らされたら……」
視線を逸らされるのは辛い、地味にダメージが蓄積する。
「うっさい、いいから振り返れ! 王子の命令!」
こんなときに王家の権力を振りかざすのは卑怯だ。
しかし王子の命令には逆らえない。
仕方なく、振り返りサフィールを見る。
サフィールはさっと目を逸した、顔の色はほのかに色づき、うつむきながらもこちらをちらちらと見ている。
「また目を逸らされたが」
胸にトゲが刺さったかのように、ズキリと痛む。
「そうそれで、他の変化は? 何か気づかなかった?」
ミハエルに言われ、思い出す。
「頬を赤く染め……」
「うん、それから?」
「うつむきながらも、こちらをちらちらと見ていた」
「うん、それでそんなサフィールくんを見てどう思った?」
「愛おしい、たとえ相手に嫌われていても、私は相手を嫌いにはなれない、むしろ愛している!」
「君のネガティブだけど、たくましいところ嫌いじゃないよ」
ミハエルが苦笑する。
「それで、まだ気づかない?」
「何にだ?」
「振り向く度に目が合うと言うことは、サフィールくんはいつも君を見ているってことだよ」
サフィールが私を……嬉しい、素直に嬉しい!
「だがそれは黒髪が珍しいからでは?」
「鈍感、それならレオナルドと目が合っても頬を染めたりしないよ!」
「それは、つまり?」
ミハエルは何が言いたいんだ?
「あーもう、はっきり言うね! ボクの推測ではサフィールくんもレオナルドが好きだよ!」
「なっ、なにを馬鹿な…!」
ずっと願ってきたことだ、相手も私を好いていてくれたらどんなにいいかと!
しかしそれは叶わぬことと分かっている、カラスのような漆黒の髪をした私を愛する者がいる訳が……。
「ずっとレオナルドを見ているのが何よりの証拠! 相手がずっと君を見ているから、君が相手を見たときに目が合うんだよ!」
王子の言葉に、ストンと何かが落ちた。
「サフィールが私を好き、ミハエルや私の勘違いではなく……」
「そうだよ、レオナルドはモテるんだから自覚して。みんなが君を見るのは、レオナルドの髪や目の色が珍しいからじゃないよ。君を好きだから見てるんだよ、って聞いてる?」
ミハエルが私の顔前で手を上下に振るが目に入らない、言葉も耳に入らない。
「サフィールが私を好き、そうか……! フフフフフフ、ハァーーハッハッハッハッハッッ!!」
学園に入学してから初めて笑ったかもしれない。
「その笑い方不気味だから止めようね、魔王みたいだから」
ミハエルが私の笑い方にドン引きしている。
「サフィール、決して逃さない……! そなたが私を愛していると言うなら、私以外見るな! 私以外と話しをするな! 私以外に笑いかけるな……!!」
「レオナルド変なスイッチ入っちゃったかな? 今までモテを自覚したことがない子が、両片思いだと知った瞬間、溺愛執着のスイッチが入っちゃった?」
ミハエルが横でごちゃごちゃ言っている。
「……あいつ、私のサフィールに声をかけたな! 許せん!」
視界に入ったのは、ルーキーだか、ルーカスだか、ルートだかいう新入生。
「サフィールくんはまだ君のものになってないからね? 今は両片思いの段階だからね? もしもし聞こえてる?」
今までは目をつむっていたが、サフィールが私を愛していると分かった以上見過ごせん!
横でごちゃごちゃ言っているミハエル王子を無視し、私は愛しのサフィールの元へと駆け出した。
◇◇◇◇◇
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