32 / 50
幕間 2
幕間 リリ・アルガス
しおりを挟む
レオンがシャルと一緒にスヤスヤ眠っている頃、女子寮にあるリリの部屋では――
「~♪」
彼女はご機嫌な様子で就寝前の準備を進めていく。
シャワーを浴び、パジャマに着替えて。
次は明日の外出に備えた洋服選びを始めた。
「ん~。この前はちょっと失敗だったかな?」
前回、レオンとデートした際に着ていた服は清楚なイメージを全面に押し出したデザインだった。
それを見たレオンは「可愛いね」と心の底から湧き出た感想を口にしていたのだが、リリ的にはイマイチだったらしい。
「意外と反応が良かったのはこっちなんだよね」
そう独り言を呟きながら視線を送るのは、彼女が最も好むシャツとショートパンツの組み合わせ。
本人は「女の子っぽくないのに?」と疑問に思っているようだが、プレイヤーであったレオンにとっては一番感動を覚える組み合わせだろう。
「……もうちょっと攻めてみようかな」
悩んだ結果、今回チョイスしたのは肩と背中がガッツリ見えるタイプのワンピース。
全世界の男性がつい視線を向けてしまう胸元も、普段着る服より更に強調されているタイプだ。
学生であり、貴族令嬢である彼女からすればかなりセクシーな方向で攻めている、と言わざるを得ない。
父親が見たら娘の積極性に困惑してしまうこと間違いなしだが、彼女の母親は「ボーイッシュな服装を好む娘がついに考えを改めてくれた」と感激するだろう。
「最近、暑くなってきたしね」
セクシー系で攻めると決めたものの、まだ若干ながら迷いがあるようだが、自身を納得させるような独り言を呟きながら服を決定した。
「よし」
洋服選びも終わった。持って行くバッグにハンカチ等も詰めた。
あとは明日に備えて寝るだけ――なのだが、彼女には毎晩行っている『儀式』がある。
「ふふ」
ニンマリと笑みを浮かべたリリが取り出したのは、本日の課外授業で使用したタオル。
もっと詳しく説明すると、レオンが汗を拭いたタオルだ。
彼の汗が染み込んだタオルを両手で持つと、次はニヤリと笑って――
「んすぅぅぅっぅぅっ!!!!」
吸った。
吸いまくった。
レオンの匂いが染み込んだタオルを顔面に押し付け、余すことなく全て摂取してやろうと言わんばかりに吸った。
「はぁぁぁ……」
そして、ひとしきり匂いを堪能したリリは恍惚とした表情を見せるのである。
「ああ、レオン君の匂い……」
ニマァと笑い、口の形は三日月のように。
ひひっと邪悪な笑い声さえ漏れる。
「レオン君、レオン君……。どうして君はそんなにカッコいいの? どうして私を夢中にさせちゃうの?」
頬を赤らめたリリは再びタオルに顔を埋め、業界最高峰の吸引力でレオンの匂いを堪能する。
――彼女の脳裏に浮かぶのは、レオンを初めて見た時のこと。
魔物に襲われている自分を助けるべく、勇敢かつ華麗に、圧倒的な力を見せつけたシーンだ。
魔物に恐怖しながらもキャビンの窓から目撃したレオンの姿は、今も尚彼女の脳裏に焼き付いている。
あの日、あの時、脳に焼き付いた瞬間から。
彼女はレオン・ハーゲットという存在の虜になった。
強き存在である彼の腕に抱かれ、逞しい体に包まれたくて止まらなくなった。
あの強くて逞しい人を、欲しくてたまらなくなったのだ。
「んはぁぁ! んすぅぅぅ!! んはぁぁぁっ!!」
心を、体を、匂いさえも欲しくなって止まらないその姿は『ワンコ系サブヒロイン』から程遠い。
もはや変態の域にまで到達しているだろう。
「さいっこう!」
顔中、レオンの匂いに包まれたリリは満面の笑みを浮かべる。
……これにて儀式は終了だ。
彼女はタオルを丁寧に畳み、魔道具である『保存袋』へ入れて封をする。
余談であるが、保存袋はリリースされたばかりの魔道具でまだ価格が安定していない。
最高級魔道具の一つとも言えるし、一袋で中堅平民家庭が一ヵ月暮らせるほどの金額である。
「~♪」
彼女はクローゼットを開けた。
その中には数十の保存袋が収納されており、どれも中にはレオンが使ったタオルやフォーク、マドラーなどが保管されている。
しかも、ご丁寧に『〇月〇日 使用』とメモまで添えて。
「またコレクションが増えちゃった♡」
彼女は新しいコレクションを一番上に置き、ニコニコと笑いながらクローゼントを閉じた。
――御覧頂けただろうか?
これが彼女の持つ一面であり、内に秘めた『独占欲』の捻じれた姿である。
好きになった相手には徹底的に尽くす女性だが、独占欲も人一倍強い。
いや、相手の匂いまで欲しがる彼女は独占欲の化身と言えるのかもしれない。
ゲーム内でも語られず、設定資料にも書かれていない彼女の本性とも言えるべき姿。
本来は勇者に向けられるはずの捻じれた独占欲。
《 ノイズ音 》
『た、助けて頂きありがとうございます。あ、あの、貴方のお名前は……?』
『僕の名前はリアム・ウェインライトです。無事でよかった』
《 ノイズ音 》
彼女が勇者パーティーの一員になれず、正ヒロインになれなかった理由。
途中で退場してしまったのは理由はこれが原因なのだろうか?
リリと接していた勇者は『何かヤバイ』と勇者らしい鋭い感覚――危機察知能力を存分に活かして感じ取ったのだろうか?
「はぁ……。レオン君……」
ベッドの中で熱い吐息を漏らす彼女を見た時、レオンは何と感想を口にするのか。
レオンの真っ直ぐな愛と、リリの捻じ曲がった独占欲が交わる日はくるのだろうか?
「~♪」
彼女はご機嫌な様子で就寝前の準備を進めていく。
シャワーを浴び、パジャマに着替えて。
次は明日の外出に備えた洋服選びを始めた。
「ん~。この前はちょっと失敗だったかな?」
前回、レオンとデートした際に着ていた服は清楚なイメージを全面に押し出したデザインだった。
それを見たレオンは「可愛いね」と心の底から湧き出た感想を口にしていたのだが、リリ的にはイマイチだったらしい。
「意外と反応が良かったのはこっちなんだよね」
そう独り言を呟きながら視線を送るのは、彼女が最も好むシャツとショートパンツの組み合わせ。
本人は「女の子っぽくないのに?」と疑問に思っているようだが、プレイヤーであったレオンにとっては一番感動を覚える組み合わせだろう。
「……もうちょっと攻めてみようかな」
悩んだ結果、今回チョイスしたのは肩と背中がガッツリ見えるタイプのワンピース。
全世界の男性がつい視線を向けてしまう胸元も、普段着る服より更に強調されているタイプだ。
学生であり、貴族令嬢である彼女からすればかなりセクシーな方向で攻めている、と言わざるを得ない。
父親が見たら娘の積極性に困惑してしまうこと間違いなしだが、彼女の母親は「ボーイッシュな服装を好む娘がついに考えを改めてくれた」と感激するだろう。
「最近、暑くなってきたしね」
セクシー系で攻めると決めたものの、まだ若干ながら迷いがあるようだが、自身を納得させるような独り言を呟きながら服を決定した。
「よし」
洋服選びも終わった。持って行くバッグにハンカチ等も詰めた。
あとは明日に備えて寝るだけ――なのだが、彼女には毎晩行っている『儀式』がある。
「ふふ」
ニンマリと笑みを浮かべたリリが取り出したのは、本日の課外授業で使用したタオル。
もっと詳しく説明すると、レオンが汗を拭いたタオルだ。
彼の汗が染み込んだタオルを両手で持つと、次はニヤリと笑って――
「んすぅぅぅっぅぅっ!!!!」
吸った。
吸いまくった。
レオンの匂いが染み込んだタオルを顔面に押し付け、余すことなく全て摂取してやろうと言わんばかりに吸った。
「はぁぁぁ……」
そして、ひとしきり匂いを堪能したリリは恍惚とした表情を見せるのである。
「ああ、レオン君の匂い……」
ニマァと笑い、口の形は三日月のように。
ひひっと邪悪な笑い声さえ漏れる。
「レオン君、レオン君……。どうして君はそんなにカッコいいの? どうして私を夢中にさせちゃうの?」
頬を赤らめたリリは再びタオルに顔を埋め、業界最高峰の吸引力でレオンの匂いを堪能する。
――彼女の脳裏に浮かぶのは、レオンを初めて見た時のこと。
魔物に襲われている自分を助けるべく、勇敢かつ華麗に、圧倒的な力を見せつけたシーンだ。
魔物に恐怖しながらもキャビンの窓から目撃したレオンの姿は、今も尚彼女の脳裏に焼き付いている。
あの日、あの時、脳に焼き付いた瞬間から。
彼女はレオン・ハーゲットという存在の虜になった。
強き存在である彼の腕に抱かれ、逞しい体に包まれたくて止まらなくなった。
あの強くて逞しい人を、欲しくてたまらなくなったのだ。
「んはぁぁ! んすぅぅぅ!! んはぁぁぁっ!!」
心を、体を、匂いさえも欲しくなって止まらないその姿は『ワンコ系サブヒロイン』から程遠い。
もはや変態の域にまで到達しているだろう。
「さいっこう!」
顔中、レオンの匂いに包まれたリリは満面の笑みを浮かべる。
……これにて儀式は終了だ。
彼女はタオルを丁寧に畳み、魔道具である『保存袋』へ入れて封をする。
余談であるが、保存袋はリリースされたばかりの魔道具でまだ価格が安定していない。
最高級魔道具の一つとも言えるし、一袋で中堅平民家庭が一ヵ月暮らせるほどの金額である。
「~♪」
彼女はクローゼットを開けた。
その中には数十の保存袋が収納されており、どれも中にはレオンが使ったタオルやフォーク、マドラーなどが保管されている。
しかも、ご丁寧に『〇月〇日 使用』とメモまで添えて。
「またコレクションが増えちゃった♡」
彼女は新しいコレクションを一番上に置き、ニコニコと笑いながらクローゼントを閉じた。
――御覧頂けただろうか?
これが彼女の持つ一面であり、内に秘めた『独占欲』の捻じれた姿である。
好きになった相手には徹底的に尽くす女性だが、独占欲も人一倍強い。
いや、相手の匂いまで欲しがる彼女は独占欲の化身と言えるのかもしれない。
ゲーム内でも語られず、設定資料にも書かれていない彼女の本性とも言えるべき姿。
本来は勇者に向けられるはずの捻じれた独占欲。
《 ノイズ音 》
『た、助けて頂きありがとうございます。あ、あの、貴方のお名前は……?』
『僕の名前はリアム・ウェインライトです。無事でよかった』
《 ノイズ音 》
彼女が勇者パーティーの一員になれず、正ヒロインになれなかった理由。
途中で退場してしまったのは理由はこれが原因なのだろうか?
リリと接していた勇者は『何かヤバイ』と勇者らしい鋭い感覚――危機察知能力を存分に活かして感じ取ったのだろうか?
「はぁ……。レオン君……」
ベッドの中で熱い吐息を漏らす彼女を見た時、レオンは何と感想を口にするのか。
レオンの真っ直ぐな愛と、リリの捻じ曲がった独占欲が交わる日はくるのだろうか?
21
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

半分異世界
月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。
ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。
いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。
そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。
「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。


ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる