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大きな目標
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「言ってなかったよ。お前がアルファかベータかなんて、わざわざ言うほどのことでもないから…」
2人がかりで詰め寄られて、大木はキョトンとしてした。
「あー、まあ、そうか。ボク、なんでかわからないけど、勝手に咲子ちゃんはアルファなんだと思ってた」
つい先ほど、「他のアルファと一緒にいてもいいのか」と咲子のことを意識してしまったことを、円は内心恥ずかしく思った。
「そうなの?ちょっと嬉しいかもー」
咲子がポッと顔を赤らめた。
「何が嬉しいんだよ?」
「えー?だってさあ、「アルファっぽい」って「頭よさそう」とか「何でもできそう」とか言われてるみたいで、悪い気はしないじゃない?」
手に持っていたバームクーヘンを食べ終えた咲子が、さあもう一つと言わんばかりに、皿の上に乗ったものをもう一切れ手に取った。
「そんないいものじゃないだろ」
大木も新しいバームクーヘンを口に押し込んだ。
大木が持って帰ったこれは、バームクーヘンというよりホールケーキと言ったほうが妥当ではないかと思うほどにボリュームがある。
1切れだけで菓子パン1個まるごと食べたような重量感があるが、この2人はそれをすでに3切れくらい食べている。
円は一切れだけで十分満腹なのに。
この様子を見るに、咲子も大木と負けず劣らずの大食らしい。
「アルファの人も大変だもんね。とはいえ、ベータの人でも、アルファと同じくらい賢くて優秀な人はたくさんいるもの。成功しないとは限らないし、ボクは応援してるよ」
聞くところ、咲子はまだ19歳なのだという。
まだ若いのに、大きくて明確な目標があるのは実に立派なことではないか。
「ホント?ありがとう、円さん。中学校からの夢だもん!私、がんばるね!!」
それを聞いて、円は自分が中学生の頃を思い返していた。
中学生というと、ちょうど自分がオメガだと知ったときだ。
これからやってくるであろう発情期や、外部から受けるであろう差別や偏見を思うと、心底がっかりしたし、それ以上に、「ああやっぱりな」という諦めの気持ちの方が強かった。
母がオメガなのだ。
自分がオメガであっても、何ら不思議ではない。
周囲が「やっぱり自分はベータだった」とがっかりしている中、自分だけがオメガだった。
あの、なんともいえない孤独感と奇妙な納得。
あれ以来、「自分はオメガだから」と大半のことを諦めてしまって、勉強も就職も本気で取り組もうとはしなかった。
大した目標もなく、家から一番近い高校へ成り行きまかせに受験、入学した。
「特にやりたいこともないから」と卒業後はツテを頼って、半ばコネ入社に近い形で今の会社に入った。
会社に入ってからだって、別に出世など考えていなかったし、このままの暮らしが維持できればそれで良いという考えだった。
それは円の周囲にいるベータも同じことで、「どうせアルファにはかなわない」と言って、勉強も進学も就職も、どこか諦めたような空気を漂わせる人物ばかりだった。
でも、咲子は違う。
「咲子ちゃん、「わたしはどうせベータだから」って諦めたりしないんだね」
「うん。だって、ベータでもアルファの人と同じぐらいに出世してる人いるし、ブランドの立ち上げってそんな難しいことじゃないのよ?儲けるのが大変なだけで」
「なるほどね。起業はいつとか、考えてるの?」
「必要な資金貯まってからかなー。そのためにバイト代を高校生の頃から貯めてたんだよね。結構順調に貯まってるし、何なら在学中に立ち上げられるかも」
咲子がバームクーヘンを食べる手を止めて、うーんと考え込んだ。
「学生起業?すごいね」
咲子はその後も、将来の夢について、自分についてのことも教えてくれた。
通っている大学は美大で、デザインや服飾を専攻にしていること。
彼氏は今のところいないが、結婚はときどき考えること。
アルバイトは家の近くのコーヒーショップで週4日行っていること。
夢を持ったことがない円にとって、咲子の話は新鮮で、聞いていて楽しかった。
一方で、大木は妹に恋人を占領されたような気持ちになったのか、少しばかりむくれていた。
2人がかりで詰め寄られて、大木はキョトンとしてした。
「あー、まあ、そうか。ボク、なんでかわからないけど、勝手に咲子ちゃんはアルファなんだと思ってた」
つい先ほど、「他のアルファと一緒にいてもいいのか」と咲子のことを意識してしまったことを、円は内心恥ずかしく思った。
「そうなの?ちょっと嬉しいかもー」
咲子がポッと顔を赤らめた。
「何が嬉しいんだよ?」
「えー?だってさあ、「アルファっぽい」って「頭よさそう」とか「何でもできそう」とか言われてるみたいで、悪い気はしないじゃない?」
手に持っていたバームクーヘンを食べ終えた咲子が、さあもう一つと言わんばかりに、皿の上に乗ったものをもう一切れ手に取った。
「そんないいものじゃないだろ」
大木も新しいバームクーヘンを口に押し込んだ。
大木が持って帰ったこれは、バームクーヘンというよりホールケーキと言ったほうが妥当ではないかと思うほどにボリュームがある。
1切れだけで菓子パン1個まるごと食べたような重量感があるが、この2人はそれをすでに3切れくらい食べている。
円は一切れだけで十分満腹なのに。
この様子を見るに、咲子も大木と負けず劣らずの大食らしい。
「アルファの人も大変だもんね。とはいえ、ベータの人でも、アルファと同じくらい賢くて優秀な人はたくさんいるもの。成功しないとは限らないし、ボクは応援してるよ」
聞くところ、咲子はまだ19歳なのだという。
まだ若いのに、大きくて明確な目標があるのは実に立派なことではないか。
「ホント?ありがとう、円さん。中学校からの夢だもん!私、がんばるね!!」
それを聞いて、円は自分が中学生の頃を思い返していた。
中学生というと、ちょうど自分がオメガだと知ったときだ。
これからやってくるであろう発情期や、外部から受けるであろう差別や偏見を思うと、心底がっかりしたし、それ以上に、「ああやっぱりな」という諦めの気持ちの方が強かった。
母がオメガなのだ。
自分がオメガであっても、何ら不思議ではない。
周囲が「やっぱり自分はベータだった」とがっかりしている中、自分だけがオメガだった。
あの、なんともいえない孤独感と奇妙な納得。
あれ以来、「自分はオメガだから」と大半のことを諦めてしまって、勉強も就職も本気で取り組もうとはしなかった。
大した目標もなく、家から一番近い高校へ成り行きまかせに受験、入学した。
「特にやりたいこともないから」と卒業後はツテを頼って、半ばコネ入社に近い形で今の会社に入った。
会社に入ってからだって、別に出世など考えていなかったし、このままの暮らしが維持できればそれで良いという考えだった。
それは円の周囲にいるベータも同じことで、「どうせアルファにはかなわない」と言って、勉強も進学も就職も、どこか諦めたような空気を漂わせる人物ばかりだった。
でも、咲子は違う。
「咲子ちゃん、「わたしはどうせベータだから」って諦めたりしないんだね」
「うん。だって、ベータでもアルファの人と同じぐらいに出世してる人いるし、ブランドの立ち上げってそんな難しいことじゃないのよ?儲けるのが大変なだけで」
「なるほどね。起業はいつとか、考えてるの?」
「必要な資金貯まってからかなー。そのためにバイト代を高校生の頃から貯めてたんだよね。結構順調に貯まってるし、何なら在学中に立ち上げられるかも」
咲子がバームクーヘンを食べる手を止めて、うーんと考え込んだ。
「学生起業?すごいね」
咲子はその後も、将来の夢について、自分についてのことも教えてくれた。
通っている大学は美大で、デザインや服飾を専攻にしていること。
彼氏は今のところいないが、結婚はときどき考えること。
アルバイトは家の近くのコーヒーショップで週4日行っていること。
夢を持ったことがない円にとって、咲子の話は新鮮で、聞いていて楽しかった。
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