【完結】オメガの円が秘密にしていること

若目

文字の大きさ
上 下
55 / 63

次の休日

しおりを挟む
大木の実家で咲子とたくさん話した翌週末、円は大木の家に来ていた。
部屋に入るなり、大木は円をベッドに押し倒して、ぐりぐりと胸に顔を埋めて甘えてきた。

「知成くん、落ちつきなよ」
円はやれやれといった調子で、大木をなだめた。
「だってえ、円さん、久しぶりに会ったかと思ったら、咲子と話してばかりいたし……」
大木は「妹の夢を応援しようとは思わないの?」と言った昨日の咲子と同じように、ぷうと頬を膨らませた。

普通、180センチを優に超える男がこんな仕草をすれば引いてしまうところだが、なぜだろう、そんな様子を円は「かわいい」と思ってしまう。
これは「惚れた弱み」というのか、「恋は盲目」というのだろうか。

「うん、ほっといて悪かったよ」
円は微笑ましい気持ちになり、大木の重たい頭をわしゃわしゃ撫でてやった。
「……円さん!」
大木が整った顔を近づけてきて、円の唇を塞いだ。

「んんっ…」
大木が円の手首を掴んで、シーツに縫い付けるように押さえ込み、意味ありげに体を擦り付けてきた。
「円さんが本社に異動してから、なかなか会えなかったから、寂しかったんですよ俺……」
今にも泣きそうな顔で、大木がじっと円の目を見つめてくる。

この目に見つめられると、どうにも弱い。
「そっか、悪かったね。今日はたくさんヤろうか」
円は大木のうなじに手を回した。
「もちろん!あっ……」
大木がふと、何か思い出したような顔をする。

「どうしたの?」
「ねえ、円さん。俺、円さんのお母さんに改めて挨拶したいんです」
急に真剣な顔になった大木が、円の目をジッと見つめてくる。

「もう挨拶したじゃない。何を今さら…」
円は映画館からの帰り道で母と出くわした日のことを思い出していた。
大木は礼儀正しく、しっかり挨拶していたのに、母親はまともに受け取っていなかったのが、円には恥ずかしく感じられた。
円は、母親のそういうところも尊敬できないのだ。

「あれは、偶然会って、軽く自己紹介しただけです。今度は面と向かってきちんと挨拶したいんです!番になったんだし、それの報告もしたほうがいいと思うので。それに、円さんはうちに来てちゃんと挨拶してくれたのに、俺は何もしないなんて身勝手ですし……」
「そうかなあ」
その程度のことで身勝手だなんて、円は微塵も思っていない。
おそらく、母親だって同じ気持ちだろう。

あの母親が、息子の番になった男が挨拶をしにこないからといって憤慨する様子など、まるで想像がつかない。
しかし、真面目な大木のことだ。
挨拶なんてしなくてもいい、なんて言っても、きっと聞かないだろう。

「そうですよ。それに、結婚はしてないとはいえ、番になったことは報告した方がいいと思うし」
円に覆いかぶさったまま、大木が手をぎゅっと握ってきた。
「それもそうかな…あ、そうだ!」
円はふと、別なことを思い出した。

「どうしたんですか?」
「あ、あのさ、母さんの他にも、その、会って欲しい人がいるんだけど、いいかな?」
円が大木の手を握り返して懇願してきた。
いつもは気怠げな恋人が、目と目を合わせて、ジッと見据えてくる様子は真剣そのものだ。

その神妙な面持ちから、大木は「会って欲しい人」が円にとって特別な存在であることが手に取るようにわかった。
「ええ、構いませんよ」
大木はにこりと笑って了承した。

「そう、じゃあ、いつ会うか決めよう。でも、その前に、早くシよう?ボク、もう我慢できないし……」
円は大木の耳元で艶っぽく囁いた。
「もう!円さんたら!!」
すっかり劣情を煽られた大木は、円の唇をもう一度塞いだ。


それから、恋人たちは時間も忘れて夢中で愛し合い、甘いひとときを過ごした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

処理中です...