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7 罠

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「大変です!アル川の魚が次々と死んでいます!」


王宮に急な知らせが入ってきた。


「原因は何だ」


王が文官たちに問う。


「それが…一夜のうちに起こったことで、不明のままです」


アル川では王宮に献上される高級魚が水揚げされる。
魚が死んでしまってはアル川周辺の漁師たちが献上品を納められず困るだろう。


「豊穣をもたらす令嬢がいながら、こんな不吉なことが起こるなんて、おかしいと思いませんか?あの令嬢に力なんて本当にあるのかしら?」


ケリーはあちこちでシンシアの能力を疑う話を広めてまわった。


「確かに雨は降ったが、偶然かもしれないな」


とうとうケリーに賛同する者まで現れ始めた。


--------------------


私が王宮を訪れると、あちこちでひそひそ声が聞こえてきた。


「あのシンシアという令嬢はとんだペテン師かもしれないぞ」

「王室を欺くなど、大罪ではないか」


遠巻きにこちらをチラ見しながら私の悪口を言っている貴族たちを侍女が睨みつける。


「何よ!雨が降った時はあんなに喜んでいたくせに!シンシア様のお力は本物よ!」


侍女が悔しそうに私の肩を持った。


「いいのよ。力が本当かどうか、私にもわからないし」

「そんなシンシア様、弱気なことを…もう少しで殿下のお心を射止められそうですのに」

「え?まさか…そんなことないわよ。だってケリーさんがいるでしょう?」

「あの令嬢にはきっと裏の顔があります!シンシア様を貶める噂を広めたのも、あの令嬢らしいですよ!殿下はだまされてるんです!」

「そうなの…噂はそのうちやむから私は大丈夫よ」

欲がなく、ケリーと対抗しようともしない私の言葉に侍女は歯痒くて仕方がないようだ。


でもいいの。お父様とお母様には申し訳ないけれど、きっとこの世界では婚約破棄される運命なんだもの。
私は私の出来ることをやろう。困っている人たちを助けるのよ。


アル川の異変を耳にした私は、さっそく視察に行くことに決めた。




∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵




私は馬車を降りて数人の侍女と共にアル川に向かった。


「なんてこと…」


アル川は幅が広く大きな川だった。
岸辺に打ち上げられたおびただしい数の魚の死骸にぞっとする。


「こんなことは初めてらしいですよ」


侍女もこの異常事態に恐怖に似たものを感じているようだ。


誰かが毒でも流したのかしら…?


「ねえねえ、あっちにおかしなものがあるんだ、お姉さん、ちょっと来て」

「え?」


どこから現れたのか小さな男の子が突然私の手を取り、向こうに引っ張っていく。


「お嬢様!」

「私のことはいいから!みんなは魚に異常がないか調べておいて」


私は侍女たちと離れ、男の子に案内されるままにアル川の岸辺を歩いた。


--------------------


「ここ?ここの何がおかしいの?」


少し上流なのかごつごつとした岩場に囲まれている。
岩場の真ん中を流れる川の水はどんよりと暗く底が見えない。


かなり深そう。


私は川の黒さにぞっとし、身がすくむ思いがした。


「ねえ、おかしいものって──あら?」


いつの間にか男の子が姿を消していた。


「いたずらだったのかな?」


私はその場にひとり取り残された。





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