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8 ケリー
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岩場の陰でケリーが男の子にお菓子の袋を手渡している。
「いい?このことは絶対に誰にも内緒よ?」
もうお菓子をほうばっている男の子はうなずいて走り去っていった。
「ちょろいわね、どいつもこいつも。さあ次は…」
ケリーは蔑んだ目で岩陰からシンシアをねめつけた。
--------------------
「やっぱり来たわね」
突然かけられた声に私が振り向くとケリーが佇んでいた。
「どうしてあなたがここに?」
「騒ぎを起こせばあんたが来ると思ったのよ」
「…私をおびき寄せたの?まさかあの魚もあなたの仕業!?」
ケリーは醜く顔を歪ませ笑った。
この人、普段は可憐で可愛い感じなのに、こんなに邪悪な顔するの!?
「一体、何が目的で──」
ケリーは私のすぐ目の前まで近づいてきた。
「未来の王妃になるのは私なの。王太子にちょっかい出した罰よ!!」
ケリーはそう叫ぶなり、いきなり私を突き飛ばした。
「きゃっ!」
「死んじまえ」
最期に凍りつくようなケリーの捨て台詞が耳をついた。
私は抵抗することもできず、アル川の深い水に飲み込まれていった。
もがいてももがいても、水の上に届かない。
ドレスが水を吸ってどんどん沈んでいく。
私は死ぬの?この世界でも。これが私の運命なの──?
酸欠で意識が遠のいていく。
暗く閉じていく視界の中、なぜか王太子の顔がよぎった。
私、もしかして後悔してる?
破棄は少しは悲しいって、言えばよかったのかな。
でも、もう、遅いよね──
諦めた私の手が水中に頼りなく漂った。
さよ、なら、殿、下──
ついに体内の酸素が尽き、息が止まった。
その時、私の手を、誰かが掴んだ。
--------------------
シンシアを抱いて陸に上がってきたのは王太子だった。シンシアがアル川に向かったことを聞き、心配で追ってきたらしかった。
白い顔のシンシアはぐったりして息をしていなかった。
「シンシア様ああ!いやああああ!」
駆けつけた侍女がショックでパニックになる。
「シンシア!シンシア!」
そう呼びかけながら王太子はシンシアに心臓マッサージを始めた。
そしてシンシアの口に唇を重ね、息を吹き込んだ。
「シンシア!死んではダメだ!戻ってこい!!」
シンシアはなかなか息を吹き返さない。
それでも王太子は諦めることなく、何度も何度も心臓マッサージを続けた。
誰?
私を呼ぶのは。
誰?
繰り返し私の口に命を吹き込むのは。
誰?
私の心を揺さぶるのは──────
「いい?このことは絶対に誰にも内緒よ?」
もうお菓子をほうばっている男の子はうなずいて走り去っていった。
「ちょろいわね、どいつもこいつも。さあ次は…」
ケリーは蔑んだ目で岩陰からシンシアをねめつけた。
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「やっぱり来たわね」
突然かけられた声に私が振り向くとケリーが佇んでいた。
「どうしてあなたがここに?」
「騒ぎを起こせばあんたが来ると思ったのよ」
「…私をおびき寄せたの?まさかあの魚もあなたの仕業!?」
ケリーは醜く顔を歪ませ笑った。
この人、普段は可憐で可愛い感じなのに、こんなに邪悪な顔するの!?
「一体、何が目的で──」
ケリーは私のすぐ目の前まで近づいてきた。
「未来の王妃になるのは私なの。王太子にちょっかい出した罰よ!!」
ケリーはそう叫ぶなり、いきなり私を突き飛ばした。
「きゃっ!」
「死んじまえ」
最期に凍りつくようなケリーの捨て台詞が耳をついた。
私は抵抗することもできず、アル川の深い水に飲み込まれていった。
もがいてももがいても、水の上に届かない。
ドレスが水を吸ってどんどん沈んでいく。
私は死ぬの?この世界でも。これが私の運命なの──?
酸欠で意識が遠のいていく。
暗く閉じていく視界の中、なぜか王太子の顔がよぎった。
私、もしかして後悔してる?
破棄は少しは悲しいって、言えばよかったのかな。
でも、もう、遅いよね──
諦めた私の手が水中に頼りなく漂った。
さよ、なら、殿、下──
ついに体内の酸素が尽き、息が止まった。
その時、私の手を、誰かが掴んだ。
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シンシアを抱いて陸に上がってきたのは王太子だった。シンシアがアル川に向かったことを聞き、心配で追ってきたらしかった。
白い顔のシンシアはぐったりして息をしていなかった。
「シンシア様ああ!いやああああ!」
駆けつけた侍女がショックでパニックになる。
「シンシア!シンシア!」
そう呼びかけながら王太子はシンシアに心臓マッサージを始めた。
そしてシンシアの口に唇を重ね、息を吹き込んだ。
「シンシア!死んではダメだ!戻ってこい!!」
シンシアはなかなか息を吹き返さない。
それでも王太子は諦めることなく、何度も何度も心臓マッサージを続けた。
誰?
私を呼ぶのは。
誰?
繰り返し私の口に命を吹き込むのは。
誰?
私の心を揺さぶるのは──────
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