上 下
8 / 13

8 ケリー

しおりを挟む
岩場の陰でケリーが男の子にお菓子の袋を手渡している。


「いい?このことは絶対に誰にも内緒よ?」


もうお菓子をほうばっている男の子はうなずいて走り去っていった。


「ちょろいわね、どいつもこいつも。さあ次は…」


ケリーは蔑んだ目で岩陰からシンシアをねめつけた。


--------------------


「やっぱり来たわね」


突然かけられた声に私が振り向くとケリーが佇んでいた。


「どうしてあなたがここに?」

「騒ぎを起こせばあんたが来ると思ったのよ」

「…私をおびき寄せたの?まさかあの魚もあなたの仕業!?」


ケリーは醜く顔を歪ませ笑った。


この人、普段は可憐で可愛い感じなのに、こんなに邪悪な顔するの!?


「一体、何が目的で──」


ケリーは私のすぐ目の前まで近づいてきた。


「未来の王妃になるのは私なの。王太子にちょっかい出した罰よ!!」



ケリーはそう叫ぶなり、いきなり私を突き飛ばした。


「きゃっ!」


「死んじまえ」


最期に凍りつくようなケリーの捨て台詞が耳をついた。

私は抵抗することもできず、アル川の深い水に飲み込まれていった。








もがいてももがいても、水の上に届かない。
ドレスが水を吸ってどんどん沈んでいく。



私は死ぬの?この世界でも。これが私の運命なの──?



酸欠で意識が遠のいていく。



暗く閉じていく視界の中、なぜか王太子の顔がよぎった。


私、もしかして後悔してる?
破棄は少しは悲しいって、言えばよかったのかな。

でも、もう、遅いよね──



諦めた私の手が水中に頼りなく漂った。

 

さよ、なら、殿、下──



ついに体内の酸素が尽き、息が止まった。


その時、私の手を、誰かが掴んだ。




--------------------



シンシアを抱いて陸に上がってきたのは王太子だった。シンシアがアル川に向かったことを聞き、心配で追ってきたらしかった。


白い顔のシンシアはぐったりして息をしていなかった。


「シンシア様ああ!いやああああ!」


駆けつけた侍女がショックでパニックになる。


「シンシア!シンシア!」


そう呼びかけながら王太子はシンシアに心臓マッサージを始めた。
そしてシンシアの口に唇を重ね、息を吹き込んだ。


「シンシア!死んではダメだ!戻ってこい!!」


シンシアはなかなか息を吹き返さない。
それでも王太子は諦めることなく、何度も何度も心臓マッサージを続けた。






誰?
私を呼ぶのは。




誰?
繰り返し私の口に命を吹き込むのは。






誰?
私の心を揺さぶるのは──────






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

捨てられた騎士団長と相思相愛です

京月
恋愛
3年前、当時帝国騎士団で最強の呼び声が上がっていた「帝国の美剣」ことマクトリーラ伯爵家令息サラド・マクトリーラ様に私ルルロ侯爵令嬢ミルネ・ルルロは恋をした。しかし、サラド様には婚約者がおり、私の恋は叶うことは無いと知る。ある日、とある戦場でサラド様は全身を火傷する大怪我を負ってしまった。命に別状はないもののその火傷が残る顔を見て誰もが彼を割け、婚約者は彼を化け物と呼んで人里離れた山で療養と言う名の隔離、そのまま婚約を破棄した。そのチャンスを私は逃さなかった。「サラド様!私と婚約しましょう!!火傷?心配いりません!私回復魔法の博士号を取得してますから!!」

ブラックな職場で働いていた聖女は超高待遇を提示してきた隣国に引き抜かれます

京月
恋愛
残業など当たり前のお祈り いつも高圧的でうざい前聖女 少ない給料 もう我慢が出来ない そう思ってた私の前に現れた隣国の使者 え!残業お祈りしなくていいの!? 嘘!上司がいないの!? マジ!そんなに給料もらえるの!? 私今からこの国捨ててそっちに引き抜かれます

知らない男に婚約破棄を言い渡された私~マジで誰だよ!?~

京月
恋愛
 それは突然だった。ルーゼス学園の卒業式でいきなり目の前に現れた一人の学生。隣には派手な格好をした女性を侍らしている。「マリー・アーカルテ、君とは婚約破棄だ」→「マジで誰!?」

知りませんでした?私再婚して公爵夫人になりました。

京月
恋愛
学生時代、家の事情で士爵に嫁がされたコリン。 他国への訪問で伯爵を射止めた幼馴染のミーザが帰ってきた。 「コリン、士爵も大変よね。領地なんてもらえないし、貴族も名前だけ」 「あらミーザ、知りませんでした?私再婚して公爵夫人になったのよ」 「え?」

私の婚約者を狙ってる令嬢から男をとっかえひっかえしてる売女と罵られました

ゆの
恋愛
「ユーリ様!!そこの女は色んな男をとっかえひっかえしてる売女ですのよ!!騙されないでくださいましっ!!」 国王の誕生日を祝う盛大なパーティの最中に、私の婚約者を狙ってる令嬢に思いっきり罵られました。 なにやら証拠があるようで…? ※投稿前に何度か読み直し、確認してはいるのですが誤字脱字がある場合がございます。その時は優しく教えて頂けると助かります(´˘`*) ※勢いで書き始めましたが。完結まで書き終えてあります。

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

無能だと捨てられた王子を押し付けられた結果、溺愛されてます

佐崎咲
恋愛
「殿下にはもっとふさわしい人がいると思うんです。私は殿下の婚約者を辞退させていただきますわ」 いきなりそんなことを言い出したのは、私の姉ジュリエンヌ。 第二王子ウォルス殿下と私の婚約話が持ち上がったとき、お姉様は王家に嫁ぐのに相応しいのは自分だと父にねだりその座を勝ち取ったのに。 ウォルス殿下は穏やかで王位継承権を争うことを望んでいないと知り、他国の王太子に鞍替えしたのだ。 だが当人であるウォルス殿下は、淡々と受け入れてしまう。 それどころか、お姉様の代わりに婚約者となった私には、これまでとは打って変わって毎日花束を届けてくれ、ドレスをプレゼントしてくれる。   私は姉のやらかしにひたすら申し訳ないと思うばかりなのに、何やら殿下は生き生きとして見えて―― ========= お姉様のスピンオフ始めました。 「体よく国を追い出された悪女はなぜか隣国を立て直すことになった」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/465693299/193448482   ※無断転載・複写はお断りいたします。

処理中です...