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ー過去ー143

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  望はそう言うと薄暗い地下室から抜けて普段は寝室としている部屋にある棚から一冊のアルバムを手にすると、もう一度、地下室へと戻って来る。

 望は雄介の隣へと腰を下ろし、そのアルバムの一ページ一ページを丁寧に捲っていく。

 そこには小さい頃の望の写真が残っていたのだが、どの写真も笑顔ではないような気がするのは気のせいなのであろうか。

「何で、望は笑顔じゃなかったん?」
「そりゃあ、楽しくなかったからなんじゃねぇの? 幼稚園に上がる前まではまだ親達は居たけど、親父なんかはいつも家にいなかったからな。 いつも出掛ける時っていうのは、母親とばあちゃんだけだったからさ」

 望はそう言いながら一ページ一ページ捲っていると、さっき望が言っていた写真が出てくる。

 それを見た瞬間に雄介は声にならないような声を上げるのだ。

「……!!?」

 そして次の瞬間には声にならないような声を上げ、

「望! 望! これ、俺や! 俺!」
「……へ? まさか!? 本当にコレお前なのか?」
「ああ! ホンマやって! な、な、なー、分かるか? このおでこにある傷……」

 雄介はそう言って軽く自分の前髪を上げると僅かではあるのだが、縫ったような傷が雄介の額にあった。 普段は髪の毛で隠れていて分からなかったのだが、髪の毛を上げると薄っすらと傷があるのが分かるのだ。

「確かにあるな」
「ほんで、この写真じゃあ、頭に包帯巻いておるやろ?」
「ああ……」
「この傷な……親父の所に遊びに来た時の傷で、親父が病院に……?」

 フッとそこで雄介は言葉を止めると、

「病院って……まさか!? 春坂病院に行ったって事なんか?」
「ちょっと待て……雄介、もっと、詳しくその話を聞かせてくれねぇか?」
「ああ、せやな……。 とりあえずな、ウチの親父も俺が小さい頃に単身赴任しておって東京にも来ておったんやけど、俺の実家は代々受け継がれておる家やから、やっぱ、そこは誰かに売るって事も出来へんかったからなー。 ほんで、一時期、親父は東京の方に行っておって、消防士やっておったんやけど、それで、たまに俺は親父がいる東京に遊びに来てたって訳や……まぁ、俺小さかったし、東京は東京でもどの地域に遊びに来てたなんて事覚えておらんってか、知らんかったしな」

 そう雄介が語っていると、もう一度、写真の方へと目を移す。

「……ってか、この消防署、春坂消防署やんか!」
「……ん? そうなのか?」
「そりゃ、もう、何年もあの消防署で働いておるんやから見覚えがあるって……。 って事は親父も春坂消防署で働いておったって事になるんやな」
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