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第二十三話『戦争の気配』
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「――諸君!急な招集に応じてくれた事、先ず感謝する!私はこの冒険者ギルド・デンゼル支部の支部長アントン・ミルワードだ!」
アニータに連れられてやって来た、冒険者ギルド・デンゼル支部――そこにはこの町にいた他の冒険者達も集められていた。
そして、俺達が着いて少ししてから現れた白髪のオッサン、ギルド支部長アントン氏が叫ぶ様に状況を話した。
「王国軍より緊急の応援要請が入った!現在、南の『バーグ砦』に武装した帝国軍凡そ5000が接近中!我が冒険者ギルド・デンゼル支部はこの要請を受理し、諸君らに緊急依頼を出す!内容は王国軍の応援!報酬は1人金貨50枚!戦果を上げれば追加もあるぞ!」
ザワッ
ギルド内が騒つく。
「なあ、アニータ。こんなすぐに冒険者ギルドに応援要請が来るって変じゃないか?砦にも王国軍の部隊がいるんだろ?」
「ええ、いるにはいるんだけど……」
厳しい表情のアニータが、説明する。
険悪な仲の帝国との国境線監視と防衛線の役目がある南のバーグ砦だが、王国軍は大部隊の駐留は帝国を刺激する危険性があるとして、いつもギリギリの規模の部隊しか置いていないらしい。
そこへ急な帝国の大部隊の接近で緊張が高まり、すぐに近くの街や砦に応援要請を出した。
冒険者ギルドに出されたのも、その内の1つ――元々、駐留部隊の規模を抑える事による戦力不足への対応策として、すぐ近隣から増援を募れる様に手筈が整えられているそうだ。
だが、冒険者は自由が基本――王国や帝国の戦力に加わる事もあるが、その選択は各個人に委ねられている。
「……アニータ、悪いが俺は帰るぞ」
戦争参加は断固拒否だ。
「アタシもパスね。戦争なんか真っ平ごめんだわ」
キャスも嫌そうな顔で手をヒラヒラと振った。
「……そう。強制は出来ないわね、分かったわ」
アニータが少し俯いて言う。
その姿に多少罪悪感が湧くが、戦争への忌避感が勝る。
「……すまんな」
「悪く思わないでよね」
「ええ、ここまでありがとう。楽しかったわ」
アニータと別れ、俺とキャスは騒がしいギルド支部を後にする。
俺達だけでなく、参加しない選択をした冒険者がチラホラ建物から出ていた。
「ちょっと意外だったな」
「何が?」
「お前があの緊急依頼に参加しなかったのがだよ、キャス。報酬良かっただろ」
「幾ら報酬が良くたって、戦争は嫌よ。命あっての物種、危ない橋は渡らないに限るわ」
どうもキャスは、俺と同じで戦争が嫌いらしい。
「戦争は嫌いか」
「当然よ。攻めてくる帝国が悪いってのも分かるけど、だからって王国が正しい訳じゃないからね……」
どういうことか気になって聞くと、キャスの爺さんが昔帝国との小競り合いで負った怪我が元で亡くなったらしい。
それだけ聞くと帝国を恨む筋の話だが、王国は物資の不足を理由にキャスの爺さんや他の多くの兵士に治療薬を出さなかったんだそうだ。
結果、満足な治療ができず、その怪我が元で病気となり、キャスの爺さんは亡くなった……。
物資の不足が本当の話ならまだマシだったが、真実は貴族出身の騎士達に治療薬が優先された結果だという……オマケにその貴族騎士の怪我は揃って治療薬を使う程のものじゃなかったという……。
話を聞いて反吐を吐きたくなった……。
「胸糞悪いな……」
「まぁね……けど、よくある話よ。一々ムカついてたら生きていけないわ」
キャスが割り切っていると言うのなら、俺がこれ以上つべこべ言うのは筋違いだ。
「それで、ジロウ。これからどうすんの?」
「そうだな……」
これから、か……。
帝国が攻めてきた事で、この町もこれから慌ただしくなる筈だ。
なら、さっさと離れた方がいいかな?
何となく、王国軍への応援を断った事で居心地が悪い気持ちもあるし……。
「……よし、すぐ出発しよう」
決めた。
もうこの町を出る。
そして王都へ寄って、目的地の港湾都市ウエストバリーへ向かう。
本来の予定に戻ろう。
「オッケー。じゃあ、先ずは王都ね」
「ああ」
「馬車使う?」
「いや、歩く」
「了~解」
キャスも納得したところで、宿に荷物を取りに向かう。
旅の補給はもう終わっているから、荷物を持てば出発できる。
「おや?あんた達戻ってきたのかい?アニータちゃんは?」
宿に戻ってきた俺達を、女将さんが少し驚いた顔で出迎えた。
「あー、あいつはギルドで緊急依頼を受けて……俺達は断りましたんで」
「なんだい、アニータちゃんはやるのにあんたらはやらないのかい?」
「……戦争には、関わりたくないんですよ」
「……ふぅん、そうかい」
女将さんの表情が冷たく変わった……。
まあ、仕方ないだろう……。
女将さんから見たら、俺達は仲間1人置いてけぼりにした薄情者だろうからな。
どうやら、この宿もこれ限りになりそうだ……。
「……すいません、鍵を」
「……」
無言で机の上に鍵を置く女将さん。
俺とキャスはそれぞれは鍵を取り、それぞれの部屋へ向かった。
そして少し片づけてから荷物を背負い、部屋を出て再び集まる。
「それじゃあ、俺達はこれで」
「……あいよ」
女将さんに鍵を返し、宿を出る。
これでもう……少なくとも俺は、この宿を二度と訪ねる事は無いだろう。
「急に感じ悪いわね、あのおばさん……!」
宿を振り返りながら、顔を顰めるキャス。
「……仕方ねえよ。アニータは常連で、俺達は一見……思い入れが違う」
「ふん!二度と来てやんないわ、こんな宿!ベー!」
「舌を出すな、子供か……」
そうして俺達は、少し足早にデンゼルの町を出た。
一度西へ向かう道に出て、村を1つ経由して、北へ向かう道が王都に通じるらしい。
「帝国軍の話、もう広がってるみたいね……」
「そうだな」
西の道を歩く俺達の横を、通り過ぎる馬車……後ろから結構な人数が乗っているのが見えた。
戦争が近いと知って、町から避難する人達なんだろう。
そういえば、ダニロさんはどうするんだろう?
避難するのか?
それとも残留?
分からんな……戦争についてどう思っているかとか話さなかったし、ダニロさん自身の性格も完全には掴み切れていない。
とにかく、無事でいてくれるのを祈ろう。
無事と言えば……ヴィンセントの妨害活動は上手くいってるんだろうか?
それにゴードンやカサンドラも、上手く帝国に帰れただろうか?
こうして思い返すと、どうも俺は帝国の人間の方が縁が多いな……。
だからと言って帝国に行こうとは今のところ思わないが……。
「……ねえ。ねえったら!ジロウ!」
「ん?」
ふと我に返る。
声に振り向くと、キャスが怪訝な顔でこっちを見ていた。
「どうかした?急に黙っちゃったけど」
「いや、取り留めもない事を考えてただけだ……まあ、一応、戦争関連でな」
「止めときなさいよ、考え過ぎると禿げるわよ」
「そこまで深く考えてないって」
とはいえ、歩きスマホじゃないが注意散漫は危険だし、ちゃんと前を向いて歩こう。
そうして、明るい内は歩き、夜になれば野宿して、道を往き翌日の昼――中継地点の村に辿り着いたところで、事件に出くわす……。
「ちょっ!?一体どうなってんのよコレ!?」
「分からん!」
俺とキャスは、村に着くなり戦う羽目になっていた。
相手は二足歩行の蜥蜴『リザードマン』――キャス曰く、こんな人里まで襲いに来るような類の魔物ではないとのこと。
しかも、村を襲っていたリザードマンは妙に装備が良い。
鉄製の胸当てや盾、剣や槍を使っていて、どこか統一感がある。
「何なんだこいつら!?」
「なんでリザードマンが鉄の装備なんか!?」
俺達以外にも、村にいた冒険者や少数の兵士が戦っているが、一様にリザードマンの装備に疑問の声を上げていた。
明らかに普通のリザードマンじゃないという訳だ。
「ふんッ!」
『ギャアッ!?』
俺は新しい相棒――魔剣『青天』をぶん回し、リザードマンを胴から真っ二つに斬り裂く。
青天は俺の魔力を受けて強度や切れ味を増す。
俺の腕力と合わされば、俺の技術不足を補って余りある攻撃力を発揮する。
リザードマンの鉄の防具など、正に紙装甲にしかならない。
それでいて、青天の刀身は折れも曲がりもせず、刃毀れ一つしない。
ダニロさんはやはり、とんでもなく凄腕の鍛冶師だった。
「シッ!」
『ギャアァッ!?』
キャスも素早い身のこなしと、ナイフを使った斥候らしい戦い方でリザードマンを倒していく。
投げナイフでピンポイントに目を潰し、リザードマンの鱗の隙間に刃を刺し込むことで致命傷を与えている。
戦い方、技術力という点では俺はキャスの足元にも及ばないな。
「ったく!なんでこうなるのかしらねッ!?」
「本当になッ!」
折角厄介な戦争参加を回避したっていうのに、どうしてその先で変な魔物襲撃なんて別の厄介に出くわすのか!?
嫌だからって避けたバチが当たったとでもいうのか!?
それとも何かに呪われているのか!?
そんな事を考えながら、向かって来るリザードマンを斬り倒し続け、何とか戦闘は終わった……。
「はぁぁ、やっと終わったぁ~」
辺りから敵の気配がなくなり、キャスが民家の壁に寄り掛かりながら座り込む。
結構襲撃が長引き、かなりの数を倒したからな……。
正確に数えていないが、俺1人だけでも100匹近く斬り倒した。
他の冒険者や兵士が倒したのも合わせれば、全部で300以上はいたんじゃないだろうか……。
おかげで村人・冒険者・兵士……かなりの数の犠牲者が出た。
「あぁぁぁ……!あなたぁぁ……!」
「ええぇぇん……!お母さぁぁん……!」
「チクショぉぉ……蜥蜴どもめぇぇ……!!」
そこかしこから、身内や親しい人を亡くした人達の嘆きの声が聞こえてくる……。
人が死に、建物が壊れ、生き延びた人達が悲しみに泣き、怒りに叫ぶ……これじゃあ、戦争と何も変わらない……。
「……戦争……?」
ふと、頭に閃くものがあった。
目につく、集められたリザードマンの死体……。
出現場所、装備、群の規模……おかしい事だらけ……。
野生の魔物の偶然の襲撃とはとても思えない。
必然、だとすれば……何者かの意思で、リザードマン達が嗾けられたという事になる。
そして、つい昨日、デンゼルの町で帝国軍の接近で騒ぎがあったばかり……。
まさか、このリザードマンどもは、帝国の差し金……?
「……まさか、な……」
思わず空を見上げる……。
日が傾いてはいても、雲の少ない晴れた空の筈なのに……何故か暗雲が迫っている様な気がした……。
アニータに連れられてやって来た、冒険者ギルド・デンゼル支部――そこにはこの町にいた他の冒険者達も集められていた。
そして、俺達が着いて少ししてから現れた白髪のオッサン、ギルド支部長アントン氏が叫ぶ様に状況を話した。
「王国軍より緊急の応援要請が入った!現在、南の『バーグ砦』に武装した帝国軍凡そ5000が接近中!我が冒険者ギルド・デンゼル支部はこの要請を受理し、諸君らに緊急依頼を出す!内容は王国軍の応援!報酬は1人金貨50枚!戦果を上げれば追加もあるぞ!」
ザワッ
ギルド内が騒つく。
「なあ、アニータ。こんなすぐに冒険者ギルドに応援要請が来るって変じゃないか?砦にも王国軍の部隊がいるんだろ?」
「ええ、いるにはいるんだけど……」
厳しい表情のアニータが、説明する。
険悪な仲の帝国との国境線監視と防衛線の役目がある南のバーグ砦だが、王国軍は大部隊の駐留は帝国を刺激する危険性があるとして、いつもギリギリの規模の部隊しか置いていないらしい。
そこへ急な帝国の大部隊の接近で緊張が高まり、すぐに近くの街や砦に応援要請を出した。
冒険者ギルドに出されたのも、その内の1つ――元々、駐留部隊の規模を抑える事による戦力不足への対応策として、すぐ近隣から増援を募れる様に手筈が整えられているそうだ。
だが、冒険者は自由が基本――王国や帝国の戦力に加わる事もあるが、その選択は各個人に委ねられている。
「……アニータ、悪いが俺は帰るぞ」
戦争参加は断固拒否だ。
「アタシもパスね。戦争なんか真っ平ごめんだわ」
キャスも嫌そうな顔で手をヒラヒラと振った。
「……そう。強制は出来ないわね、分かったわ」
アニータが少し俯いて言う。
その姿に多少罪悪感が湧くが、戦争への忌避感が勝る。
「……すまんな」
「悪く思わないでよね」
「ええ、ここまでありがとう。楽しかったわ」
アニータと別れ、俺とキャスは騒がしいギルド支部を後にする。
俺達だけでなく、参加しない選択をした冒険者がチラホラ建物から出ていた。
「ちょっと意外だったな」
「何が?」
「お前があの緊急依頼に参加しなかったのがだよ、キャス。報酬良かっただろ」
「幾ら報酬が良くたって、戦争は嫌よ。命あっての物種、危ない橋は渡らないに限るわ」
どうもキャスは、俺と同じで戦争が嫌いらしい。
「戦争は嫌いか」
「当然よ。攻めてくる帝国が悪いってのも分かるけど、だからって王国が正しい訳じゃないからね……」
どういうことか気になって聞くと、キャスの爺さんが昔帝国との小競り合いで負った怪我が元で亡くなったらしい。
それだけ聞くと帝国を恨む筋の話だが、王国は物資の不足を理由にキャスの爺さんや他の多くの兵士に治療薬を出さなかったんだそうだ。
結果、満足な治療ができず、その怪我が元で病気となり、キャスの爺さんは亡くなった……。
物資の不足が本当の話ならまだマシだったが、真実は貴族出身の騎士達に治療薬が優先された結果だという……オマケにその貴族騎士の怪我は揃って治療薬を使う程のものじゃなかったという……。
話を聞いて反吐を吐きたくなった……。
「胸糞悪いな……」
「まぁね……けど、よくある話よ。一々ムカついてたら生きていけないわ」
キャスが割り切っていると言うのなら、俺がこれ以上つべこべ言うのは筋違いだ。
「それで、ジロウ。これからどうすんの?」
「そうだな……」
これから、か……。
帝国が攻めてきた事で、この町もこれから慌ただしくなる筈だ。
なら、さっさと離れた方がいいかな?
何となく、王国軍への応援を断った事で居心地が悪い気持ちもあるし……。
「……よし、すぐ出発しよう」
決めた。
もうこの町を出る。
そして王都へ寄って、目的地の港湾都市ウエストバリーへ向かう。
本来の予定に戻ろう。
「オッケー。じゃあ、先ずは王都ね」
「ああ」
「馬車使う?」
「いや、歩く」
「了~解」
キャスも納得したところで、宿に荷物を取りに向かう。
旅の補給はもう終わっているから、荷物を持てば出発できる。
「おや?あんた達戻ってきたのかい?アニータちゃんは?」
宿に戻ってきた俺達を、女将さんが少し驚いた顔で出迎えた。
「あー、あいつはギルドで緊急依頼を受けて……俺達は断りましたんで」
「なんだい、アニータちゃんはやるのにあんたらはやらないのかい?」
「……戦争には、関わりたくないんですよ」
「……ふぅん、そうかい」
女将さんの表情が冷たく変わった……。
まあ、仕方ないだろう……。
女将さんから見たら、俺達は仲間1人置いてけぼりにした薄情者だろうからな。
どうやら、この宿もこれ限りになりそうだ……。
「……すいません、鍵を」
「……」
無言で机の上に鍵を置く女将さん。
俺とキャスはそれぞれは鍵を取り、それぞれの部屋へ向かった。
そして少し片づけてから荷物を背負い、部屋を出て再び集まる。
「それじゃあ、俺達はこれで」
「……あいよ」
女将さんに鍵を返し、宿を出る。
これでもう……少なくとも俺は、この宿を二度と訪ねる事は無いだろう。
「急に感じ悪いわね、あのおばさん……!」
宿を振り返りながら、顔を顰めるキャス。
「……仕方ねえよ。アニータは常連で、俺達は一見……思い入れが違う」
「ふん!二度と来てやんないわ、こんな宿!ベー!」
「舌を出すな、子供か……」
そうして俺達は、少し足早にデンゼルの町を出た。
一度西へ向かう道に出て、村を1つ経由して、北へ向かう道が王都に通じるらしい。
「帝国軍の話、もう広がってるみたいね……」
「そうだな」
西の道を歩く俺達の横を、通り過ぎる馬車……後ろから結構な人数が乗っているのが見えた。
戦争が近いと知って、町から避難する人達なんだろう。
そういえば、ダニロさんはどうするんだろう?
避難するのか?
それとも残留?
分からんな……戦争についてどう思っているかとか話さなかったし、ダニロさん自身の性格も完全には掴み切れていない。
とにかく、無事でいてくれるのを祈ろう。
無事と言えば……ヴィンセントの妨害活動は上手くいってるんだろうか?
それにゴードンやカサンドラも、上手く帝国に帰れただろうか?
こうして思い返すと、どうも俺は帝国の人間の方が縁が多いな……。
だからと言って帝国に行こうとは今のところ思わないが……。
「……ねえ。ねえったら!ジロウ!」
「ん?」
ふと我に返る。
声に振り向くと、キャスが怪訝な顔でこっちを見ていた。
「どうかした?急に黙っちゃったけど」
「いや、取り留めもない事を考えてただけだ……まあ、一応、戦争関連でな」
「止めときなさいよ、考え過ぎると禿げるわよ」
「そこまで深く考えてないって」
とはいえ、歩きスマホじゃないが注意散漫は危険だし、ちゃんと前を向いて歩こう。
そうして、明るい内は歩き、夜になれば野宿して、道を往き翌日の昼――中継地点の村に辿り着いたところで、事件に出くわす……。
「ちょっ!?一体どうなってんのよコレ!?」
「分からん!」
俺とキャスは、村に着くなり戦う羽目になっていた。
相手は二足歩行の蜥蜴『リザードマン』――キャス曰く、こんな人里まで襲いに来るような類の魔物ではないとのこと。
しかも、村を襲っていたリザードマンは妙に装備が良い。
鉄製の胸当てや盾、剣や槍を使っていて、どこか統一感がある。
「何なんだこいつら!?」
「なんでリザードマンが鉄の装備なんか!?」
俺達以外にも、村にいた冒険者や少数の兵士が戦っているが、一様にリザードマンの装備に疑問の声を上げていた。
明らかに普通のリザードマンじゃないという訳だ。
「ふんッ!」
『ギャアッ!?』
俺は新しい相棒――魔剣『青天』をぶん回し、リザードマンを胴から真っ二つに斬り裂く。
青天は俺の魔力を受けて強度や切れ味を増す。
俺の腕力と合わされば、俺の技術不足を補って余りある攻撃力を発揮する。
リザードマンの鉄の防具など、正に紙装甲にしかならない。
それでいて、青天の刀身は折れも曲がりもせず、刃毀れ一つしない。
ダニロさんはやはり、とんでもなく凄腕の鍛冶師だった。
「シッ!」
『ギャアァッ!?』
キャスも素早い身のこなしと、ナイフを使った斥候らしい戦い方でリザードマンを倒していく。
投げナイフでピンポイントに目を潰し、リザードマンの鱗の隙間に刃を刺し込むことで致命傷を与えている。
戦い方、技術力という点では俺はキャスの足元にも及ばないな。
「ったく!なんでこうなるのかしらねッ!?」
「本当になッ!」
折角厄介な戦争参加を回避したっていうのに、どうしてその先で変な魔物襲撃なんて別の厄介に出くわすのか!?
嫌だからって避けたバチが当たったとでもいうのか!?
それとも何かに呪われているのか!?
そんな事を考えながら、向かって来るリザードマンを斬り倒し続け、何とか戦闘は終わった……。
「はぁぁ、やっと終わったぁ~」
辺りから敵の気配がなくなり、キャスが民家の壁に寄り掛かりながら座り込む。
結構襲撃が長引き、かなりの数を倒したからな……。
正確に数えていないが、俺1人だけでも100匹近く斬り倒した。
他の冒険者や兵士が倒したのも合わせれば、全部で300以上はいたんじゃないだろうか……。
おかげで村人・冒険者・兵士……かなりの数の犠牲者が出た。
「あぁぁぁ……!あなたぁぁ……!」
「ええぇぇん……!お母さぁぁん……!」
「チクショぉぉ……蜥蜴どもめぇぇ……!!」
そこかしこから、身内や親しい人を亡くした人達の嘆きの声が聞こえてくる……。
人が死に、建物が壊れ、生き延びた人達が悲しみに泣き、怒りに叫ぶ……これじゃあ、戦争と何も変わらない……。
「……戦争……?」
ふと、頭に閃くものがあった。
目につく、集められたリザードマンの死体……。
出現場所、装備、群の規模……おかしい事だらけ……。
野生の魔物の偶然の襲撃とはとても思えない。
必然、だとすれば……何者かの意思で、リザードマン達が嗾けられたという事になる。
そして、つい昨日、デンゼルの町で帝国軍の接近で騒ぎがあったばかり……。
まさか、このリザードマンどもは、帝国の差し金……?
「……まさか、な……」
思わず空を見上げる……。
日が傾いてはいても、雲の少ない晴れた空の筈なのに……何故か暗雲が迫っている様な気がした……。
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