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第二十二話『魔剣』
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「こんちわ、オヤジさん」
「おう、来たな若造」
約束の日、俺は再びドワーフのオヤジさんを訪ねた。
オヤジさんは、一昨日と同じく路地で露店を開き、煙管を吹かしていた。
「おぬしの武器は仕上げてある。中に行くぞ」
「はい」
露店を手早く畳むと、オヤジさんは工房の中に入っていく。
俺もそれに続いた。
前に来た時と同じく、階段を降りて地下工房へ。
「ほれ、こいつが仕上がったおぬしの武器じゃ」
オヤジさんが工房に置かれた台の上の示す。
そこには、前に鍛えた長方形の剣?が置かれていた。
「おお~!」
思わず声が洩れる。
前に見た時はただの長方形に伸ばされた鉄板みたいだったが、今は両側が尖れて刃が付けられており、波打つ様な刃紋がどことなく美しい……!
それに刀身も磨かれ、更に何か模様が刻まれている。
鍔は無いが、持ち手は50センチぐらいの長さに調整され、何かの皮を交差する形に編み込まれ、巻き付けられていて握り易そうだ。
幅広で分厚く、鋭く斬り裂くタイプではない。
どちらかと言えば、力でブッタ斬るというか叩き割るイメージ……やはり鉈に近い。
「……オヤジさん、持ってみても?」
「好きにせい。それはおぬしの武器じゃぞ」
「じゃあ……!」
柄に手をかけ、しっかり握って持ち上げる。
「うお?!」
なんだ、このしっくりくる感じは……!?
重さ、長さ、それに重心?のバランス……!
重みは感じるのに、腕に負担という感覚が全く無い!
なのに、間合いは圧倒的に広くなった。
これは、何というか……面白い!
届かない所に届く様になったというか、俺の中で何かが広がったという気する。
「持った感触は良い様じゃな」
オヤジさんの声で我に帰る。
初めての感覚にぼーっとしていた。
「次は魔力を注いでみい」
「……はい」
打つ前の金属塊の状態では青白く光ったが、今だとどうなる?
言われて、魔力を注いでみる。
すると、刀身に機械の回路の様な模様が青白い光を放って浮かび上がり、刃が同じく光り出す。
金属塊の時よりずっと魔力の通りが良い。
それに光も、激しく眩しい光ではない、ぼんやりと淡く光る感じ……当然というか、大量の魔力を注げば光も増す様だが、懐中電灯じゃあるまいし、光らせる為に魔力を注ぐ意味はない。
握って魔力を注いでいると何故か分かるが、この剣は魔力を注ぐ事で強度と切れ味が増す仕組みになっている様だ。
しかも多少刃毀れや罅ぐらいなら、魔力で修復する事が可能らしい。
なんてファンタジーな高性能武器!
「うむ、仕上がりは上々じゃな」
またオヤジさんの声で我に帰る。
どうにも惹き込まれてしまう……。
「よし、最後の締めにこの剣に名前を付けねばな」
「名前、ですか」
「そうじゃ。名付けて、この剣は完成する。ジロウ、おぬしが決めろ」
「えっ!?オヤジさんが付けるんじゃないんですか!?」
「それはおぬしの剣じゃ。おぬしが名付けるに決まっとる」
うおお、そんな唐突に言われても……!
名前を付けるなんて、やった事ないぞ!
大してボキャブラリーがある訳でもないのに、どうすれば……?
「う~ん……」
俺の手で光続ける剣を見る。
青白い光……青……光……ブルーライト?
駄目だ、目に悪そう……。
くそ、何かないか?!
青……空……天……。
「……『青天』……」
カッ
なんだ!?
剣が一瞬強く光った。
「決まった様じゃな」
えっ?
決まったって……今ので!?
「あ、あの!今ので決まりなんですか!?」
「名付けを意識し、その名を口に出せば、名付けは成る。『青天』、良い名じゃ、堂々と名乗るがええ」
う~ん、それでいいのか……?
異世界の、鍛治とか魔法に関する、不思議な理ってヤツなのかな……?
うん、分からないから、そういうものだと思って深く考えるの止めとこう……。
ふとオヤジさんを見れば、壁際の戸棚からコルク栓の酒瓶と木のコップを2つ取り出している。
「若造、一杯付き合え。久しぶりに気持ち良い仕事が出来た。呑みたい気分じゃ」
「喜んで」
酒はそれなりに好きだし、折角の誘いだ、断る理由はない。
オヤジさんは側の台にコップを置き、酒瓶に手を掛ける。
キュポン
良い音を立ててコルク栓が抜ける。
トクトクトク
傾けられた酒瓶から、また良い音を立てて酒が注がれていく。
あ、剣を光らせたままだった。
でも、その光で酒の色が見える。
剣の光と合わさっても損なわれない琥珀色、ブランデーかウイスキーみたいな酒かな?
「ほれ、若造。儂のとっておき、秘蔵のドワーフ火酒じゃ」
「頂きます」
差し出されたコップを受け取る。
コップになみなみと注がれた酒、フワリと香る甘い木の匂いは樽から移ったものか。
そこに混じる、鼻の奥を突く様なアルコールの匂い……これは強そうだ。
火酒というからにはやっぱり蒸留酒の類……ウイスキーやブランデーなんか日本でも飲んだ事がないからよく知らないが、確か焼酎のアルコール度は20~30パーセントぐらいだったはず。
異世界の、しかも呑兵衛種族として有名なドワーフが飲む酒だ……きっと更に強い酒に違いない。
これは覚悟して飲まなければ……!
「さあ、飲むぞ」
「はい」
「「乾杯」」
互いのコップをコツンと軽く打ち合わせ、ほぼ同時に酒を口に流す。
瞬間、口の中に辛口の酒の味が広がり、アルコールの混じったバニラの様な甘く芳醇な香りが鼻に抜けた。
しかし、咽せる様な体の拒否反応は起こらない。
サラリと喉に流れていく。
すると今度は喉がカッと熱くなる。
喉を焼く、という表現が合う感覚だが、不快じゃない。
その熱さは食道を通って胃に落ちていき、そこから全身に伝わっていく。
「ゴク、ゴク、ゴク……ッカハァ!」
気付けば、コップの中身を一気に飲み干していた。
舌に残る火酒の辛味、鼻に残る甘く爽やかな香り、喉に残る熱さ、全身に巡るアルコール、フワリと体が浮く様な快感……これはヤバい、気をしっかり持たないとハマるぞ?
「ほう、ドワーフ火酒を一気とは中々やりおる。いける口じゃな」
「いやぁ、美味くてつい……」
「ふふん、この味が分かるとは見所があるわい。若造……いや、酒の味が分かる者をそうは呼べんな。あー……そういえば聞いとらんかったな。おぬし、名前は?」
「あ、はい。ジロウ・ハセガワといいます」
「ジロウか。ふむ、短くて覚え易い良い名前じゃ」
「ハハハ、そう言われたのはオヤジさんが初めてですよ」
「『ダニロ』じゃ」
「はい?」
「儂の名じゃ。ダニロと呼べ」
「……はい、ダニロさん」
「うむ。よし、ジロウ!今日はとことん飲むぞ!」
「付き合いますよ」
そうして始まった酒盛りは盛り上がった。
俺もダニロさん、2人でドワーフ火酒をグイグイ呷り、最初の1本はすぐに空になり、ダニロさんが奥の倉庫から次の酒を樽で持って来て、更に肴に胡椒が効いた干し肉や塩辛い魚の干物なども出てきて、酒盛りは続いた。
飲んでは次、飲んでは次、の繰り返し――思い返せば酷い飲み方、しかも飲んでいるのはアルコール度の強い火酒、日本なら急性アルコール中毒必至だろう。
しかし、俺はチートボディで肝臓もチートなのか、酔いはしても意識ははっきりし続け、ダニロさんもドワーフだからか酔ってはいても倒れる様な気配はなかった。
「ガハハハハハッ!美味い!今日は久しぶりに酒が美味い日じゃ!さあジロウ!もっと飲め飲め!」
「ハハハッ!いやぁどうもどうも!さあさ!ダニロさんもご返杯ご返杯!」
「おおともよ!」
酔っ払い男2人、注いでは呷り、呷っては注ぎ、大いに盛り上がってしまった。
終わったのは、肴も食べ尽くし、酒も飲み尽くした時――外に出てみれば、すっかり夜も更けて星が見える時間だった。
「良い仕事に良い酒、本当に良い気分じゃ!何十年ぶりかのう、ここまで良い気分は……。礼を言うぞ、ジロウよ」
「俺の方こそですよ、ダニロさん」
凄い武器に、上等な酒を浴びる程……もう貰い過ぎで悪い気さえする。
だが、それを言うのは野暮だ。
ダニロさんは、俺が引け目を感じる事を望まない。
例え内心で感じてしまっても、それを表に出さないのが、ダニロさんへの礼儀だろう。
「その剣――青天に何かあればいつでも来い。まあ、滅多な事もあるまいがな」
「ありがとう、ダニロさん。こいつに何かなくても、良い酒でも持ってまた来ますよ」
「フフン。なら儂もまた、良いドワーフ火酒を用意して待っていてやるかの」
俺とダニロさんは、どっちからともなく握手を交わす。
そして俺は、背中に新たな武器――魔剣『青天』を背負って、ダニロさんの工房を後にした。
心地よい充足感に包まれながら、町を歩き、宿へと帰り、ベッドにダイブして青天を抱きしめながら眠った。
良い出会いだった……。
明けて翌朝――朝食の席で俺はキャスやアニータに、昨日1日どこに行っていたのかと軽く問い詰められる事になったが、青天を見せ、事情を話した。
そしたらキャスの奴、大きさや厚さや形について「変」と言いやがった……。
キャスには青天の凄さが分からんのだ。
だからと言う訳じゃないが、ダニロさんの名前や工房の場所は教えなかった。
ダニロさんの事は、そっとしておきたいしな。
キャスもアニータも深くは追及してこなくて助かった。
さて、今日が滞在最終日になる。
アニータの装備の整備が終わり、受け取りが済めば、この町での用事は全て済む。
明日には王都に向かえる。
ここから王都は2・3日で着けると聞いた。
もうすぐ、アニータともお別れか……。
装備を受け取りに行ったアニータを宿で見送り、部屋でゴロゴロしながらそんな事をチラッと考えた時だった――。
「ジロウ!悪いんだけど一緒に来て!冒険者ギルドの緊急招集が掛かったわ!」
血相を変えたアニータが部屋に駆け込んできた。
ご丁寧に整備が済んだ装備を身に着けて……。
やれやれ、何かは知らんが、どうしてこう厄介が舞い込むのか……。
「おう、来たな若造」
約束の日、俺は再びドワーフのオヤジさんを訪ねた。
オヤジさんは、一昨日と同じく路地で露店を開き、煙管を吹かしていた。
「おぬしの武器は仕上げてある。中に行くぞ」
「はい」
露店を手早く畳むと、オヤジさんは工房の中に入っていく。
俺もそれに続いた。
前に来た時と同じく、階段を降りて地下工房へ。
「ほれ、こいつが仕上がったおぬしの武器じゃ」
オヤジさんが工房に置かれた台の上の示す。
そこには、前に鍛えた長方形の剣?が置かれていた。
「おお~!」
思わず声が洩れる。
前に見た時はただの長方形に伸ばされた鉄板みたいだったが、今は両側が尖れて刃が付けられており、波打つ様な刃紋がどことなく美しい……!
それに刀身も磨かれ、更に何か模様が刻まれている。
鍔は無いが、持ち手は50センチぐらいの長さに調整され、何かの皮を交差する形に編み込まれ、巻き付けられていて握り易そうだ。
幅広で分厚く、鋭く斬り裂くタイプではない。
どちらかと言えば、力でブッタ斬るというか叩き割るイメージ……やはり鉈に近い。
「……オヤジさん、持ってみても?」
「好きにせい。それはおぬしの武器じゃぞ」
「じゃあ……!」
柄に手をかけ、しっかり握って持ち上げる。
「うお?!」
なんだ、このしっくりくる感じは……!?
重さ、長さ、それに重心?のバランス……!
重みは感じるのに、腕に負担という感覚が全く無い!
なのに、間合いは圧倒的に広くなった。
これは、何というか……面白い!
届かない所に届く様になったというか、俺の中で何かが広がったという気する。
「持った感触は良い様じゃな」
オヤジさんの声で我に帰る。
初めての感覚にぼーっとしていた。
「次は魔力を注いでみい」
「……はい」
打つ前の金属塊の状態では青白く光ったが、今だとどうなる?
言われて、魔力を注いでみる。
すると、刀身に機械の回路の様な模様が青白い光を放って浮かび上がり、刃が同じく光り出す。
金属塊の時よりずっと魔力の通りが良い。
それに光も、激しく眩しい光ではない、ぼんやりと淡く光る感じ……当然というか、大量の魔力を注げば光も増す様だが、懐中電灯じゃあるまいし、光らせる為に魔力を注ぐ意味はない。
握って魔力を注いでいると何故か分かるが、この剣は魔力を注ぐ事で強度と切れ味が増す仕組みになっている様だ。
しかも多少刃毀れや罅ぐらいなら、魔力で修復する事が可能らしい。
なんてファンタジーな高性能武器!
「うむ、仕上がりは上々じゃな」
またオヤジさんの声で我に帰る。
どうにも惹き込まれてしまう……。
「よし、最後の締めにこの剣に名前を付けねばな」
「名前、ですか」
「そうじゃ。名付けて、この剣は完成する。ジロウ、おぬしが決めろ」
「えっ!?オヤジさんが付けるんじゃないんですか!?」
「それはおぬしの剣じゃ。おぬしが名付けるに決まっとる」
うおお、そんな唐突に言われても……!
名前を付けるなんて、やった事ないぞ!
大してボキャブラリーがある訳でもないのに、どうすれば……?
「う~ん……」
俺の手で光続ける剣を見る。
青白い光……青……光……ブルーライト?
駄目だ、目に悪そう……。
くそ、何かないか?!
青……空……天……。
「……『青天』……」
カッ
なんだ!?
剣が一瞬強く光った。
「決まった様じゃな」
えっ?
決まったって……今ので!?
「あ、あの!今ので決まりなんですか!?」
「名付けを意識し、その名を口に出せば、名付けは成る。『青天』、良い名じゃ、堂々と名乗るがええ」
う~ん、それでいいのか……?
異世界の、鍛治とか魔法に関する、不思議な理ってヤツなのかな……?
うん、分からないから、そういうものだと思って深く考えるの止めとこう……。
ふとオヤジさんを見れば、壁際の戸棚からコルク栓の酒瓶と木のコップを2つ取り出している。
「若造、一杯付き合え。久しぶりに気持ち良い仕事が出来た。呑みたい気分じゃ」
「喜んで」
酒はそれなりに好きだし、折角の誘いだ、断る理由はない。
オヤジさんは側の台にコップを置き、酒瓶に手を掛ける。
キュポン
良い音を立ててコルク栓が抜ける。
トクトクトク
傾けられた酒瓶から、また良い音を立てて酒が注がれていく。
あ、剣を光らせたままだった。
でも、その光で酒の色が見える。
剣の光と合わさっても損なわれない琥珀色、ブランデーかウイスキーみたいな酒かな?
「ほれ、若造。儂のとっておき、秘蔵のドワーフ火酒じゃ」
「頂きます」
差し出されたコップを受け取る。
コップになみなみと注がれた酒、フワリと香る甘い木の匂いは樽から移ったものか。
そこに混じる、鼻の奥を突く様なアルコールの匂い……これは強そうだ。
火酒というからにはやっぱり蒸留酒の類……ウイスキーやブランデーなんか日本でも飲んだ事がないからよく知らないが、確か焼酎のアルコール度は20~30パーセントぐらいだったはず。
異世界の、しかも呑兵衛種族として有名なドワーフが飲む酒だ……きっと更に強い酒に違いない。
これは覚悟して飲まなければ……!
「さあ、飲むぞ」
「はい」
「「乾杯」」
互いのコップをコツンと軽く打ち合わせ、ほぼ同時に酒を口に流す。
瞬間、口の中に辛口の酒の味が広がり、アルコールの混じったバニラの様な甘く芳醇な香りが鼻に抜けた。
しかし、咽せる様な体の拒否反応は起こらない。
サラリと喉に流れていく。
すると今度は喉がカッと熱くなる。
喉を焼く、という表現が合う感覚だが、不快じゃない。
その熱さは食道を通って胃に落ちていき、そこから全身に伝わっていく。
「ゴク、ゴク、ゴク……ッカハァ!」
気付けば、コップの中身を一気に飲み干していた。
舌に残る火酒の辛味、鼻に残る甘く爽やかな香り、喉に残る熱さ、全身に巡るアルコール、フワリと体が浮く様な快感……これはヤバい、気をしっかり持たないとハマるぞ?
「ほう、ドワーフ火酒を一気とは中々やりおる。いける口じゃな」
「いやぁ、美味くてつい……」
「ふふん、この味が分かるとは見所があるわい。若造……いや、酒の味が分かる者をそうは呼べんな。あー……そういえば聞いとらんかったな。おぬし、名前は?」
「あ、はい。ジロウ・ハセガワといいます」
「ジロウか。ふむ、短くて覚え易い良い名前じゃ」
「ハハハ、そう言われたのはオヤジさんが初めてですよ」
「『ダニロ』じゃ」
「はい?」
「儂の名じゃ。ダニロと呼べ」
「……はい、ダニロさん」
「うむ。よし、ジロウ!今日はとことん飲むぞ!」
「付き合いますよ」
そうして始まった酒盛りは盛り上がった。
俺もダニロさん、2人でドワーフ火酒をグイグイ呷り、最初の1本はすぐに空になり、ダニロさんが奥の倉庫から次の酒を樽で持って来て、更に肴に胡椒が効いた干し肉や塩辛い魚の干物なども出てきて、酒盛りは続いた。
飲んでは次、飲んでは次、の繰り返し――思い返せば酷い飲み方、しかも飲んでいるのはアルコール度の強い火酒、日本なら急性アルコール中毒必至だろう。
しかし、俺はチートボディで肝臓もチートなのか、酔いはしても意識ははっきりし続け、ダニロさんもドワーフだからか酔ってはいても倒れる様な気配はなかった。
「ガハハハハハッ!美味い!今日は久しぶりに酒が美味い日じゃ!さあジロウ!もっと飲め飲め!」
「ハハハッ!いやぁどうもどうも!さあさ!ダニロさんもご返杯ご返杯!」
「おおともよ!」
酔っ払い男2人、注いでは呷り、呷っては注ぎ、大いに盛り上がってしまった。
終わったのは、肴も食べ尽くし、酒も飲み尽くした時――外に出てみれば、すっかり夜も更けて星が見える時間だった。
「良い仕事に良い酒、本当に良い気分じゃ!何十年ぶりかのう、ここまで良い気分は……。礼を言うぞ、ジロウよ」
「俺の方こそですよ、ダニロさん」
凄い武器に、上等な酒を浴びる程……もう貰い過ぎで悪い気さえする。
だが、それを言うのは野暮だ。
ダニロさんは、俺が引け目を感じる事を望まない。
例え内心で感じてしまっても、それを表に出さないのが、ダニロさんへの礼儀だろう。
「その剣――青天に何かあればいつでも来い。まあ、滅多な事もあるまいがな」
「ありがとう、ダニロさん。こいつに何かなくても、良い酒でも持ってまた来ますよ」
「フフン。なら儂もまた、良いドワーフ火酒を用意して待っていてやるかの」
俺とダニロさんは、どっちからともなく握手を交わす。
そして俺は、背中に新たな武器――魔剣『青天』を背負って、ダニロさんの工房を後にした。
心地よい充足感に包まれながら、町を歩き、宿へと帰り、ベッドにダイブして青天を抱きしめながら眠った。
良い出会いだった……。
明けて翌朝――朝食の席で俺はキャスやアニータに、昨日1日どこに行っていたのかと軽く問い詰められる事になったが、青天を見せ、事情を話した。
そしたらキャスの奴、大きさや厚さや形について「変」と言いやがった……。
キャスには青天の凄さが分からんのだ。
だからと言う訳じゃないが、ダニロさんの名前や工房の場所は教えなかった。
ダニロさんの事は、そっとしておきたいしな。
キャスもアニータも深くは追及してこなくて助かった。
さて、今日が滞在最終日になる。
アニータの装備の整備が終わり、受け取りが済めば、この町での用事は全て済む。
明日には王都に向かえる。
ここから王都は2・3日で着けると聞いた。
もうすぐ、アニータともお別れか……。
装備を受け取りに行ったアニータを宿で見送り、部屋でゴロゴロしながらそんな事をチラッと考えた時だった――。
「ジロウ!悪いんだけど一緒に来て!冒険者ギルドの緊急招集が掛かったわ!」
血相を変えたアニータが部屋に駆け込んできた。
ご丁寧に整備が済んだ装備を身に着けて……。
やれやれ、何かは知らんが、どうしてこう厄介が舞い込むのか……。
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