我慢を止めた男の話

DAIMON

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第二十四話『逆転勝利?』

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「……キャス、俺、戻るわ」

「は?どこに?」

「デンゼル」

「はあ!?アンタ何言って――あっ!ちょっと!?」

 キャスの返事は聞かず、俺は走り出した。

 どうにも嫌な予感がする……!

 この村を襲ったリザードマンどもが帝国の差し金だとしたら……帝国は魔物を操る術を持っている事になる。
 なら、南の砦に迫っている帝国軍の戦力は5000じゃ済まない可能性もある。
 それにこうして、砦の近隣の村や町に魔物を嗾けることで、砦への応援の到着を妨害しているとしたら……。

 嫌な想像が連鎖して頭の中を駆け巡る――魔法で脚を強化し、スピードを上げる。

「くそッ!」

 戦争は嫌だ――関わりたくないのは変わらない。
 いや、寧ろさっきの村の凄惨な光景を見て、その気持ちは強くなった。

 しかし、しかしだ。
 その凄惨な光景の中に、知った顔が混ざるのを想像してしまったら、居ても立っても居られなくなった!

 最初から、嫌がらずにあの緊急依頼を受けておけば良かったのか?!
 それとも戦争に関わらない姿勢を貫けば良かったのか?!

「あああ!!畜生ッ!!」

 何が正しかったのか分からない!
 思考が滅茶苦茶で纏まらなくてイライラする!
 全部戦争が悪いんだ!!

 なら戦争を滅茶苦茶にしてやる!!

「うおおおおお!!!」

 俺は苛立ちを振り払う様に、全力で走り続けた――。



 そして夜にはデンゼルの町に辿り着き、町には入らず南へ――デンゼルに来たの道に迷わない為だから、中に入る必要はない。

 デンゼルから南へ通じる道を速度を落とさずに走り続ける。
 体力も魔力も減っている感じがしない。
 このまま全力疾走を続けられれば、明日の昼にはバーグ砦に着けるだろう。

 アニータ達が冒険者ギルドに招集されたのが昨日の朝……聞いているバーグ砦までは馬や馬車を飛ばせば1日半ほどで着ける距離と聞いた……。
 あれからすぐに馬車で出発して、その馬車が馬を交換するなどしてほぼノンストップで砦に向かったとすれば、既にアニータ達は砦に到着――帝国軍の出方次第だが、今頃戦闘が始まっていても不思議ではない。

 間に合うか――せめて俺の予感が外れていてくれればいいが……!

 俺は脚に入れる力と魔力を増やし、更に速度を上げた。
 人目につくかも知れないが、今は知ったことじゃない!



 そうして失踪すること暫く――夜が明け、太陽が昇り始めた頃、砦らしき建物が見えてきた。



「煙っ!?」

 砦から……いや、砦の向こうで煙が上がっている!
 既に戦闘は始まっていた様だ!

 戦況は?!

 走りながら探知魔法を使うと、とんでもない数の反応が砦にほど近い場所に集まっているのを感知した。
 既に砦の目と鼻の先で大混戦になっている模様――前情報では帝国軍は5000程、王国軍は……ギルドで聞く前に帰ったから分からないか。
 しかし、仮に何処かから援軍が来ていて王国軍も同数になっていたとしてもおかしい。

 明らかに1万じゃ済まない数の反応がある!
 しかも、大半の反応が人間のソレじゃない!

 これは悪い予感が当たったかも知れん!

 走りながら愛剣『青天』を構える。
 悠長に砦に入って兵士から事情聞いて~なんてやってられん!
 直接戦場に乗り込むしかない!

 砦から左右に伸びる城壁――結構高いが飛び越えられるか!?
 いや、ここは初めてだが『風魔法』を試す!
 ゴードンやカサンドラから風魔法で空を飛ぶ魔導士もいると聞いている!
 なら俺も飛べるはず!

「飛べ飛べ飛べ飛べーー!!」

 必死に念じると体の周りを風が渦巻いた様な感じがしてきた。
 駆ける脚から重みが消えていき、やがて地面の感触がなくなった!

 俺は飛び上がり、城壁を越える。
 するとその先に、とんでもない光景が広がっていた――!

「な、何だありゃあ……!?」

 見えたのは、骨の大群――地面を埋め尽くすほどの、剣や槍、それに盾などを装備した骸骨!
 骸骨ということは『スケルトン』!?
 やはり帝国軍は魔物で戦力を増強していたか!


 不死アンデットはこの世界にもいる魔物の一種、生物の死体に何かしらの悪霊の類が憑りついて発生する魔物だそうだが、術で意図的に生み出す事も可能という話だ。
 所謂『死霊術ネクロマンシー』と呼ばれるもので、調べた限りでは万国共通で『禁術』扱いの筈だが……。

 いや、そんな考察は今はいい!
 とにかく加勢だ!
 どう見ても劣勢、このままじゃ陥落も時間の問題だ!

「うりゃああぁぁぁ!!!」

 『青天』を振りかぶり、空中から一直線に戦場に飛び込む!
 勢いをそのまま全て乗せて、上段から力の限り振り下ろし骸骨の群れにぶつける!

ズドォォォ!!!

 鈍くも響く音を響かせ、地面が数メートル罅割れたすり鉢状に陥没し、骸骨共も粉々に吹き飛んだ。
 間髪入れず駆け出し、『青天』を横にぶん回して薙ぎ払う。
 動いていても骸骨は骸骨、大した抵抗もなく砕け散った。

 それでも奴らは怯みもせず向かってくる――これが厄介で恐ろしい。
 死を恐れず前進を続ける数の暴力、普通の人間ならどこかで体力が切れて飲み込まれて殺られてしまうだろう。

 どうやっているのか知らないが、こんな数のアンデットを使役できるなんて……道具か術か、いずれにせよ厄介な手段を使いやがって、忌々しい!

「ッ!」

 ワラワラと寄ってくる骸骨を薙ぎ払い続ける。
 魔法でドカンと吹き飛ばせれば楽かもしれないが、人間の気配が散らばっていて、下手に広範囲の魔法を使うと巻き込む恐れがあって使い難い。
 俺は魔法を使い始めて間もないから、制御にまだあんまり自信がない。
 こんな乱戦に近い状態で敵だけを倒す様なコントロールは難しい。
 何とか味方、というか王国軍側の人間を退かせられたらいいんだが、突然現れた俺が退避を呼び掛けても信用されるとは思えない。

 せめて騎士であるアニータがいれば――

「ジロウッ!」

「っ!アニータ!」

 噂をすれば――!

 俺の射程範囲の外、アニータも剣を振るい骸骨を寄せ付けず奮戦している。
 ともあれ無事でよかった!

「来てくれたのね!」

「今更で悪いな!」

「気にしないわ!でもどうして!?」

「他所で武装したリザードマンの群れに襲われた村があった!もしかしたら帝国の作戦かもしれないと思ったんだ!」

「っ!この『竜牙兵』を見るにそれ当たりかもね!」

「竜牙兵!?これスケルトンじゃないのか!?」

「似てるけどちょっと違うのよ!こいつらの頭の角が分かる!?」

 言われて薙ぎ払いながら骸骨の頭を見ると、確かに鬼のような1本の角が生えている。

「確かに角があるな!」

「それが竜牙兵の特徴!こいつらは竜種の魔物の牙を触媒に用いて生成召喚される一種の魔導兵ゴーレムなのよ!」

 という事は、この見た目でもアンデットではないのか。
 スケルトンならまさか王国から攫った奴隷達を生贄にでもしたかと疑ったが、そこだけは取り越し苦労だったか、少しホッとした。

 しかし、アンデットでなくても厄介なのは何も変わらない!

「それにしてもッ!こんな数を呼び出せるほどの触媒や魔力をどうやって賄っているのかしらッ!?尋常じゃないわッ!」

 アニータが戦いながら叫ぶように疑問を口にする。
 言われてみれば確かに気になる……骸骨改め竜牙兵1体辺りにどれくらいの触媒と魔力がいるのかは分からないが、こんな辺りを埋め尽くすほどの数を呼び出すのは尋常じゃない。

 しかし謎解きをしている場合じゃない。
 先ずはこの戦いを乗り越える事だ。

「アニータ!術者を倒せば竜牙兵も消えるか!?」

「消えるけどすぐには消えないわ!供給が途絶えて、触媒に残った魔力が切れるまでは残り続ける!そして与えられた命令に従って動き続ける!」

 消える事は消える訳だ。
 ならやってみる価値はある――というかもうやるしかない!

 受けに回っていたらジリ貧だ!
 何しろ向こう、帝国軍は人間の本隊が丸ごと残っている。
 対してこっち、王国側はどんどん数が減って、応援も来られない可能性が高いのだ。

 この状況を覆せるのは、多分俺だけ――目立つのが嫌だとか、戦争は嫌だとか、色々思う事はあるが、四の五の言っている時間はない!

「アニータ!少し堪えててくれ!」

「えっ!?ちょっ!ジロウ!」

 竜牙兵を薙ぎ払いながら、俺は帝国軍の本陣に向かって走る。
 行手を阻む様に集まってくる竜牙兵――速度を落とさず蹴散らし走る。
 砕け散った竜牙兵の破片が飛び散る。
 
 そして、俺は包囲を抜けた――。

 川の向こう側に、帝国軍の姿が見える。

 走りながら考える――。
 竜牙兵を操っている術者はどこだ?
 どうやって探す?
 探す――探知魔法が使えるか?
 いつもの様に生命反応を探していては他に紛れてしまう。
 なら魔力を辿るのはどうだ?

 やってみる――魔力の流れ、繋がり……竜牙兵達が生み出された魔導兵ゴーレムの一種なら、術者と魔力が似ていたり繋がりがあるはず……謂わば『魔力探知魔法』だ。

「っ!」

 あった!
 竜牙兵に流れる魔力と同質の魔力――それが細い糸の様に伸びて帝国軍の陣地の奥に続いている!
 あの先に、術者がいるのか!

 俺は走り、川を魔法で飛び越え、帝国軍の陣地へと迫った。
 俺の姿を見て、帝国軍の兵士達が動き出す。
 槍と盾を構えた槍兵が前に出てくる。
 その後ろに剣を持った兵士が隊列を組み、その更に後ろに弓矢を構えた弓兵と杖を構えた魔導士がいる。

 先ずは遠距離攻撃で牽制――かと思ったが来ない。
 俺が1人だから、槍兵だけで止まると思われたか。

 残念、俺は飛べる!

 構える槍兵の数十メートル手前で、俺は宙に飛び上がる。
 それを見た帝国軍が乱れるが、無視して魔力の糸の先へ――帝国陣地の上を飛びながら魔力の先を見ると、6人のフードを被った人間が、台座に置かれた紫色に光る直径1メートルはありそうな水晶玉を囲んでいた。

 水晶玉と魔力の糸が繋がっている事から、アレが竜牙兵を操る道具で、周りのが術者だろう。

 見つけたからには叩く!
 『青天』を振りかぶり、空から一気に急降下――全力で水晶玉を粉砕した。

『ぐあぁぁぁッッ!!??』

 威力で水晶玉どころか、置かれていた地面まで砕け散り、陥没し、衝撃で術者6人も吹き飛んだ。
 水晶玉と術者が吹き飛んだ事で、竜牙兵から辿った魔力の糸も消失――これで残る魔力が切れれば竜牙兵は消える。

 だが、ここでアニータ達の所にただ戻るだけでは、帝国軍の本隊が進軍してくるかも知れない。

 だったら行き掛けの駄賃だ――陣地を崩して撤退せざるを得ない状況にしてやる!

 使うのは土魔法――前にヴィンセントが率いていた盗賊を仕留める時に使った落とし穴の魔法――それを帝国軍の陣地全体に使い、あちこちに穴を開け、テントや物資、兵士達を落としていく。

「おわぁあああぁぁ!!??」
「なんだぁあああ!?!?」
「落ちるぅううぅぅ!!??」

 阿鼻叫喚――帝国軍の陣地は穴だらけになり、その穴の中から帝国兵士達の悲鳴が響く。

 これだけ荒らしておけば、ここから王国に攻め込むのは難しいだろう。

「よし」

 粗方穴に落とし、俺は帝国軍陣地を後にした。



 戦場に戻っても竜牙兵は残っていたが、俺が戻ってから大して時間を置かずに竜牙兵が一斉に砂の様に崩れ、戦闘は終了――陣が崩れ帝国軍も撤退していった事で、その場は王国軍の逆転勝利ということになった。


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