隣国は魔法世界

各務みづほ

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復興編

第二十八章 共同戦線-1

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 魔法世界の王都、出入り口の一つ西門付近では、炎子えんし軍が苦戦していた。
 見えない死の軍に対応が出来ず、既に王都内部にも被害が広がりはじめている。
 兵士達は焦っていた。

「炎子将軍、我々だけでは全滅します! 国王軍を呼びましょう!」

 国王は科学世界に向けて軍を進めている最中で、王都にはいない。
 元科学世界の領土での内乱を鎮圧しに向かっているのだ。魔法への権威を示さねばならず、国王は軍の大半をそちらに向けていた。
 代わりにララの街の南聖が、全魔法使いに王都危機の発信をしてくれているのだが、先の戦争によりどこも人手不足の状況で、遠い王都にまで戦力や人手をさく余裕などない。

 炎子は困り果てていた。
 もう兵士達も体力、魔力の限界である。国王への不満の声もちらほら上がり始めていた。
 新しい領土を手に入れても、王都が壊滅してしまっては元も子もないではないか、と。

 現在ララを除く街は四聖が不在で、その代わりに将軍がプラス二、三人体制でそれぞれの街の守護にあたっている。
 王都は一番大きく、国王軍に加え更に三名の将軍が配属されていたが、その国王軍とともにもう二名の将軍達は進軍しており不在。現在王都の守護の任に就いているのは炎子軍のみだ。
 そして自軍の兵士はともかく、そんな民たちにーー例えば宮廷魔法使いのように、絶対の信頼感を与えることは炎子には出来なかった。
 四聖と一将軍では、格の違いは元より実力の差が半端ない。だからこそ四聖が自分の守る街を持てるのである。
 民たちの不安はもっともなのだった。

 と、そこで王都危機情報発信が止まり、代わりに南聖から信じがたい連絡が届く。
「東聖ディルシャルクより通達、すぐに向かう、それまで絶対に持ちこたえよ、これは命令である」と。

「ディルシャルク殿が? まさか……」

 もし本当ならば、これ以上に心強いことはない。
 その存在感や魔法力は元より、兵や民たちの統率力、信頼感など、この王都において最強の存在だからだ。
 しかし、生きておいでなのか、と兵達からも疑問の声が湧き上がる。
 それでも、これは他でもない南聖マナフィからの通信であり、東聖ディルシャルクの命令だ。
 炎子はすぐに兵に通達した。

「皆の者、じきに心強い御方、東聖ディルシャルク様が戻られる! それまで何人たりとも倒れることは許さん! 全力で王都を守りきれ!」

 あちこちからどよめきと、希望の光が僅かながら生まれる。
 疑惑の目もあったが、それに突き詰めている余裕はない。兵達はそれぞれに最後の力を振り絞った。

 しかしそれも程なくして限界がやって来る。炎子はまずいと思った。
 すぐ横にいた兵の一人の集中力が途切れる。その隙をついた敵の攻撃に、炎子が即座に反応し、慌てて防御結界を前方に展開した。
 その時すぐ脇から突然光線が生まれる。
 炎子は咄嗟に目を閉じた。祈る気持ちで避けられないだろう攻撃に覚悟を決める。

 バシュッと、そこに突然、何かを跳ね返したような音が聞こえた。
 同時に上方から聞き覚えのある声が降ってくる。

「炎子! 目ぇ閉じてどうする! しっかり攻撃を見ろ!」

 叱咤の声。
 見ると、もういない筈の待ち望んだ人物が目の前に着地するところだった。
 その場にいた兵士や民達が、炎子よりも早くそれぞれ歓声を上げた。

「東聖様、東聖様だ!」
「おーい、みんな! ディルクだ! ディルクが帰って来た!」

 ディルクは皆に顔を向けて確認すると、再び炎子のほうを向く。
 皆に続いて炎子も、驚いた顔をしたままようやく口を開いた。

「ディルシャルク殿! よく、ご無事でお戻りに……っ」

 思わず涙さえ浮かべそうになるのをぐっと堪える。
 ディルクはその様子にほっと苦笑し、即座に敵に目を向け気を引き締めた。

「気を緩めるのは後だ、後! 今はあいつらを何とかするのが先だろ!」

 ディルクはライサから貰った目薬を、炎子に向かってポンと投げる。
 研究室のプラッテをあてがわれたライサは、以前作った目を変える薬品を、今度は目薬として開発していた。
 目薬の瓶は魔法使いにも見えるよう、虫の抜け殻が使われている。
 炎子は咄嗟にそれを受け止めた。

「そいつを一滴、片方の目につけろ。数分すれば見えるようになる」

 言うと、ディルクは即座に辺り一面に防御結界を生み出した。
 その場にいた人たちを全てスッポリ取り囲むほどの巨大な結界である。
 炎子はその魔法力にあらためて感心すると、右目に一滴目薬をつけた。だんだん右目の視界が変わってくる。
 見えるものが違うので見難い事この上なかったが、左目もつけたらディルクと違い魔法が使えなくなってしまうだろう。

(これは長時間は使えないな。目が悪くなりそうだ)

 炎子は苦笑すると、突然見えるようになった得体の知れない機械達に、怒りの攻撃呪文をぶっ放した。


  ◇◆◇◆◇


「ようこそ、ユースティン博士。よく戻られました」

 してやったりといった表情をしたヒスターがライサを出迎えるが、彼女はちらりと一瞥しただけだった。
 王宮の廊下を無言でスタスタと歩いて行く。国王に逆らったといって罰を受けても構わない。
 なにより先に、急いでしなければならないことがある。
 それでも横から妻だの嫁だの結婚だの羅列する彼に、ライサは思わず足を止めた。

「ヒスター様」

 彼女は低い声で名を呼んだ。初めて聞く、迫力のある声にヒスターは思わず怯む。
 それは、以前の頼りない少女のような声ではない、女性の声。
 彼女はくるりと振り向きヒスターを見据える。彼は驚きのあまり声も出なかった。

「ヒスター様、私は科学世界の宮廷博士としての責務を果たすために、王宮に戻ってまいりました。決して貴方に嫁ぐためではありません。まだ戦争の決着はついておらず、皆苦しい思いをしているのです。以後、軽はずみな発言はお控えいただきますようお願い申し上げます」

 きっぱりと言い切ると、さっさと王宮の研究機関へと足を運ぶ。
 ヒスターはその物言いに大変腹を立て、憤怒の骨頂にあった。即座に彼女を追いかけ、その手を強引に掴む。
 そしてまたもや力づくで無理矢理口づけをしようとする。

 バチバチッと、ヒスターは突然発生した電撃に仰け反った。痺れが全身を駆け抜け、しばらく動けなくなる。
 慌てて見返すが、彼女は特に物騒なものは持っていない。

「く、くそ! なんだ今の!」

 ライサは驚きの表情を浮かべたが、次の瞬間顔がにやけそうになり、慌てて振り向いて去って行く。

(ディルクだ……守ってくれてる!)

 二人で計画を立て、いざ実行に移す時期が訪れると、ディルクはひとつ彼女に魔法をかけた。
 ライサは、スタンガンとか護身銃とか持っていくし一人になっても大丈夫と言ったのだが、相手はヒスターだ。
 なんだかんだ言ってもディルクは心配だった。またライサを傷つけられるのは絶対に嫌だと言った。
 そしてこの守護魔法をかけてくれたのだ。

 効果は短い。効いている間に片付けたい。
 ライサは廊下を急いだ。
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