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日乃本 義に手を出すな
肆
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ついに、出立の時が来てしまった。
慌てて引っ張り出してきたぶかぶかのスーツは兄のお下がりで、何とも着心地が悪い。
「柾彦、頼んだよ、ぴよこりん饅頭」
「栗羊羹も忘れないでね」
「みんな俺より土産の心配ばっかりだな」
「柾彦お兄さま…、無事にお戻りになられるよう、お祈りしております」
優しいのは木綿子だけだ。
「そして…東喬大神宮の恋愛成就御守を、必ずや買って帰ってきて下さいまし…!!」
…木綿子、お前もか。柾彦はがくりと項垂れた。
「木綿子…確かに御守は買ってきてやるつもりでいるが、お前、そろそろちゃんと長谷川に直接告ったらどうなんだ」
木綿子は顔を真っ赤にして、首をふるふると横に振った。
「そ、そんな…!長谷川さまに直接だなんて、今のわたくしには」
「長谷川は俺の友人なんだから、いくらでも会う機会を作ってやると言ってるのに…。わかった、ペアの御守を買ってくるから、片方お前からあいつに渡せ」
「ぺ、ペア!?無理無理無理ですっ、お兄さまから渡してくださいまし!」
「俺が長谷川にそんなん渡したら気持ち悪いだろ」
余談だが、長谷川という男は柾彦が赤子の頃からの幼馴染で、二軒隣に住んでいる平民出身の医大生だ。
小学校時代までは典型的な肥満体型だったが、成長と共に引き締まり、いつの間にか、大柄でがっちりとした見た目の好青年へと変わっていた。
外見に大きな変化のあった長谷川だが、穏やかで心優しい性格は昔から変わらず、木綿子は彼が肥満児だった頃からかれこれ十年以上も恋い慕っている。
今回の縁談が揉めに揉めたのには、木綿子が長谷川に一途なだけでなく、異性に対して外見や家柄の良さなど全く求めていないという点も、大きく影響していたに違いない。
「ほらっ、そろそろ行くわよ、柾ちゃん。
最寄駅からだと電車賃が高くなるから、三駅先のところまで車で送っていくわ。
最安値のルート書いておいたから、少し時間はかかるけど、この方法で階川駅まで行くのよ。いいわね?」
絹枝にメモを渡されると、肩をバシッと叩かれた。
「おふくろは本当ケチだよな」
「節約上手と言って頂戴な。帰りもあまり遅くならないようにするのよ?新幹線使わないといけなくなるから。
それと…」
「それと?」
「東京ばなニャン、限定でチョコ味が出てるらしいのよ。プレーンと両方買ってきてね」
「……へいへい」
柾彦は父と兄、そして目の腫れが未だに引いていない妹に向かって、
「それじゃあ、行ってきます」
と声を掛けると、絹枝の運転する車に乗り込んだ。
慌てて引っ張り出してきたぶかぶかのスーツは兄のお下がりで、何とも着心地が悪い。
「柾彦、頼んだよ、ぴよこりん饅頭」
「栗羊羹も忘れないでね」
「みんな俺より土産の心配ばっかりだな」
「柾彦お兄さま…、無事にお戻りになられるよう、お祈りしております」
優しいのは木綿子だけだ。
「そして…東喬大神宮の恋愛成就御守を、必ずや買って帰ってきて下さいまし…!!」
…木綿子、お前もか。柾彦はがくりと項垂れた。
「木綿子…確かに御守は買ってきてやるつもりでいるが、お前、そろそろちゃんと長谷川に直接告ったらどうなんだ」
木綿子は顔を真っ赤にして、首をふるふると横に振った。
「そ、そんな…!長谷川さまに直接だなんて、今のわたくしには」
「長谷川は俺の友人なんだから、いくらでも会う機会を作ってやると言ってるのに…。わかった、ペアの御守を買ってくるから、片方お前からあいつに渡せ」
「ぺ、ペア!?無理無理無理ですっ、お兄さまから渡してくださいまし!」
「俺が長谷川にそんなん渡したら気持ち悪いだろ」
余談だが、長谷川という男は柾彦が赤子の頃からの幼馴染で、二軒隣に住んでいる平民出身の医大生だ。
小学校時代までは典型的な肥満体型だったが、成長と共に引き締まり、いつの間にか、大柄でがっちりとした見た目の好青年へと変わっていた。
外見に大きな変化のあった長谷川だが、穏やかで心優しい性格は昔から変わらず、木綿子は彼が肥満児だった頃からかれこれ十年以上も恋い慕っている。
今回の縁談が揉めに揉めたのには、木綿子が長谷川に一途なだけでなく、異性に対して外見や家柄の良さなど全く求めていないという点も、大きく影響していたに違いない。
「ほらっ、そろそろ行くわよ、柾ちゃん。
最寄駅からだと電車賃が高くなるから、三駅先のところまで車で送っていくわ。
最安値のルート書いておいたから、少し時間はかかるけど、この方法で階川駅まで行くのよ。いいわね?」
絹枝にメモを渡されると、肩をバシッと叩かれた。
「おふくろは本当ケチだよな」
「節約上手と言って頂戴な。帰りもあまり遅くならないようにするのよ?新幹線使わないといけなくなるから。
それと…」
「それと?」
「東京ばなニャン、限定でチョコ味が出てるらしいのよ。プレーンと両方買ってきてね」
「……へいへい」
柾彦は父と兄、そして目の腫れが未だに引いていない妹に向かって、
「それじゃあ、行ってきます」
と声を掛けると、絹枝の運転する車に乗り込んだ。
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