【本篇完結】日乃本 義(ひのもと ただし)に手を出すな ―第二皇子の婚約者選定会―

ういの

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日乃本 義に手を出すな

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「…どういう事ですの?柾彦まさひこお兄さま」
 木綿子ゆうこいぶかしげに顔を上げて訊ねると、ハッと思いついたように柾彦を見た。
「まさか、お兄さまが女装して…」
「そんな事する訳ないだろ」
 柾彦は木綿子の突拍子もない発言をすぐさま否定すると、招待状のとある一文を指差した。
「これを見て、何か気付かないか?」
 

『参加資格および参加者は、十五歳から十九歳までの健康な子女、一名とする』
 

「子女の『子』は、息子って意味だろ。
 ならば、俺が行っても問題ないよな?」
 

「…は?何を言ってるんだ、柾彦」
「どう考えても招待状それは、十七歳の木綿子に宛てられたものだろう」
 狐に摘まれたような表情で固まる父と、悩ましげにこめかみを押さえる兄に、柾彦は反論した。

「この国では、確か数年前から同性婚が認められていたよな?
 法律で認められてる手前、やむを得ずかもしれないが、敢えて『子女』なんて表現を使ってるんだ。
 天下の第二皇子様が、まさか自分の国の法律を知らないわけ、ないよな?
 幸いにも俺はもうすぐ二十歳になるが、当日はまだ十九歳だ。参加資格は一応、満たしている」

「柾彦お兄さま…」
 木綿子が、希望と不安、両方を孕んだ眼差しを柾彦に向けた。
「木綿子、大丈夫だ。見た目も中身も凡庸な、田舎の貧乏華族の男なんてどうせ誰も相手にしない。
 皇族様のセレブなパーティーで、うまいもんを楽しく、腹一杯食べて帰ってくるさ」
 柾彦は木綿子の頭を優しくポン、と叩くと、わしゃわしゃと髪を撫でた。

 重苦しい表情で押し黙っていた桐彦が、口を開いた。
「柾彦」
「…なに?」
「今回はお前に相当な負担を掛けてしまう事になって、…兄として何も力になれなくて、本当にすまない。
 明日は木綿子の代わりに、東喬とうきょうに行ってきてくれ」
 桐彦が畏まり、頭を下げた。
「ああ、任せとけって。ついでに時間があったら観光もしてくるかな」
「柾彦」
 今度は竹彦が、柾彦に話しかけた。
「なんだよ、親父まで」
 竹彦は両手を組んで、祈るようなポーズを取ると、
「観光に行くなら…余った交通費ぶんのお金で、お土産にぴよこりん饅頭を買ってきてくれないか?」
 可愛げの欠片もない潤んだ瞳で、柾彦に懇願した。

「……は?ぴよこりん饅頭?」
「今日の昼にテレビで特集されてるのを見てね、美味しそうだったから」
 竹彦がポリポリと頬を掻き、へにゃりと人の良さそうな笑みを浮かべた。
「僕は舟杷ふなわの栗羊羹を」
「わっ、わたくしには、かの有名な東喬大神宮とうきょうだいじんぐうの恋愛成就御守をお願い致します…!!」

 柾彦が行くと決まるや否や、家族は次々と土産物のリクエストを好き放題言い始めた。
「おい、俺が行くんだから、余った交通費は俺のもんだろ!」
「とか言ってちゃんと買ってきてくれるのが、まさちゃんなのよね」
「! おふくろ」
 夕餉ゆうげの支度で席を外していた母、絹枝きぬえが居間に戻ってきた。
 
「みんな、ご飯できたわよ。
 柾ちゃん、私には東喬とうきょうバナにゃん、お願いね」
 
 
 
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